#063 第七階層開放計画
――コンコン――
「お待たせしました。恭弥です」
「あぁ、キョーヤ君、入ってくれ」
美穂と会っても何も起きず、安堵していたところ…………間髪入れずに冒険者ギルドに呼び出されてしまった。本人に悪気が無いのは分かっているが、本当に美穂の巡りあわせの悪さは神がかっている。
「久しぶり、裁判の時以来かな。そっちも色々あると思うけど、"みんな寂しがってる"から、たまには寮に顔をだせよな」
そんなヤツが何処に居るのか知らないが、取りあえず"光彦"の寝言はスルーしておく。
「それで、なんの御用でしょうか?」
「あぁ悪いね。急に呼び出してしまって。ミツヒコ君たちが第七階層解放に向けて……。……」
余談だが実は小学生までは立場が逆で、引っ込み思案でイジメられっ子だった美穂を、当時人気者だった俺が庇う形だった。美穂が窮地に追いやられると俺を頼るのは、そんな幼少期のすり込みから来るところが大きい。
まぁ、イジメと言っても実は可愛いもので『好きな女の子に対して素直になれず、悪戯しちゃう』ってヤツで、俺にベッタリだったこともあってフォローしてくれる女友達も居なかった。しかし、当の本人は可愛い悪戯も死活問題。他人、特に俺以外の男性は怖くて仕方なかったようだ。
しかしその状態は、中学で一変する。流石に幼稚な悪戯をするような歳でも無いし、友達が出来れば監視の目も増え、何かあってもフォローしてくれる。対して俺は当時、アニメやゲームにドハマりして、オタクグループに分類され、狭い交友関係を築き…………気がつけば美穂と接点の無い生活が続いた。
「それで、たまたま袋小路で遭遇しちゃってね。やむを得ず戦闘になったんだ」
「そしてミツヒコ君は、新たなギフトが覚醒して、その窮地を乗り越えた」
「あ、あぁ、そうですか」
いけない、殆ど話を聞いていなかった。たしか光彦が『ボスを倒した』んだっけ?
「知っていると思うが、ゲートキーパーと戦うには幾つか条件がある。その条件を満たす計画が、今回の一件で前倒しになりそうなんだよ」
各階層の9Fを守るゲートキーパーは『行けばいつでも挑める』と言うものでは無い。各階のボスのリスポーン間隔は約30日なのだが、挑戦するにはその階層のボスを全て"討伐状態"にする必要があり、逆に言えば他のボスが1体でも残っていればゲートは開かず、つまり安全な状態を維持できるわけだ。そのため普段は何体か(大抵は水棲個体)のボスが"交戦不可"に指定され、外周に放置されている。
問題なのはココからで、不慮の事故で光彦が討伐不可のボスを倒してしまった。それ自体は不可抗力であり、他にも討伐不可のボスが残っているので責められることは無いのだが…………結果としてゲートキーパーに挑む"日"が早まりそうなのだ。
「確かに早く解放するのが危険なのは分かるけど、今の"1日"ってのは流石に短すぎると思わないか?」
59Fのゲートキーパーは、過去に1度だけ挑戦した記録が残っている。前回召喚された勇者が挑み…………そして完敗した。しかし、不幸中の幸いか、ゲートキーパーが解き放たれる事はなくゲートは再び閉じられた。
当然ながらギルドも、初戦で敗北するのは予想しており『ボスを倒すタイミングを調整して1日だけゲートが開く』ようにしていたのだ。
「しかし、危険では無いですか? "基本的には"出てこないと言っても、相手を追いかける過程で、外に出てくる可能性があります」
魔物は、自分がスポーンしたエリアの環境に適応しており、基本的に他の階には出ない。しかし、相手を追いかける過程で階を跨ぐことは普通に起き得る事。それでもザコなら倒せばいいし、なんなら他の階の魔物と争って勝手に死んでくれるので大きな問題になる事は無い。
しかしその階層の最強存在であるゲートキーパーは、そうはいかない。周囲に居合わせたザコは、種族を無視してゲートキーパーの配下にくわわる。最悪そのまま階を降りてキャンプ地を襲う可能性すらあるのだ。
「しかし、1日だけじゃ充分な準備が……」
「
たしかに、相手を観察する時間は欲しい。なんなら、わざと階を出して"地形ハメ"で倒すのもアリだ。俺もこれがゲームなら、迷わずその選択を選ぶだろう。
「それはだね、コチラにも"事情"があってね。リスクは承知しているが、最善を尽くしてほしいと思っている」
まぁ、国から圧力を掛けられているって所だろう。国際法で直接関与できないと言っても、返せばそれは『間接的ならOK』って事だ。
「それに、恭弥も分かっているだろ? ゲートキーパーに挑むチャンスは、年に何回もあるものじゃない。今の方法じゃ、地球に帰れるのは何年後になるか……」
ボスのリスポーンが30日間隔なら『30日に1回挑戦できる』ように思えるが、他の階のボスもそれなりに強く、倒すのには相応の準備や"犠牲"が必要になる。挑戦できる期間を1日に絞ると、どうしても調整が必要で、年1~2が限度になるそうだ。
仮に倒せたとしても、まだ10億を稼ぐ工程があるので、光彦としては早く解放したいだけでなく、調整の手間を"緩くしたい"ようだ。
「それでだ、キョーヤ君。キミにはミツ……」
「嫌です!!」
「「!!」」
反射的に大声を出してしまった。AとBが嫌われながらも俺を選ぶように、俺にだって"相性"がある。ハッキリ言って光彦は生理的に無理。それならAとB、なんなら美穂の面倒を見ていた方がマシに思えるレベルだ。
「まてまて、俺たち"友達"だろ?」
「違います」
「仲間思いのお前の事だ、危険なボスに挑んで被害が拡大する事を危惧しているのは分かる」
「仲間にお前たちは含まれていないので、どうぞ勝手に死んでください」
「そうやってクールぶってるけど、結局最後は助けてくれるんだもんな~」
「後腐れなく別れたいだけだ」
「安心しろって。俺が何とかする! 俺のギフトが"ボス戦向き"なの、知ってるだろ? それに、今は俺の呼びかけに賛同してくれた仲間が沢山居る!!」
「洗脳乙」
「大丈夫だって! みんなで力を合わせて、ボスを打ち破ろう!!」
「もしかして、キミたち仲がいいのでは?」
「はい!」「違います!!」
そんなこんなで、この場はグダグダになってしまったが、どうやら第七階層解放クエストの方針が若干変わり、俺も呼ばれる可能性が高まった。
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