#018 イリーナ⑤
「マズぃ、全員離れろ!」
「「え、なに!?」」
俺はイリーナの背後に回り込み、羽交い絞めにする。
「はぁ? 何よいったい」
「キレて平常心を失いかけている! いいから離れ………ちょっ!!?」
「「なっ!!?」」
力任せに俺を投げ飛ばすイリーナ。本来なら体格的にも腕力的にも俺の方が有利だが、イリーナにはソレを覆す手段がある。
「ぐはっ! 不味い、完全に暴走状態だ」
すると流石は野生動物、子連れが危険を察知してイリーナの前に立ちはだかる。しかし、その組み合わせは"最悪"と言わざるを得ない。
「あ”あ”あぁぁぁぁ!!」
「ちょっ、
「「ダメ! 郁恵ちゃん!!」」
雄叫びと共にイリーナはウルフに斬りかかる。その姿を見てドッグジャンキーは割って入ろうとするが、ギリギリのところで先生と美穂がなんとか止めてくれた。
「諦めろ! つか、逆効果だから離れろ!!」
「そんな訳にいかないでしょ! ダメ、あの子たちが!!」
子連れも応戦するが、限界以上に身体能力を引き上げたイリーナには敵わない。捨て身の戦術で次々と子連れを屠っていくその姿は正に"修羅"であった。
「酷い! あの子たちが何をしたって言うのよ!!」
「……………………」
子連れを倒したイリーナが、ヒステリーを起こすドッグジャンキーを虚ろな目で見返す。
「クソ! なんで俺が!!」
「「!!?」」
突然ドッグジャンキーに斬りかかるイリーナの攻撃を、俺はギリギリの所で受け止める。どうやらイリーナは、ドッグジャンキーを子連れの"親玉"と認識しているようだ。
「あぁ!! 忍者刀が欠けたぁ! マジかよ!? くっそ、先生! さっさとソイツをつれて逃げろ!!」
「え? あ、はい! 郁恵ちゃん、お願い、今は堪えて!!」
「ちょ!!」
攻撃を弾かれ、イリーナは若干戸惑う素振りを見せる。しかし、程なくして俺にも殺意の籠った視線を向けてくる。
そう言えば俺、まだイリーナとはそこまで深い絆を結んでいなかった!
「流石に忍者刀とオークソードじゃ相性が悪いな」
「きょーちゃん、どうするつもり!?」
俺は忍者刀を鞘に納め、素手でイリーナに相対する。
忍者刀は軽量であり、斬撃に特化している。重さと耐久に特化したオークソードとは相性が悪く、何より忍者刀ではイリーナに致命傷を与えてしまう。
「イリーナ、後でお仕置きしてやるから覚悟しておけ。たく、こんな形でお披露目する事になるとは……」
「ああぁぁぁぁ!!」
イリーナの突進を紙一重で回避する。
最近俺は、拳闘士系のスキルを秘密裏に特訓していた。拳闘士スキルは手足を使った攻防だけでなく、"身体能力向上"を得意としており、習得していれば様々な場面で地力を底上げしてくれる。
・追加技能
剛術Lv1:瞬間的に筋力を強化して攻撃力と防御力を高めるアクティブ強化スキル。
柔術Lv1:瞬間的に柔軟性を高めて回避と技の連携をよくするアクティブ強化スキル。
白羽の衣Lv1:瞬間的に体の表面に防御膜を展開するアクティブ防御スキル。
敏捷強化Lv2:素早さを向上させる自己強化スキル。
見切りLv1:判断能力を向上させる自己強化スキル。
呼吸法Lv1:スタミナ・体力の回復速度を向上させる自己回復スキル。
「くそっ! 1発でも喰らったら、痛いじゃ済まないんだぞ!!」
幸い、狂化状態の攻撃は単調なので見切りやすいが、それでも攻撃力と直線的な速さは本物で、一瞬の油断が"死"に繋がる。
ここは欲を出さずに、ひたすら失った左手の方に回避していく。少し休んだとは言え、イリーナの魔力はそれほど回復していないはず。<狂化>は身体強化に魔力を消費し、使い切れば自動的に解除されるので、狙うならソコだろう。
「恭弥君おまたせ! <
ドッグジャンキーを視界外に避難させ、先生が戻ってきた。正直に言って、気が散るのでそのまま帰ってほしかったが、この状況下で先生のギフトはありがたい。
因みに<技能連携>とは、<念話>を用いた情報共有機能につけた便宜上の呼び名だ。
「お願いします!」
「任せて!」
先生のギフトは2つ。相手の状況を把握しやすくなる<眼力>は地味ながら判断能力が向上して優位に立ち回れる。
そしてもう1つのギフトは<
「これなら、何とか、いけそうです」
「頑張って!」
まぁ<技能連携>をフル活用すると、先生が殆ど動けなくなるデメリットはあるが、そもそも先生の適性職業がサポーターなので、これは『もうそういう星の下に生まれた』って事なのだろう。
「きょーちゃん! 私もやってみる!!」
「ちょま!」
次の瞬間、強いノイズに襲われ、見事にイリーナの体当たりを貰ってしまった。
「ぐはっ! 余計な事をするな! お前は下がってろ!!」
「ひっ、ごめんなさい……」
盛大に吐血したが、幸いなことに骨は折れていない。もしかしたらヒビくらいは入っているかもしれないが、そこは"死な安"理論で強引に乗り越える。
そこからの戦闘は正直に言って消化試合だった。アニメじゃあるまいし追い込まれるとパワーアップするなんてご都合は無く、イリーナの<狂化>は魔力の減少と共に効果が薄れ、最後は無理やり羽交い絞めにして終わった。
「ごしゅ…んさ…、すい、ません」
「気にするな。いや、盛大に恩を感じろ。そして明日からも頑張れ」
「は、い……」
それだけ言い残し、イリーナは気絶するように眠った。
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