#088 レア・ミネルバ・ティアナ
「……では、キョーヤさんの紹介と言う事で、手続きを進めさせてもらいます」
「いや~、助かったよ。まさか申請を拒否られるなんてね」
冒険者として稼いでいくことを希望した3人(冒険者組)を送り出し、ウチで機材の調整をしていると…………ほどなくして3人が戻ってきた。その理由は『冒険者登録を断られた』からであった。
「つかさ、いい加減不便だから、私たちの"出禁"、解いてくれない?」
「…………(無視)」
ゲームの中の冒険者は、好きな場所で好きなように狩りができるが、実際にはエリアごとに"定員"があるらしく、第七階層解放に沸き立つユグドラシルは、現在、移籍審査待ち状態であり、飛び込みで申請をした3人は却下されたのだ。
「冒険者ランクって、上げても煩わしいだけだと思っていたけど…………こういう使い方も出来るんだね」
「そうだ! 恭弥、お礼に一発、どう?」
「…………」
A子の戯言はスルーするとして…………定員オーバーの状況では、サポーター枠(クエストポイントは得られない)でしか登録できないところを、シルバーランクの俺が紹介する形で優遇してもらった。本来、この手のサービスはゴールドランクの特権なのだが、その辺りは『どれくらい難しい要求』かによって変化する。よって、今回はそこまで無茶な要求では無かったようだ。
「やっとこれで、狩りに行けるね!」
「はぁ~、ちょっと緊張しちゃいます」
「ちょ、まずはお礼でしょ」
「え? だって、登録できなかったのは私の問題じゃないし」
年長者が、社会経験の乏しい2人の言動を注意する。日本だと、未成年でもバイトやテレビでそのあたりのマナーを学ぶ機会は多いが、どうしても閉鎖的な地方で育つと、そう言ったところが疎かになる。
加えて、奴隷落ちしていない事もあり、感謝こそすれ、謙虚になりきれない部分もあるようだ。
「ん~、これは、常識面も教えていかないとダメなのかな……」
「奴隷落ちすると、奴隷商にその辺は叩き込まれるらしいけどな」
「あぁ、やっぱりそうなんだね」
比較的真面目なB子だが、こいつも所詮は同類なので油断しているとキスをせがんでくるので注意が必要だ。
「いっそ、更生って程でも無いが、あえてスパルタで行くのもアリなのかもな?」
「その方が、別れる時も後腐れ無いだろうしね」
9人を預かるのは『1年間限定』と決まっている。彼女たちが『行き場の無い不幸な身の上』なのは事実だが、奴隷でも無い者を長期間預かっていては計画の本懐は果たせない。もちろん、優秀な人材が居れば引き抜きも考えているが…………原則は1年であり、それまでユグドラシルで生活しながら、自立に必要な技能や資金を貯めてもらう事になる。
「まぁいいや。折角だから少しくらいは(手伝いや指導をして行こうか)と思ったが…………気が失せたから帰る」
「えぇ~、帰っちゃうの?」
15歳の2人は、まだ本調子では無いので、今回は登録と、第一階層で軽く連携確認をしてもらう予定だった。
ポジションは、兵士の娘が前衛、猟師の娘が索敵、畜産家がスキルで解体して肉や皮を回収する。最終的には集めた素材を、他のグループに加工してもらう計画だ。
「やる事は指示しておいただろ? コレでも俺は忙しいんだ。見込みの無いヤツに割く時間は無い」
「はぁ!? 言ってくれるじゃない」
「…………」
早速食いついてきたのは、男勝りのミ、ミ…………"クッコロ"。あと、分かりにくいが"弓子"も訝しげな目を向けている。ラノベの主人公は、こういう時最初から好感度がある程度高いものだが、現実はこんなもの。勇者の肩書やボス戦での活躍があっても、無条件でチヤホヤされるほど人生は甘くない。
「悪いが魔物は、相手が若いからって贔屓はしてくれない。事実は事実として受け止める度量は必要だぞ?」
「上等! 私はコレでも剣には自信があるんだ! 見せてあげる…………私の実力を!!」
早速、安い挑発に乗ってくれるクッコロ。多少の問題はあるが、俺としてはそれほど嫌いなタイプではない。むしろ、初日から下心丸出しで、夜、俺の部屋を訪ねてきたバカに比べれば、遥かに好感がもてる。
つか、イリーナやルビーが居るのに、普通"枕"をしようと思うか? ただの性奴隷だと思っていたようだが、その図太過ぎる精神には恐れ入る。
*
「本当に、"素手"でイイの?」
「これくらいハンデが無いと、勝負にならないだろ?」
「言ってくれるわね」
自信に満ち溢れる態度で立ちはだかる勇者キョーヤ。彼の事はリリーサ様から聞いている。なんでも、幼い(容姿の)女奴隷を連れ歩き、狡賢く金儲けが得意。戦い方は陰湿で、背後からの不意打ちを得意としている。そんな彼についた二つ名は『
つまるところ相手は外道。勇者と呼ぶのもおこがましい、ただの変態ロリコン野郎なのだ。
「なんなら、弓子も加えてもいいぞ? 俺は、武器や相手は拘らないからな」
「え? ユミコって、私ですか??」
「個別に相手するのも面倒だ。ほら、クッコロと2人でかかってこい」
「え? クッコロって、私??」
「「…………」」
ティアナと視線を交わし、変態を取り囲む。
魔物との乱戦を得意としているのは分かるが…………だからと言って、私も"剣"には自信がある。
「……いくよ!」
「はい!」
互いに無理は出来ない体だが、それでも足を使い、まずは様子見で喉元に最速の"突き"を放つ。今使っているのは木剣であり、その速さは真剣を凌駕する。
「なるほど、躊躇いは無いようだな」
「ぐっ」
正面からだったとはいえ、初見で回避されたのはショックだ。しかし、それでも今のは"ただの突き"。これは"奥の手"を通すための布石なのだ。
「これなら! そこ! なんで! 当たらないの!!」
弓が引けないティアナは、レイピアで背後から襲い掛かる。しかし変態は、まるで宙を舞う羽根のように、難なく回避してのける。
「これが、召喚の際に獲得した"力"ですか?」
「まぁ、そうなるのか?」
「流石は勇者ね。でも! 私だって物心ついたときから剣を振ってきた自負があるの! そんな貰い物の力になんて、負けていられないのよ!!」
死角に潜り込み、<神速>を発動させる。今の状態では1回使うのが精一杯だが、これで一度だけ、限界を超えた一撃を放てる。
対人戦は、単純に力よりも"駆け引き"が重要になる。確かに変態は強い。しかし、所詮はステータスにモノを言わせて頭の悪い魔物を薙ぎ倒してきただけの脳筋。
私の最高速の斬撃が…………変態の背中を…………突き抜ける。
「残像だ」
避けられた訳ではない。いや、確かに避けられたのだが、その事に気づけなかった。変態の影を斬る、その瞬間まで。
「悪いが俺には師匠が居てな。実は対人戦の方が得意なんだ」
次の瞬間、雷鳴を思わせる破裂音と共に、私の体に電流が駆け抜ける。
こうして私は、肛門の破壊者に負けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます