#109 実習試験④

「この流れで行けば、最終指令は戦闘系ですよね?」

「でしょうね。流石に、魔物との戦闘が無いのは、考えにくいかと」


 最終チェックポイント。この場がゴールも兼ねているので、この指令をクリアしたら試験は終わり…………翌日には、学園関係者は全員帰ってしまう。


「どうだろうな……」

「え? キョーヤさんは、無いと思うんですか??」

「戦闘はあるだろうが、"魔物との"ってなると、怪しいと思うぞ」

「「あぁ……」」


 ザコとは言え、すでに同階層の魔物と充分な戦闘をこなしており、その証拠となるドロップ品も持ち帰っている。『別の階層に移動して……』とかならまだ分かるが、この階に出現する魔物では物足りないし、何より"試験"として不確定要素が多過ぎる。


「フフフ、それでは、最後の指令を発表しよう」

「「…………」」


 ロゼさんに誘導され、(チェックポイントとして指定された場所から)離れた場所にやってきた。特に何もない開けた岩場であり、見方によっては"闘技場"に見えなくもない。


「最後の指令は…………私! 紅蓮の薔薇の討伐だ!!」

「「…………」」


 正直、道中でこの展開は察しがついていた。わざわざ移動したのは、他の班とタイミングが被る事を想定しての事。『誰と戦うか』はランダムだと思われるが…………どうも俺たちの班は、"最強ラスボス"を引き当ててしまったようだ。


「フフフ、もう少し驚いて貰えると嬉しかったんだが…………まぁいい。この"ネックレス"を装備してくれ。これが壊れたら"負け"になるから」


 配られたネックレスは、魔法ダメージを吸収する装備で、一定以上のダメージを蓄積すると壊れてしまう。これの破壊を持って勝敗を決める流れになる。つまり俺や鞭子が、物理ダメージでロゼさんを倒しても"勝ち"にはならない訳だ。


 つまるところ『魔法攻撃をクリーンヒットさせれば勝ち』って感じだ。


「あの、サブミッションはどうなるのでしょうか?」

「あぁ、言っていなかったね。サブは"1人でクリアする"だ!」

「「えぇ……」」


 手加減はしてもらえるだろうが、戦闘スタイルによっては完全に詰む可能性がある。つか、その詰んでしまうスタイルの筆頭が、純粋な後衛魔法使いである現金だろう。逆に有利なのが、前衛としても戦えるセレナで、続いて属性的に相性がいいメェルとなる。(男は知らん)


「すいません。サブは捨てます。3人でいきましょう!」

「そうですね。流石に上位互換のような人に、ソロで挑むのは自殺行為かと」


 もちろん『可能性が無い』とは言わないが、それで負けては最後の指令は"失敗"になってしまう。


 冒険者にとっての"本当の失敗"は、クエストの未達成では無い。学校のテストと違い、現実のクエストには達成不可能なものも存在する。そんな中で、もっとも恐れるべきは死やそれに近い重症を負う事であり…………試験でも、死に相当する"敗北"は大きな減点対象に設定されているはずだ。


「それしかないだろうな。俺が1人でクリアする訳にもいかないだろうし」

「そう言えば、1人としか言っていませんでしたね」


 生徒の試験なので(意味が無い事は理解しているが)一応…………俺なら魔法も使えるので、有利がとれる。もちろん、そうなるとロゼさんも相応に本気を出してくるだろう。


「フフフ、流石にそれだと試験にならないね。でも、評価点を捨てるなら"アリ"な判断だと思うよ」

「アリなんですね……」

「多分、失敗するよりは"マシ"ってだけかと」

「個人的には、歓迎だけどね。昨夜の"お礼"もある事だし。フフフ、フフフフフフ……」

「「…………」」


 2人の視線が痛い。


 やはり、ロゼさんは昨夜の事を怒っているようだ。俺としてはイリーナも含めて大勢の目もあったので"抗う"選択を選んでしまったが…………ロゼさん的には、状況に流される形で、本気で最後までするつもりだったようだ。


「よし、3人で頑張ろう!」

「「…………」」

「いや、まぁ、3人で挑みますけど…………キョーヤ様は、あとで確りロゼ様に謝罪する事をお勧めします」

「そうですね。イリーナさんはともかく、ルビーさんは許可していたのに、怖気づいたキョーヤさんが悪いです」

「ちょっ!」


 当事者の1人である鞭子までもが敵に回る。あの時は、俺以上に反対していたのに、だ。


「作戦会議は終わったようだね」

「えっ、ちょっと待ってくだ……」

「それでは、始めようか!」


 早速、魔法障壁を展開しつつ、周囲に対地系地雷魔法を設置していくロゼさん。こうなると完全に要塞であり、攻略は絶望的だ。


「あぁ、もう! 試験に落ちたら、キョーヤ様の責任ですからね!!」

「そうです! アソコまで見せたロゼさんの誘いを断った、キョーヤさんの責任です!!」

「ココに味方は居ないのか!!?」


 本当、こういう時の男の立場は、どうしてこうも弱いのだろう。そもそも、感覚と形状の調査と称して、行き成り裸にされかけた俺が被害者なんじゃないのか?


 まぁ、おかげでイイものが見られたけど……。




 こうして、グダグダになりつつも、最終試練となるロゼさんとの戦いは幕を開けた。

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