#002 ギフトスキル①

「ハー、ハー。いち、恭弥君、やっぱりココにいたのね。ねぇ、みんな心配してるよ? 恭弥君も、一緒に暮らさない??」


 また来たか……。


 俺が召喚されたユグドラシルダンジョンは推定100階の超大型ダンジョンだ。各階は室内でありながら昼夜があり、環境も明確に変化する不思議空間で、上層階に上るに従って難易度が上がっていく。また、階は螺旋階段のように重なっており、便宜上1F~9Fを第一階層、10F~19Fを第二階層と呼称している。10の倍数の階は、ゲートキーパーと呼ばれるボスの専用エリアで、そのボスを倒してしまえば安全になる。加えて、ゲートキーパーを倒せば、下層の10の倍数階へのショートカットが開通されるため"キャンプ地"として有効活用されている。


 そして今俺が居る場所は、ダンジョンの2F。ここはいくつもの泉が点在している水と自然の豊かなエリアだ。日本で言えば高原の湿地みたいな感じだろうか? 攻撃的な魔物は殆どおらず、野営するにはピッタリの場所なのだが…………少し下りれば出口、そして第二階層キャンプへのショートカットもあるので、わざわざこの場所を利用する者はいない。


 俺がこの場所で生活する理由は3つ。

①、誰にも邪魔されずに修行が出来る。

②、環境がよく、数は少ないが回復薬などの原料となる"薬草"も採取できる。

③、生活費の節約。


「何度も言ってますけど、俺はアイツラと一緒に生活するつもりは無いです。先生には悪いけど俺のことは構わないでください。どうせ皆も、内心ではそれを喜ぶはずです」


 俺を迎えに来たのは、一緒に転移した唯一の大人、大鳥鏡花きょうか先生、通称・鏡花ちゃんだ。先生は正式なクラス担任ではなく補助担任であり、新任教師だ。よって歳はさほど変わりはなく、大人と言うよりは"お姉さん"的な印象が強い。


 因みに、この世界では家名を名乗るのは貴族だけらしく、転移者は名前呼びで統一するよう国から指示を受けている。


「そんなことないよ! 光彦君や美穂ちゃんも、恭弥君の事心配してるよ」


 光彦とは八柳光彦のこと。一言で言うとクラスのリーダー。文武両道でイケメン。親は外交官だかなんかで家柄もいい。性格も正義感が強く、面倒見もいいので光彦を慕っている女子はクラスどころか学外にまでいるパーフェクトっぷりだ。そんな光彦と庶民派アイドルの美穂が、俺を擁護する発言をすればクラスの連中は諸手を上げて賛同するだろう。内心は真逆の意見であったとしても、だ。


「先生。確かに先生やアイツラの言い分も分かりますが、現実問題として30人で集団行動をとるのは無理がありすぎます。今は言葉の問題とかがあるから、まだ団結が維持できているけど…………これからどんどん別行動が増えていき、最後には皆バラバラになります。だから俺の事は、気にしないでください」


 この世界の冒険者は少数パーティーで行動するのが基本で、人数は多くても5人までとなる。それ以上は効率が極端に落ちて稼げないし、戦闘で邪魔になるなどデメリットの方が目立つようになる。


 それを抜きにしても、性格や能力で高みを目指せる者とそうでない者の間で差が出てしまう。よって"2軍"や"生産"にある程度人数を割る必要がある。今みたいな安全第一で団体行動を取っていては…………"目的達成"はいつになるやら。


「そ、そうは言っても、私には保護者として、皆を無事に日本に連れ帰る義務があるし……」


 少しイラついてきた。先生の言い分はもっともだが、それでも俺は『地球に帰りたい』とは思っていない。俺に地球の未練があるとすれば、漫画やゲームの続きが気になるとか、その程度のものだ。戦うためのモチベーションは人それぞれだろうが、俺は『地球に帰るため』に命を懸けて戦うことは出来ない。


「何度も言っていますが、俺は地球に帰るつもりはありません。先生も…………先生って呼んでおいて悪いけど、ここはもう学園ではないんだから、少しは違う生き方を考えた方がいいですよ。なにせ、1年やそこらで帰れる見込みは無いんだから」


 元の世界に帰る方法として王国軍が提示したのは、『転移費用の10億を用意せよ』と言うもの。調べたところ貨幣価値は日本と大差なく、10億あれば異世界への門を2回開けるようだ。10億とは『召喚者を送り返して、代わりの者を召喚する』ための費用となる。


 つまり、1人約3千万強稼がなくてはならないのだ。俺たちには召喚の際に覚醒した異能があるものの、それでも3千万を稼ぐには数年かかるはずだ。そして…………その過程で何人かは、死ぬだろう。


「えっと、ところで恭弥君は、さっきから何をしているの?」




 説得が平行線になって露骨に話を切り替える先生。俺は先生と話をしている間もストレッチを続けていたので、まぁ失礼っちゃあ、失礼だったか。

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