#143 姉妹の絆

「その、光栄です。キョーヤさんの指導を受けられるなんて」

「ふん! 私はまだ、アンタを認めたわけじゃないんだからね!!」

「ちょ、お姉ちゃん」


 組織が大きくなると、末端との接点は薄くなる。


 今日は久しぶりに、冒険者志望の新人の指導に参加していた。


「あはは、めっちゃ警戒されているね!」

「まぁ、原因はだいたい察しがつくけどね」


 新人2人(双子)に付き添うのはAとB。ウチの冒険者は現在、3つのグループに分かれて行動している。


①、攻略組。一応、俺がリーダーって事になっているが、事務作業もあるので実際にはイリーナやルビーが仕切る1軍メンバー。活動場所は上層階だが、クエスト消化がメインなのでわりと内容次第となっている。


②、中堅組。クッコロをリーダーとして第三・四階層を攻略するグループ。基本的に基礎は出来ており、(奴隷などで正規冒険者になれない場合もあるが)フリークエストをこなしながら貯金と経験を貯め、箔をつけて巣立つことを目標にしている。


③、見習い組。AとBを監督として、第一・二階層で初心者に基礎を教える。本当に基礎のみなので短期間の教育となり、稼働していない時期もある。



「どうせ俺はモテないさ。それよりも丁度いい、そこのトレントと戦って見せてくれ」

「「はい!」」


 AとBの『わかってないな~』って顔がウザいが、時間も惜しいので指導を開始する。


「それで、恭弥の目から見て、2人はどう?」

「守備範囲からは"出ていない"と思うけ…………あん!」


 とりあえず、不謹慎な事を躊躇なく口走るAをシバく。


 双子の名前は、メルトとミスト。姉のメルトが剣士志望。妹のミストが魔法使い志望となっている。しかしその適性は際どく、何より"体格"や魔力量的に将来性はあまり期待できない。


「恭弥、私のお尻も、叩いてイイよ」

「真面目にやれ!」

「ひゃうん!」


 AにつられてBも、スカートをたくし上げて尻を出す。コレを放置すると更に悪化するので、2人がトレントに集中している隙に素早く蹴り飛ばして行動不能にしておく。


「えぃ! やぁ!!」

「お姉ちゃん!」

「おっと、ありがとうミスト」


 双子は今回、新たなルートでウチで引き取る事になった。言うなれば試験採用枠だ。


 家族を失い、双子は若くして娼婦になった。一応、将来の事も考えて女性専用娼婦となったのだが…………2人に限らず、女性だと家庭の事情で自ら娼館に身売りする者は少なくない。つまり、形は違うがこれも一種の奴隷なのだ。


 そんなわけで三ツ星の事業として、幾つかの娼館と提携して希望者をウチで買い取る事となった。当然ながら、娼婦として稼げるであろう体格を持つ者は値段の問題で引き取れないが…………反抗的な者や、発育の悪い者は娼館も即金欲しさに喜んで売りに出してくれる。


「よし、これで!」

「ふぅ~、なんとか、倒せたわね」

「お疲れ様。なかなかの連携だったぞ」

「ふん! 当然よ」

「お姉ちゃん、照れてる?」

「照れてない!」


 微笑ましい光景だ。


 しかし相手はザコであり、それを2人がかりで戦っての結果となる。借金は抜きにしても、娼婦になったのは正解。自力で冒険者を目指していたら、まず間違いなく死んでいただろう。


「しかし、まだまだ改善の余地があるな。まぁ、その辺は素人だから仕方ないと思うが…………引き続き、基礎をひたすら積み重ねていく事だな」

「別に、無理にフォローしなくてもいいわよ。才能が無いのは、分かっているんだから」

「…………」


 言葉は選んだつもりだが、それでも事実は曲げようがない。


「たしかに、お前たちに才能は無いな」

「くっ!」

「しかし、才能が無いのは…………そこで半ケツを晒しているビッチも同じだ」

「でも2人は!?」

「貴重なギフト持ちであるのは、たしかにそうだな」

「そうよ、でも、私たちは……」

「代わりに、ひた向きな姿勢と、互いを思いやる優しさと信念がある。それはそこの場をわきまえない発情女には無いものだ」

「それは……」


 視線の先には、尻を蹴られて恍惚な表情を浮かべる変態。それでも戦闘能力を比べればAとBに軍配があがるが、双子が秀でている部分が無いわけでもない。


「まぁ実際、誰しも劣っているところはあるものだから、気にしたって仕方ないのよね。恭弥だって……」

「協調性ゼロだし、朴念仁だし、ロリコンだし」

「誰がロリコンだ!」

「「…………」」


 復活そうそう牙をむくAとB。これは決して口には出来ないが、実は俺もAとBが雰囲気を良くするのに貢献している点は評価している。


 それこそ俺やクッコロが初心者担当になったら、厳しすぎて脱落者を多発させてしまうだろう。


「まぁなんだ。冒険者の才能は抜きにしても、2人の連携は優れているし、何より人柄が信用できる。その……」

「「??」」

「これは言わないつもりだったが、幹部に昇格する話も出ている」

「「えっ!?」」


 ABも含めて驚く面々。しかしこれは事実。俺もそうだが、いや、俺以上にリリーサ様は双子を気に入っている。


 贔屓? そうだけど??


「勘違いされがちだが、ウチはあくまで信用主義で、逆に言えば信頼できないヤツは幾ら実力があっても追い出している。そういう組織なんだ。だから…………姉妹の絆に、誇りを持て」

「「…………」」




 結局、その日は指導らしい指導は出来なかったが…………表情を見る限りは、これで良かったのだと思っている。





・告知


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 まだ8話までしか出ていませんが、合わせて読んで評価してもらえると助かります。

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