#137 崩壊する勇者神話②

「やっぱり、魔法装備って凄いな!」

「これなら、第七階層コッチでも安定するんじゃない?」

「あぁ、そうだな」


 装備や戦力を練り直し、第七階層に挑戦する光彦一行。


 彼らはすでに何度も第七階層に挑戦し、この階層の魔物を屠ってきた。しかしその魔力消費は大きく、安定した狩りは望めない状態であった。


「どうしたんだ、光彦。調子でも悪いのか?」

「!! いや、大丈夫だから! 今度こそ、スキルに頼らず攻略するぞ!!」 

「「…………」」


 無理に笑顔を浮かべる光彦の姿を見て、仲間たちは悟る。この装備を得るために、光彦が捧げた"献身"を。


「来たぞ! "オーガ"だ!!」

「確り稼いで、もっといい装備を"自力"で揃えよう。そして……」


 オーガは、熊並みの巨体を有するゴブリンのような魔物だ。種族は全くの別物なのだが、知能や行動パターンは酷似している。しかし、だからと言ってその戦力は侮れない。人の胴体ほどある剛腕から繰り出される1撃はどれも即死級であり、防いだとしても防具ごと押し潰されてしまう。


 オーガに限った話では無いが、第七階層の魔物はどれも通常攻撃ですら即死級の威力があり、そんな魔物たちとやり合うための装備は…………それ以上のランクの魔物から得られる素材で作られた装備に限られる。


「えぇ。1日でも早く、地球に帰りましょ!」

「そうだな。よし! 行くぞ!!」

「「おぉ!!」」


 和人が防御系ギフト<柔軟硬質>を発動させ、オーガの攻撃を受ける。彼のギフトは、他の硬化系スキルと違い、自身のみ硬直のデメリットを無効にする。これにより、防御と受け流し・回避の両立が可能となるのだ。


「よし! 効いているぞ! 再生能力が高いと言っても、急所は急所なんだ!!」

「魔法ダメージも通るし、これなら楽勝ね!!」


 タンク役の防御力が相手の攻撃力を上回った事により、戦闘は劇的に好転する。


「これで…………終わりだ!!」


 光彦が、器用にオーガの体を登り、首を両断する。不安定な体勢からオーガの首を両断するのは至難の業だが、光彦は新たに手に入れた剣と、その類まれなセンスでそれを実現してのけた。


「流石は光彦だ。完璧な一撃だったぜ!」

「和人だって。お前が居なければ、俺は……」

「光彦……」

「和人……」

「「…………」」


 友情の名を借り、欲情を向ける者たちに囲まれ…………いつしか2人は強く友情を意識し、妙な空気を度々放つようになっていた。


「えぇ~。コホン! イイ雰囲気になっているとこ悪いけど、ここがダンジョン内だって事、忘れてない?」

「み、未姫! なに言ってんだよ!?」

「これは、そういうのじゃないから!」

「ふぅ~~ん。まぁ、いいけどね……。それで、どうするの? これから」

「もちろん……」

「(ダンジョンを)進むに、決まっているだろ!」

「ふふ、そう来なくっちゃ!」


 連携が機能するのなら、撤退する理由は無い。その判断は"間違い"では無い。しかし、だからと言って『失敗しない保証』は無い。


 光彦と恭弥の違いは、そこにもあった。


 恭弥は、実力を見れば最前線でも充分通用するものを持っている。しかし『1人でも余裕』と言える階層を、仲間を連れて攻略している。彼の戦闘は『連携をとらずに倒す』事を念頭に置いており、普段から交代制で戦っている。


 それゆえ、不慮の遭遇にも充分対処できるし、継戦能力も高い。当然ながら充分な稼ぎを得るためには、長く狩場に籠もる必要が出てくるが…………そこは継戦能力の高さと、解体スキルによるドロップの品質向上で補っている。


「よし! また精霊結晶だ。今日はツイてるな!!」

「やっぱり、第七階層は稼げるわね。これなら、日収100万、超えちゃうかも!?」


 次々に高価なドロップを手にし、浮かれる面々。実際、すでに第七階層で安定した狩りをしている交たちの年収は"億"の大台にのっており、その収入と功績が、彼らの"好き勝手"を許していた。


「あぁ。これなら…………いける! このまま、この階のオーガを狩りつくそう!!」

「「おぅ!!」」


 しかしそんな交は、ベテラン冒険者の指導のもと"狩り"を極力早く切り上げている。彼のギフトは、脂肪の量に依存しているのもあるが…………ダンジョンとは本来『いつ死んでもおかしくない危険な場所』であり、長時間の戦闘による集中力の低下や、浮かれて増長している時の"危うさ"を理解していた。


「余裕余裕。って、しまった。回復薬が……」

「なによ和人。残数の管理くらい、ちゃんとしなさいよね。とりあえず、私のをあげる。どうせ使わないし」

「あぁ、助かるよ」

「よし、ちょっと休憩するか。水分補給と、荷物の整理をしよう。休憩が終わったら引き上げるって事で」

「「りょうかぁ~ぃ」」


 浮かれもあり、いつも以上に気の抜けた返事を返し、それに対して笑みを交換する。


「はぁ~、全身、血だらけだぜ。ある程度は消滅するって言っても、あれだけ浴びると…………え?」




 水筒を片手に、木に体を任せる和人。しかし、彼の体は…………真新しい血液に染まっていた。

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