#071 リリーサ

「いや~、キョーヤ君には、嫌な役を押し付けちゃったね」

「いえ、別に。これは我儘を通すための"代償"として、自ら選んだ事ですから」


 ギルドで表彰された後、俺はニラレバ丼のところに顔を出していた。


「そう言ってもらえると助かるよ。まぁ実際、ミツヒコ君と共闘して上手くいく保証も無いし、何より"時間制限"の問題がね~」


 光彦の<限界突破>は使用後、数日間戦えなくなるデメリットがある。それなら『戦わずに休んでいればいいじゃん?』と思うかもしれないが、実はそんな簡単な話ではない。


「すいません。どうしても、"光彦を"助けるために参戦したって、思われたく無かったので」

「ハハッ! キョーヤ君は、誤解を解く事よりも、慣れ合う事の方が嫌なんだね」

「誤解ではないです。純粋な殺意を籠めて、俺は光彦を蹴り飛ばしましたから」


 ゲートキーパーに挑戦するには30日以内に8体のボスを討伐する必要がある。つまり、休憩期間が長いと、光彦抜きでゲートキーパー戦をしなくてはならなくなるのだ。光彦は問題のある勇者だが、それでも単純なステータスは過去召喚された勇者と比べてもトップクラス。その事は国も評価しており、『上手く手綱を握りたい』と思っているようだ。


 加えて国は、何やら第七階層解放を焦っているようだ。光彦の復帰が早まれば、ゲートキーパー戦の挑戦期間を、今の1日から引き延ばす事が出来る。


「うんうん。やっぱりキョーヤ君とは考えが合うね。とは言え、コッチにも事情があってね。死地でも桃源郷でも、命知らずの野郎どもを扇動してくれる人材は、無くしたくないんだよ」

「……でしょうね」


 俺もそうだが、第七階層の解放は『共通の悲願』ではない。まぁ、興味が無いと言えばウソになるが、そこに焦る気持ちは存在しない。それこそ、クラスメイトを地球に帰してからでも良いくらいだ。


 冒険者の中にも、保守的だったり、リスクを天秤に乗せて冷静に判断を下せるヤツはいる。そう言った人材は貴重であり、国も無駄に死なせたいとは考えていない。


 しかしそれと同時に、無謀にも突っ込んでくれる"バカ"も必要なのだ。なにせ、ゲートキーパー戦や第七階層の難易度は高く、『死者が続出する戦場』なのだから。


「あぁ、それでね!」

「はい?」

「実は今日、わざわざキョーヤ君を呼び出した用件は、それだけじゃないんだよ!」

「失礼します。"リリーサ"様をお連れしました」


 絶妙なタイミングで現れたのはルリエスさんと…………金髪ツインテールの美少女だった。


「アナタ!」

「は、はい」

「貴方"ホモ"なの?」

「え? 違います」

「そう。じゃあ、死になさい」

「えぇ……」

「私は! 男が嫌いなの。男に触れられるくらいなら、死んだ方がマシよ!!」


 服装からして貴族っぽいが…………どうやら俺は処刑されてしまうようだ。


「あぁ、リリーサの言っている事は気にしなくていいよ」

「助かります」

「ハハハ、まぁ、察しはついていると思うけど、ボクの妹だ。ってことで、妹の事をヨロシク!」

「助かりません」

「ぷ!」

「「…………」」


 突然噴き出すルリエスさんに、一同の視線が集まる。


「失礼しました」

「「……………………」」

「えっと、それで改めて提案なんだけど……。キョーヤ君、リリーサの事、娶らない?」

「帰ります」

「まぁまぁ、嫌がる気持ちは激しく同意するけど、形だけで全然イイから、ちょっと考えてみてよ」


 反射的に断ってしまったが、どうやら拒否権のある提案だったようだ。貴族は、そう言うところの判断が難しいので、注意しなければ……。


 しかし、物語の主人公は、よくお姫様と結婚するが、リアルに起きると、ぶっちゃけ全然嬉しくない。他にも沢山美少女が居て、収入もすでに充分。そんな中でシガラミだらけの貴族や王族の枠組みに組み込まれるのはデメリットばかりが浮かんでしまう。


 権力? それこそドロドロの権力闘争の世界に足を突っ込むだけで、むしろ不自由になるだけだ。


「その、自分は平民以下の存在です。ですから、貴族であるリリーサ様と結婚する事は不可能かと」

「ふん! 私だって御免よ!!」

「いやね。リリーサも最初は政略結婚の道具として普通に育てられたんだけど…………何を間違ったのか、性格がこんなにも捻くれちゃって。おかげで5回も、出戻るハメになっちゃったんだよ」


 バツ5って事ね。男嫌いのジャジャ馬なのは分かるが…………これ、性格がゆがんだ理由、間違いなく兄や父親が原因だよね?


「それで"形だけ"ですか……」


 よく分からないが、そこまでいくと家に置いておくのも体裁が悪いのだろう。


「コレ、どちらかと言えば父上の頼みなんだよ。それに、"体格は"キョーヤ君好みじゃない?」

「あの…………前から言おうと思っていましたけど、俺、ロリコンじゃないですからね?」

「……え?」

「いや、そんな心底驚かれても」


 そう言えば、オークションの時も俺の好みを気にしていたけど、その時からすでに、この話はあったのかもしれない。


「因みにルリエスは、正確に言うと父上に仕えているんだけど……」

「はぁ」

「リリーサを貰ってくれるなら、ルリエスをつけてもイイって、言ってるよ」

「ぐっ、それは……」

「…………」


 流石にそれは悩む。ルリエスさんだけなら土下座でも何でもするけど…………ニラレバ丼の弟になるのは……。


「まぁ、女奴隷を連れている平民を見ると、難癖付けて処刑しようとするけど…………性格的には結構合うと思うんだよね~」

「今、サラッとヤバい事言いませんでした?」

「因みにルリエスは、処女だよ?」

「「ぶっ!!」」


 反応がウブだから、何となく察していたが、やはりそうなのか。ルリエスさんも、その答えを背中で語っている。


「まぁ、ダメならダメでもいいから、少しの間、リリーサを預かってくれない? 第七階層解放までで、いいからさ」




 そんなこんなで俺は、強引にリリーサ様を押し付けられてしまった。


 もちろん、ルリエスさん付きで。

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