#085 ゲートキーパー戦、その後

「重い」

「ん~、ボス、おはよ~」

「はっ!? ルビー! あれほど!!」


 俺はイリーナに投げ飛ばされて、宙を舞うルビーの姿を見ながら目を覚ます。


 場所は…………そうだ、ここは俺の部屋のベッドの上だ。あまりにも使っていなかったので、未だに実感がわかない。


「さて、とりあえず……」

「待ってください! 今、車椅子を用意しますから!!」

「いや、無理をしなければ別に」

「ダメです!」

「はいはい」


 強引に車椅子に押し付けられる。トイレに行きたいだけなので、出来れば一人にしてほしいのだが……。


 ゲートキーパー戦から3日の時が過ぎた。


 あの時、俺はYマンティコアのラストスキルと、ロゼさんの爆裂浣腸エクスプロージョン エネマの余波を受け、生死の境を彷徨った。しかし、現世に未練もあった事から、俺は何とか意識を取り戻した。


 何と言うか…………験担ぎもバカにできないものである。流石に傷が深すぎたのか、回復薬だけでは調子は戻り切らず、今は自宅療養中だ。


「なぁ、ボス! 今日は何するんだ!?」

「まずはトイレに行きたいんだが、その前に…………服は、着ておきたいな」


 一応、ゲートキーパーは倒し、第七階層は解放されたのだが…………作戦は50人以上の死者を出す大惨事となり、様々な問題を生む、苦い勝利となった。





「……てね、大変な状態なんだよね」


 食事を済ませ、ウチの工房で、先生や博士と"上で"起きている事について話す。


 あれから光彦信者は"命令違反"により『冒険者ランク、2段階格下げ』の処分がくだされた。別に、罰金とかは無いので直接的な被害は無いが、それでも"身一つ"で生計を立てていく冒険者にとって、年齢不相応のランクは何かと(指名依頼の斡旋が無くなるなど)都合が悪い。


「でもまぁ、買い取る形で収まったんですよね?」

「うん。"今度は"直ぐに集まったみたい」


 そして光彦は、命令違反の主犯として裁判にかけられ、そのまま有罪となった。そのせいで信者が暴動や座り込みなどの騒ぎを起こしたが…………協定に基づき、奴隷化からの100万で、あっさり出所してしまった。


 まぁ、『処刑すべき』と言う声もあったが、アッチは俺なんて比べ物にならないくらいの致命傷で…………今はデブと"合体"する事で、なんとか生きている状態らしく、その姿はお偉いさんの留飲を下げるのには充分だったようだ。。


「うっ……」

「大丈夫!?」

「いえ、体"は"大丈夫ですから」

「??」


 なんか、想像したら死ぬよりも辛い地獄が見えてしまった。


「助手、これ」

「なにこれ?」


 博士に小さな容器を幾つか押し付けられたが、ラベルもない(多分)手作りの薬品なので中身が全く想像できない。


「回復薬」

「あぁ、それ。立花ちゃんが最近徹夜で作っていたやつね」

「褒めていいぞ」

「あ、あぁ、ありがとう。使わせてもらうよ」


 基本的に回復薬は『瓶入りの液体』なのだが、手渡された回復薬はその限りではない。多分、ノルンさんの蔵書にあった"特殊な回復薬"を調合してくれたのだろう。


 俺の体には、回復薬で治しきれなかった傷痕が幾つも残っている。別に、傷痕くらいどうでもいいのだが、まだ本調子でないのも事実なので、有難く貰っておく。


「おう、ここに居たか」

「えっと、リ、リ、リ…………リリーサ様!」

「どうした。まだ、調子が戻らんか?」

「「…………」」


 現れたのは、金髪ツインテールの美少女。なぜか2人が『あ、コイツ、また名前忘れたな』みたいな目で見てくるが、多分それは気のせいなのでスルーする。


「はい。まだ少しだけ、記憶に霞が……」

「そうか。まぁ、なんだ。その…………お前はよくやった。私からも、国やギルドに便宜を図るよう申し出ておいたから、しばらくは養生に専念するがよい」

「ご配慮、感謝します」


 うん、我ながら、完璧な返しであった。


「それでだ、ちと急用が入ってな。直ぐに立つこととなった」

「「え!?」」


 リリーサ様は、俺の許嫁のような立場だが、それとは別に貴族であり軍人だ。もともとユグドラシルに来た理由もゲートキーパー戦の事があったからであり、近日中に帰る事になっていた。


「どうも、近くの村が魔物に襲われたそうでな、その事後処理に向かうのだ」

「それは…………何と言ったらいいか」


 この世界で魔物絡みの災害は、台風などの天災と同じような感覚で扱われている。


 それはともかく、いつにも増して真剣な表情のリリーサ様。役割的には『立会人として各地に飛ばされる中間管理職』なのだろうが、それでも平民の不幸を案じられる彼女には…………出世して"上に立つ人"になって欲しいと思ってしまう。


「リリーサ様」

「ん? なんだ??」

「自分に出来る事なら、出来る限り協力するので…………どうぞ、信念に基づいて行動してください」

「ふん! 分かっているなら、それでよいのだ!!」

「え? えぇ??」


 状況を理解していない先生が困惑する。


 村が襲われたと言う事は、少なからず"行き場を失う者"が出るだろう。そうなった時、この国のシステムでは…………冒険者になって自力で生きていくか、奴隷落ちするしかない。




 そんなこんなで俺は、リリーサ様を見送った。


 第二章、完。

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