俺はこの理不尽な異世界に逆らわずに生きていく!

行記(yuki)

#001 プロローグ・クラス転移

 皆さんはクラスメイトの為に命を賭けられますか?


 これが少年漫画の主人公なら、迷うことなく頷き、強大な敵に立ち向かうのだろう。しかし、実際にはなかなか出来ない事だと思う。例えそれが、英雄願望を持った熱血漢や中二病だったとしてもだ。


 実際のクラスメイトは大抵が赤の他人。それに、現実は漫画のように単純に善悪で分かれていない。つまり、相手にだって信念や都合があるわけだ。


 いや、俺だってある日突然、空から美少女が落ちてきたら頑張るよ? 不純かもしれないが、それが"男の子"ってもんだ。でも、無条件で他人に肩入れするのは俺的にNG。それは正義でも何でも無い。ただの自己満足。乙女が恋に恋するように、男の子が正義ヒーローに憧れる程度のもの。


 改めて問おう、クラスメイトのために命を賭けられますか?





「おい、それはどういうことだ! お前達の勝手な都合で俺たちを呼び出しておいて、帰せないってなんだよ!!」

「そうよ、そもそも私たち、普通の学園生なのよ? それがいきなり怪物と戦えだなんて!」

「えーい、黙れ! 貴様等に口答えをする権利はない!!」

「皆、ここは一旦落ち着こう。お互い感情的になっても、何も解決しない」

「うっ、"光彦"くんがそういうなら……」


 はぁ~、茶番長いなぁ。文句を言いたい気持ちは分かるが、いちいち話を遮って反論していては進む話も進まない。


 まわりを見渡せば、そこは西洋風の建物の室内。窓はなく、なにより蛍光灯が無い。かわりに部屋を照らしているのは、松明のような形状の光るクリスタル。加えて、足元には何やら複雑な魔法陣があり、淡い光を放っている。周囲には兵士や魔法使い(ぽい人)が立ち並び、目の前の壇上にはひと際偉そうな初老の騎士が鋭い眼光を放っている。


 俺たちは、つい小1時間ほど前まで学園で普通に授業を受けていた、ただの学生だ。それがいきなり床が光ったかと思えば、次の瞬間、教室どころか机や椅子まで消え去り、この場所で盛大に集団尻もちをついていた。まぁ、どう考えても"集団異世界転移"だろう。これでテレビのドッキリだって言われたら、そっちの方がビックリだ。


「いいか! 貴様等は転移の際、何らかの異能が覚醒しているはずだ! 最低限の装備はこちらで支給するので、現地ですでに活躍している冒険者たちと協力して、この"ユグドラシルダンジョン"を攻略してもらう!!」

「だから何で、俺たちがお前たちのために戦わなくちゃいけないんだよ!?」

「いいからさっさと俺達を地球に帰せ!!」

「そうだそうだ!」

「えーい、黙れ黙れ!」


 また始まったよ、アホらし。これ以上、付き合ってはいられないな。


 俺は茶番を無視して、事務員のような人たちが水晶を前にスタンバイしている場所へと向かう。多分あれがスキルや適性を判定するマジックアイテムなのだろう。テンプレだと"ステータス"を確認する魔法を使うところだが…………試してはみたものの効果があらわれる兆しは無い。この場合、そもそもステータスを確認する手段が無いか、専用アイテムが必要になるパターンの2択になる。


「あの、水晶これでステータスが確認できるんですか?」

「え? あ、はい。その通りです」

「じゃあ、向うの話が長そうなんで、先に俺から見てもらってもいいですか?」

「え? あ、ちょっと待ってください。…………はい、大丈夫です。気持ちをラクにして、手をのせてもらえば、直ぐに結果が出ます」

「へぇ、じゃあ早速、お願いします」


 手をかざすと水晶の中に光が飛びかい、やがて頭の中に直接"イメージ"が流れ込んでくる。


「あ、結果が見えてきたみたいですね。説明のためにちょっと失礼しますね。順番に説明していきます」


 そう言って俺の手に手を重ねる職員。いきなり女性に手を重ねられて、思わず心臓が跳ね上がる。今まで一切顔を見なかったので気づかなかったが…………この人凄い美人だ。整った顔立ち、淡い栗色の髪に透き通るような蒼い瞳。耳は少し尖っていて後方寄りに伸びている。多分、ハーフエルフなのだろう。


 ヤバい。もう、完全に地球に帰る気が吹き飛んだ。



・ステータス

名前:一条いちじょう恭弥きょうや

種族:人間

属性:無

適性職業:トリックスター

所有ギフト:疑似世界フェイクアイ


体力:B

魔力:C

筋力:B

器用:B

敏捷:B

知力:B

精神:A

判断:B



 ステータスは、適性・成長度を示す形式だった。やはりリアル系ファンタジーの世界なのだろう。多少拍子抜け感は否めないが、適性が分かるだけでも充分参考になる。ステータスを斜め読みした感じでは、どうやら俺は"万能型"のようだ。ゲーム脳で考えれば、パーティー戦では必須と言える特化型の方が活躍が期待できるものの…………ソロで色々試したい俺としては万能型も悪くない、と思える。


 その後も、ステータスや大まかな今後の流れについて説明を受ける。


 どうやらこの世界はリアル系ファンタジーの世界で、"勇者"として召喚されたのは間違いないようだ。しかし、俺たちに倒すべき魔王は存在しない。そう言うのは"天然"の仕事らしく、俺たちは"人工"、つまりは営利目的で召喚された"異世界人"のようだ。




「大体理解できました。後で分からない事が出てきたら、改めて聞けるんですよね?」

「はい。私の名前は"ノルン"と言います。普段は冒険者ギルドで受付をやっているので、これから話をする機会は沢山ありますよ」


 眩しすぎる微笑みを向けてくれるノルンさん。


「ねえ、一条君」

「ふわ! って、なんだ"綾部"か。ビックリさせるなよ」


 こいつはクラスメイトの綾部あやべ美穂みほ。顔は可愛い系で、親しみやすく万人受けするタイプだ。一応、家が近所だったので幼馴染って事になる。


「ご、ごめんね、ビックリさせちゃって。なんだかキョ、一条君が1人で何か進めてたから……」

「いや、状況は掴めたから、時間がかかりそうなのを先に済ませただけだ。お前もどの道コレをすることになるんだから、混む前に済ませておけ」

「おい一条! 綾部さんに何をさせるつもりだ! 綾部さん、こっちに!!」

「え、ちょっ……」

「いいから、さあ!」

「そうだよ美穂ちゃん、今は不用意に怪しいものに触っちゃダメ!」


 誰も俺は止めなかったのにな……。


 綾部は昔からクラスの人気者で、友達も沢山いる。俺みたいに協調性皆無のボッチとは済む世界が違う。とは言え綾部自体は絵にかいた善人なので、何かと俺の事をフォローしてくれる。しかし、それが綾部の危険なところなのだ。綾部のことを好きな男にとって"幼馴染"の存在は邪魔でしかない。俺自身も1人の方が気楽なので、綾部の善意は誰も救わない結果に終わってしまう。


 俺は助けを求めるような幼馴染の視線を無視して、話を再開する。


「えっと、お騒がせしてすいません。続きをお願いします」

「あ、はい。それでは……」




 こうして、俺の"冒険者"としての人生が、この日、始まった。

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