#111 勇者死亡事件
「ご主人様、お帰りなさいませ」
「あぁ、イリーナの顔を見たら、安心したよ」
夜、イリーナに出迎えられて帰宅する。
魔法学園の実習から月日が流れたある日…………勇者が死んだ。今日はその葬儀に参列していた訳だ。
まぁ、葬儀と言ってもお坊さんも居なければ、お葬式の正しい段取りを知る者も居ない。それっぽい真似事をしているだけの代物だ。
「そう言えば、キョーカさんは?」
「先生なら、今日は
「そうですか。お別れをする時間も、必要ですからね」
すでに何人も死んでいるが、それでも改めて『葬儀をひらく』事になったのは、今回、遺体が発見されたからだ。CやDも含めて、基本的にダンジョン内で死ぬと、死体は発見されない。これは肉食の魔物や、スライムなどの掃除を得意とする魔物が居るからであり…………死体が発見されていない者に関しては、葬儀は開かない事になっている。(まぁ、CとDの場合は、単純に嫌われているせいってのが大きいのだが)
名前は覚えていないが、今回死んだヤツは発見が早かったため、死亡の確認が取れた。よって、遺体を回収したのち、火葬を兼ねての葬式を行い、そして遺骨をクリスタル内に封印して勇者寮に保管した。封印さえしてしまえば腐る事は無いので、火葬する必要性は薄いが、そこは日本人であり、『魔物に喰われた状態で残す』よりも骨だけにしてやる方が『本人も喜ぶだろう』と判断した。
「そうだ。鞭子は何か言っていたか? 結局、別れを言いそびれてしまったけど」
「特に何も。その気になればいつでも帰ってこられますし、ミネルバさんとの事もありましたから……」
「ハハハッ。まぁアイツらしくていいか」
あれからしばらく冒険者として活躍していた鞭子だが、今日、彼女は契約期限を待たずしてウチを出た。出ていった先は…………リリーサ様と現金が共同で立ち上げた"新たな商会"だ。
ウチの商品は、基本的にニラレバ様が取り扱っていたので、現金の商会に卸す事は出来ないはずだった。しかし、そこにリリーサ様も絡むとなれば話は別だ。何と言うかその…………性癖もあって、リリーサ様と鞭子は、アッと言う間に交友(意味深)を深め、(外に出られない俺たちの代わりに)ユグドラシル外で貿易と特殊なアイテムを取り扱う営利商会を立ち上げる事となった。
その話に上手く乗っかったのが現金であり、ちゃっかり貴族の後ろ盾を手に入れ、"三ツ星商会"を立ち上げた。10代でありながらも現金は、いきなり商会長になり、ウチとの独占契約権を獲得した。因みにリリーサ様は、ウチも含めたオーナーであり、つまりは"グループのトップ"って事になる。
ザックリ纏めると、経済活動(お金儲け)は現金が担当し、研究と慈善活動は俺、総括がリリーサ様となる。
「よかった。帰っていましたか」
「あぁ、ルリエスさん。警備隊の方は、どうでしたか?」
そこにやってきたのは、メイド姿のルリエスさん。
話は戻るが、今回の勇者の死亡は『表向きは魔物に負けての"戦死"』と発表しているが、裏では"大事"になっていたりする。何故かと言えば、死んだヤツは非戦闘員であり、それがわざわざダンジョン内に出かけて死んだのだ。つまり、『他殺の可能性が高い』って事になる。
「残念ながら、それらしい情報は得られませんでした。こうなると、犯人は前科者ではない可能性が高いですね」
ユグドラシルを出入りするには身分証や許可証が必要になるが、その許可を持つ『普段は真っ当に活動している冒険者など』が犯人となると、逃走や潜伏は容易にできてしまう。
「その、自殺の可能性は、無いのでしょうか……」
「「…………」」
「??」
少し返答に困ってしまう。
自殺の可能性が無いのは、知人の証言や普段の言動から"ほぼ無い"事は分かっている。しかし1つだけ、自殺する理由があるのだ。
死んだクラスメイトは、デブに対して命を狙うレベルの妨害工作をしていた問題児であった。その事はコチラも把握しており、少し前に"警告"をしていた。よって、『犯行がバレて自暴自棄になった』可能性は否定しきれない。
ただし可能性として高いのは、やはり他殺。問題児は、聖光同盟で集められた資金を投入する形で妨害工作を企てていた。そうなると……。
①、その事を知った信者(冒険者)に揺すられて、その交渉の際に殺し合いに発展してしまった。
②、依頼していた殺し屋と金銭トラブルなどを起こして、殺し合いに発展してしまった。
③、悪事がバレた事に焦って、問題児同士でシッポ切りがなされた。
くらいだろうか?
「ニーラレイバ様は、"第二の殺人"が起きる可能性は…………高いと見ています」
「でしょうね」
そう、問題はソッチなのだ。今回死んだのは1人であり、暗殺騒動に直接関わっていたのは(判明しているだけで)3人だった。つまり、最低でも2人はターゲットが残っており、更には犯人が主要人物以外も(正体を知っているなどの理由で)殺害対象に加えている可能性があるのだ。
③の場合は、これで終わりの可能性もあるが…………この手の問題の"最初の被害者"は突発的な問題で殺された可能性が高く、連続殺人や、見過ごせないレベルの不祥事に発展しかねない。
事を大きくなる事を嫌って"警告のみ"に止めたのに、問題児は自ら墓穴を掘りあい、勝手に落とし合っているのだ。
「殺し屋の件は、どうなったのでしょうか?」
「"カースマルツ"が関わっている可能性はありますが、証拠は……」
暗殺騒ぎは、流石に度し難いとは思うが…………それでもこの騒動は『デブの劣情と、それを向けられる光彦を守ろう』とする、わりとどうでもいい動機であり、正直なところ当初はスルーを決めこんでいた。しかし、偶然から無視できない情報を掴んでしまった。それは…………その殺し屋が、『テイムしたウルフ』を用いて犯行に及んでいた点だ。
カースマルツとは、普段は冒険者として活動する潜伏型の犯罪者集団で、つまりは『金のためなら殺しもやる冒険者』だ。クッコロたちの村が魔物に襲われたのも、この組織が関わっているとみられている。
「そうですか……」
「「…………」」
俺やルリエスさんは、家族を殺されたイリーナに対して、かける言葉が見いだせずにいた。
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