俺はこの理不尽な異世界に逆らわずに生きていく！

#064 策謀

「おい！　話が違うじゃねぇか！　なんで光彦の野郎を活躍させてんだよ！！？」

「俺たちは依頼を果たした。結果としてアイツがそれを乗り越えただけで、俺たちに落ち度はない」

「はぁ？　調子乗ってんじゃねぇぞ！　最初にアレだけ息巻いていたくせに！！」

「悪いがあの"金額"で出来るのはココまでだ」

「んだとこらぁ！」

「やめとけ信二、クールじゃないぜ」

　人気のない荒野で、３人の男が口論を繰り広げる。

「チッ！　栄子や美玲も金を渋るようになっちまったし、どいつもこいつも足引っ張りやがって！！」

「それなら自分で稼いだらどうだ？　一応、召喚勇者としてソコソコ戦えるんだろ？？」

「それが出来たら！！」

　召喚勇者と言えど、体や精神を鍛えなければ本格的な戦闘には対応できない。今はギフトの効果で、一時的に恐怖心を取り払い、本能的な"勘"を最大限引き出すことで乗り越えてきたが…………第六階層の難易度でソレを使うのはリスクが高すぎる。このままではゲートキーパーと言わず、普段の戦闘ですら事故死しかねない状況なのだ。

　それなら地道に体を鍛えるしかないのだが、それが出来るのなら２人はこんな状況には陥ってはいない。

「まぁいいや。金が用意出来たら、また呼んでくれ」

　そう言って男は立ち去る。

「つかさ、大悟」

「ん？　どうした？？」

「お前、役に立ってなくね？」

「……ソレを言うなら、お前なんて俺が背中を押してやらなければ、ビビッて何もできないじゃないか」

「「…………」」

　険悪な雰囲気に包まれる。それまで２人は、他人を利用し、蔑むことで自身のプライドを保ってきた。資金も尽きて協力者がいなくなった２人の矛先が向くのは…………今まで共に歩んできた相方であった。

「たく！　キモオタさえ手ゴマに出来ていたら！！」

「あぁ。アイツは金を持っているし、戦闘能力も可成りのものらしいからな」

「つか、本当に恭弥って強いのか？　低い階層でシコシコやってるだけのチキンじゃねぇか。俺は嫌だぜ、ザコに足を引っ張られるのは」

「美玲が言う限りでは、"光彦以上"と評価しているヤツもいるそうだ。流石にそんな事は無いと思うがな」

「美玲のギフトも、あれで当てにならないからな……」

「だな。さて！　そろそろ戻らないか？　また抜け出していた事がバレたら、今度はどんな説教を喰らうか……」

「「…………」」

　青白い顔で渋々立ち上がる。２人は現在『狩りを終え、寮で休んでいる』事になっている。しかし、度重なる抜け出しがバレ、拘束は厳しくなり、お説教や"友情語り"の時間は日に日に増していた。

　むしろ、２人を追い込んでいる１番の原因は、その友情語りであったのだ。

「チッ！　ウルフか」

「低い階層でも、やはりダンジョン内は面倒だな」

「だからって、キャンプ地で会う訳にもいかないだろ？」

　魔物を前に悠長に語り合う２人。彼らは戦闘が得意ではないにせよ、日々最前線で戦う事で得られた知識と"慣れ"があった。

「＜野生解放（ギフト）＞、使っておくか？」

「いや、まぁこのくらいなら余裕だろ」

「だな」

＊

「まだ２人は見つからないのか！？」

「ダメです。変装して、第三階層に出たところまでは掴めているのですが…………そこから先は"臭い"が途切れていまして」

　獣人系の警備兵が答える。その報告を受けるのは、警備隊の指揮官であるゴルドフだ。

「そんな、アイツラまた……」

「まったく、また、キミは２人を放置したのかね？」

「いや、それは……」

　言い淀むのは光彦。彼は本来『同じパーティーで共に行動する』事を約束している。しかし、実際には大勢になり過ぎたパーティーを分ける形で、現地では殆ど別れて行動していた。加えて、軟禁や監視もしていない事から、たびたび"抜け出し"を許していた。

「彼らの鼻は確かだ。第三階層に出たのは間違いないだろう。そうなると、もう……」

　２人が行方不明になってから１日が経過した。これが街中なら、どこかで酔い潰れているか、あるいは戦いが嫌になって隠れている、などが考えられるが…………ダンジョン内でとなると、一変して"生存"が危ぶまれる。

「待ってください！　２人はちょっとプレッシャーに負けて逃げ出しただけです！　言っても第三階層でしょ？　隠れて自給自足しているだけですよ！　すぐに捜索隊を組織してください！！」

「捜索隊は組織する。しかし、あまり期待はしない方がいい。１人、平然とダンジョン内で寝起きをしている者がいるが、アレは充分な人数や、高度な精神鍛練をつんで、初めて出来る芸当だ」

　ゲームと違い、魔物は無防備な相手には容赦なく急所をついてくる。もし２人同時に寝落ちしようものなら…………臭いを嗅ぎつけた魔物に喉を喰いちぎられ、即死となるだろう。

「ですが！　まだ１晩たっただけです！！」

「冒険者ギルドには、捜索クエストを申請しておく」

「いや、貴方方は！？」

「我々は規則でダンジョン内での作戦行動は出来ない」

　警備隊の所属は"国"であり、国軍兵士だ。キャンプ地の警備は、冒険者ギルドから依頼を受けて間接的に協力しているだけで、ダンジョン内での作戦行動は許可されていない。

「くそっ！　これだから役人は！！」

「「…………」」

　見切りをつけて光彦が駆けだす。そして警備隊の一同が、その背中を無言で見守る。

　しかし、信二と大悟の姿が…………見つかる事は無かった。