#110 実習試験⑤
「フフフ、早く仕掛けてこないと、手遅れになってしまうよ」
「あぁ、もう! とりあえず鞭子さんは配置された
「了解!」
「キョーヤ様は、私の盾です。死ぬ気で守ってくださいね!」
「あ、あぁ、守れる火力ならな」
対ローゼンルシア戦。初動で、ドーム状の魔法障壁を張り、続けて地雷魔法を展開していくロゼさんに対し、早くも勝ち筋を見いだせない絶望的な状況が完成しつつあった。
「これで…………どうです!!」
「フフフ、その程度では、私の魔法障壁は揺らぎもしない様だね」
「「えぇ……」」
様子見で放った現金の攻撃が、あっけなく障壁で無力化される。こうなると速射魔法では攻略不可能。魔力総量の問題もあるので、何とか大技を放つための"隙"を作るしかない。
「もう、直接(弓で)狙うしかないんじゃないですか!?」
「フフフ、それは止めて欲しいかな」
「そうです、ロゼ様を殺す気ですか!?」
「冗談です!」
ロゼさんの障壁はあくまで魔法用であり、物理防御は捨てている。多分これは、救済措置なのだろう。現金への"加点"を諦める代わりに、及第点で指令を"達成"とみなす。
「そろそろ、コチラも行くよ」
「ちょまっ!!」
とっさに現金を抱えて跳ぶ。すぐさまその場に、ロゼさんの魔法が着弾し、轟音と共に火柱があがる。
「フフフ、なかなか良い判断だね」
「ちょ、殺す気ですか!?」
「これでも、出来る限り加減はしたんだが…………ねっ」
「ね、じゃねぇ!!」
ちょっと可愛いしぐさで怖い事を言い放つロゼさん。そう言えばこの人、弱攻撃でも即死級のダメージだった。
「ダメです。攻撃も防御も、魔法では付け入る隙がありません」
「難易度どうなってんだよ、この試験」
現金が詠唱に入ると、すかさずそこに速射魔法が飛んできて、詠唱をキャンセルされてしまう。
鞭子に地雷を解除してもらい、至近距離まで現金を抱えて走る手もあるが…………そこまでやっても速射勝負で勝てる見込みは薄い。
「キョーヤ様! なんとかしてロゼ様の集中を乱せないでしょうか!?」
「いや、それだと回避が……」
魔法の回避は、運動能力も必要だが、それよりも重要なのが"見極め"だ。撃ち出される前に、相手の魔法を正確に読み解き、適切な回避行動を選択する。当てずっぽうで適当に回避していたら、範囲攻撃やトラップ系魔法の餌食になってしまう。
「私だって火属性使いです! 気合で、回避して見せます!!」
「それなら私も、弓で援護します!!」
「おっと、本当に、当てないでくれよ」
鞭子の牽制攻撃が、ロゼさんの足元を射貫く。その隙に背後に回りこめば、俺が砲撃される可能性は無いだろう。逆に鞭子を狙ってきた場合は…………ロゼさんの"手加減"を信じるほかない。
「フフ、コレならどうかな!」
「何の!」
範囲攻撃を障壁で防ぐ現金。単体攻撃は防御不可能な火力だが、速射の範囲攻撃となると、現金でもギリギリ防御できるようだ。その分、魔力消費は厳しいだろうが。
「ロゼさん! 背中に虫が!!」
「フフフ、私の炎に耐えられる虫がいるとは、驚きだね」
「ですよね!」
一応試してみたものの、戦場にも立つロゼさんに、虫ごときが通用するとは思っていない。狙いはあくまで、警戒先の分散。前方の現金や鞭子への砲撃が、少しでも緩めば御の字だ。
続いて、拾っておいた"石ころ"を投げて、地雷魔法を起爆させる。このタイプの魔法は、接触式と時限式の二択なので、石に反応しなければ(時限式を前もって背後に仕掛けておくのは無駄になりやすいので)突っ込んで問題無いだろう。
「さぁ、どうするゼロブレイカー! 時間をかけては、サーラ君の魔力がもたないぞ!!」
俺に堂々と背中を晒し、範囲攻撃で魔力量勝負を仕掛けるロゼさん。俺の腕を信頼してくれるのは嬉しいが…………正直に言って今は余計なお世話でしかない。
「あぁもう! 俺は1回、ロゼさんの魔法を受けて、死にかけているんだぞ!!」
地雷を起爆させながら、強引に障壁に滑り込む。幸いな事に、障壁は(地雷の展開に支障が出るため)下部が大きく開いており、あっさり滑り込めた。
問題はココから。倒すまで行かずとも、それこそ関節技でもキメて強引に魔法防御を解除させる手もあるが…………あくまで"活躍する"のは現金でなくてはならない。
俺が導き出した"答え"は…………コレだ!
「「…………」」
「えっと、それだけかい?」
「ちょ、コッチは余裕が無いのに!」
「眼福…………じゃなかった。なんで今更、そんな"手"が通用すると思ったんですか!?」
大失敗!
俺は大胆に胸元が開けたドレスローブの肩ひもを外し、たわわな胸を露わにする事で、ロゼさんを動揺させる作戦に出た。
しかし、返ってきたリアクションはあまりにも冷めていた。コレなら背後にいる俺からは胸が見えないので、紳士的と思ったが…………流石にそれでは、ロゼさんの被害が少なすぎる。
「キョーヤ様、こういう時は、無理やり唇を奪うとか、もっとやりようが……」
「そうだぞ。それに、キミにとって私の胸は…………見る価値も無いのかい?」
「もしかしてキョーヤさん、本当に小さい子しか……」
「「…………」」
「あぁ、もう! いいからサッサと終わらせてくれ!!」
結局最後は、お膳立てなどどうでもよくなり…………ロゼさんを(生徒の前で)押し倒して終わった。
*
「お疲れ様です。ご主人様」
「あぁ、ありがとう、イリーナ」
魔法学園の一団を見送り、ウチでイリーナが淹れてくれたお茶をすする。
「ハハハ。ボス、なんだか疲れた顔だな」
「そう思うのなら…………ご主人様に登るのを止めなさい!!」
「あははははぁ」
宙を舞うルビーを見ながら、帰ってきた日常に感謝する。
結局、現金は最優秀合格こそ逃したものの、6人全員が"合格"する形に終わった。文官に成れるかは分からないが…………アイツなら、どこに行っても上手くやっていくだろう。
対してメェルは、進路を"冒険者"に定めたようだ。聖光同盟がどうのと言っていたのが気がかりだが、好き勝手に生きている俺がとやかく言えた義理は無い。
セレナは、正直よく分からない。性格的には一番相性が良く、それなりに信頼関係を築けたと思うが…………恩があるからこそ、遠慮してユグドラシルには来ない気がする。少なくとも俺なら"一人前"になるまでは
「そう言えば、フェリスさんが嘆いていましたよ。"仕事が終わらなぁ~ぃ"って」
「学園の事もあって、殆ど手伝えていなかったからな」
幸いな事に、三ツ星の売り上げは好調で、調理組は安定した利益をあげている。冒険者組も、安心して狩りを任せられるだけの実力を身に着けてくれたので、こちらもしばらくは安泰だろう。
しかし、そのせいもあって事務組は毎日大変なようだ。近々、解放計画の追加要員も来るので、事務組には優先的に人材を回すとしよう。
「なぁなぁ、ボス!」
「ん? なんだルビー」
「それで結局、魔法使いのネェちゃんとは子作りしたのか!?」
「「…………」」
種族それぞれの貞操観念の違いに戸惑う事も多いが…………これでしばらくは、落ち着いた日々が送れるだろう。
第三章、完。
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