#089 セルピナ・ディータ・メティス

*予約投稿ミスしていました。ごめんなさい。


「正直なところ…………使えそうなのはメティスだけですね」

「(農業)用品店の方もダメか?」

「ディータに比べれば遥かにマシですけど、あくまで"お手伝い"レベルで事務作業の適正は無いですね」


 少し離れた場所から、薄利多売子に3人の評価を聞く。



 若干、将来性を加味しない辛口評価にも思えるが、現状の評価は……。

①、用品店の娘(セルピナ):雑用は出来るが、足が不自由で能力を発揮できない。読み書きや計算は基礎止まりで、即戦力にはなり得ない。


②、宿屋の娘(ディータ):論外。『如何に楽をするか』を何よりも先に考え、努力や苦労を重ねる事は自分には不釣り合いと言いきっているほど。


③、雑貨屋(メティス):見習いレベルだが、それでも基本は分かっているので他の2人に比べれば遥かにマシ。



「一応ウチは、職業訓練施設でもあるから、即戦力だけでなく、教育も考えて欲しいんだが……」

「う、それは……」

「まぁ、適性が無いなら他の部署に回すのも本人の為か?」

「その、すいません。私、あまり教育とかコミュニケーションには自信が無くて」

「俺もだ」

「「…………」」


 俺は万能タイプだが、唯一、サービス業的な内容の適性は壊滅している。俺に比べれば、薄利多売子はまだマシだと思うが、それでも失敗した経験から自信を失っているようだ。


「キョーヤ様!」

「お、おぉ……」


 書類整理を任せていたのに、それを放棄してやってきたのは宿屋のビッチ


 事務作業と聞いてもピンと来ないかもしれないが、ネットやパソコンが無いこの世界では、事務はなかなかの作業量であり、金策で外部とのやり取りが増えると、どうしても専門の部署を設ける必要がでてくる。


「えっと、ディータさん。今、私たちは重要なお話をしているので、出来れば続きを……」

「そんな事より! 中位の回復薬の手配はどうなったのですか!!」

「いや、手配はしてあるけど……」

「アレがあれば、こんな雑務なんてする必要は無いんです! さぁ、早く出してください!!」

「いやお前、薬代、払えないだろ?」

「ぐっ」


 初日の夜。ビッチは俺の部屋に来て『セックスさせてあげるから、薬代を払え』と言い放った。いや、実際には、もっと回りくどく、本性を隠していたが…………俺にはお色気や猫かぶりは通用しない。


「そもそも貴女、事務は出来ない、力仕事も出来ない、オマケに料理も出来ないで…………いったいどうやって生計を立てるつもりなんですか?」

「それは…………と、当然、結婚です」


 目が『男を騙して貢がせる』と言っている。


「結婚するなら、家事は覚えておかないとダメだと思いますが……」

「そんなモノ、家政婦にやらせればイイじゃないですか」

「いや、……? …………!?」


 ほんと、ビッチの思考には『チヤホヤされて育った弊害』が綺麗に出ている。容姿や媚を売る事以外に出来る事は無いのに、なぜかプライドだけは無駄にデカく、根拠の無い自信を持っている。


 ビッチ具合で言えばAとBも同じだが、あっちはお高くとまっていないし、アレでなかなか頭もイイ。何と言うか、清々しいまでに"顔"以外に見どころが無いのだ。


「ツケ払いでもいいが、ツケ払いなら"信用"は必要だ。残念ながらお前に、信用は無い」


 最悪、火傷の治療が終わったら『たらし込んだ男のもとで雲隠れ』なんて可能性も充分ある。ビッチの治療費は、中位回復薬で済むので、1つ20万。該当箇所が多いので複数回の治療が必要となり、予想では100万前後はかかると見ている。


「チッ! これだからロリコンは」

「ぷっ!」


 顔をそらし、肩を震わせている薄利多売子は後でお仕置きするとして…………どうもビッチは『お色気が通じないのは、性癖の問題』だと思っているようだ。


「とりあえず、お前は戦力外だ。もうウチでは働かなくてもいい。A子のところで、適当に屋台の手伝いでもしてろ」

「そんな! 私は……」

「店に出れば、貢いでくれるバカな男が、釣れるかもしれないぞ?」

「……ま、まぁ、私に釣り合う"収入"の方が居るとは思えませんが、それまでは地道に働くのも、イイかもしれませんね」


 コイツ『デート代を全額負担出来ない男は"男"じゃない』とか本気で言い切るタイプだ。


 因みにお金にガメついのは、この世界だとそこまで珍しくはない。勇者育成計画に参加している女性たちもそうだが…………生死の危険が身近なこの世界では、年上と結婚するのが当たり前であり、容姿よりも収入や能力が重視される。


 まぁ、ビッチの場合は、"身の丈"をわきまえていないのが根底の問題なのだが。


「その…………分からないところがあって。いいですか?」

「え? あ、はい。ちょっと確認しますね」


 やってきたのは用品店。コイツは『頭を使わず、黙々と働く』ような仕事を好むそうだ。別に仕事は色々あるので、雑用専門を希望するならそれもいいのだが…………それにはまず、足を完治させる必要がある。


「ん、そこの計算、間違っているぞ」

「え? ちょっと待ってください、今計算します」

「うぅ、すいません。私、こう言うの苦手で」

「いや、まぁ、何と言ったらいいか」


 数字の並びを見て、すぐに不自然な数字を見つけられる俺に対して、薄利多売子ですら必死に総計算しないと間違いが見つけられない。この世界の算術のレベルはこの程度なのだ。


「あぁ、ホントです。よく分かりましたね」

「俺たちが生まれた国では、その計算は10歳以下で暗記させられる」

「え? 冗談ですよね??」


 義務教育の無い世界では、掛け算ですら高等教育なのだ。


「ん~、よし! 事務組は薄利多売子の意見を尊重して……」

「フェリスです」

「雑貨店のみを残して解散とする! 売子、大変だと思うが、しばらくは2人で頑張ってくれ」

「フェリスです!」

「使えそうな奴が居れば、優先的に入れるからさ」

「その、期待しないで、待たせて貰います」

「用品店は、明日から調理組に移動だ」

「えっと、セルピナなんですけど…………その、よろしくお願いします」


 アッチはアッチで体を使うので不安はあるが…………体の事はお金と時間で治る範疇なので、何とかなるだろう。




 不安は残るが、それでもなんとか加工品をダンジョン外に販売する準備は整った。

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