#027 復帰

「ひえ~~ん、ご主人様、たすけてくださ~い」


 寮からやっと解放された俺を出迎えてくれたのは…………フリフリのドレスに身を包んだイリーナだった。


「なんとなく何があったか予想は出来るが、取りあえず久しぶり。やっと狩りを再開できるから、取りあえず戦える服に着替えようか」

「はい、流石はご主人様です!」


 イリーナと入れ替わるかたちでシルキーさんが現れる。


「お疲れさま」

「イリーナの事、ありがとうございます。とりあえず問題は片付いたので安心してください」


 新工房のオーナーは俺なのだが、シルキーさんも少なからず出資しており、俺に"もしも"の事があった場合、その肩代わりをする、つまり保証人になっているのだ。


 因みに紛らわしい話になるが、貸工房や道具屋は鍛冶師ギルドの管轄施設であり、商人ギルドの管轄では無い。しかし、奴隷商などもそうだが、大きな括りとして商人ギルドが関連ギルドの取りまとめをしている。そのあたりを説明するのは難しいが…………ゲームで言う所の、商人が一次職、鍛冶師が二次職にあたる構図になっている。


「イリーナの事なら、いつでも歓迎する」

「ハハッ。それならもう少し加減しないと、本気で嫌われちゃいますよ」

「懸念事項」


 シルキーさんの外見は少女であり、純血のドワーフに見えるのだが、実はエルフの血も入っているらしく、ユグドラシルに配属されたのはソレも理由なのだとか。


「あぁ、そうだ。それで、イリーナは"どう"でした?」

「悪くは無い。でも、ちょっと危うい」


 そしてシルキーさんは(接客は苦手なものの)実は滅茶苦茶強いらしく、時間がある時にイリーナの指導を頼んでいた。もちろん、出来る事なら俺も指導してほしいところだが、体格や種族特性の問題もあり、出しゃばらない事にした。


「ご主人様、お待たせしました! さぁ、早くいきましょう!!」

「おぉ早かったな。張り切ってるところ悪いけど、体がナマってるから、低い階から順番に馴らしていこう」

「はい、サポートしますよ!」


 戻ってきたイリーナが、シルキーなにかから逃げるように俺の背を押す。


 しかし俺が言うのもなんだが、やはりイリーナは変わり者だ。そこもまた可愛いのだが、どうにも"女の子"っぽい事が苦手で、何より真面目。親の事が起因しているのは間違いないが、それが無くてもイリーナは、元よりこんな性格だったのだろう。


 "復讐者"は、もっと余裕が無く、性格が歪んでしまっているイメージだったが、イリーナに関してはそれほど無理をしている印象が無く、"地雷"さえ踏まなければ普通に向上心の強い冒険者だ。


「うん。"2人"とも、いってらっしゃい」

「え? あ、はい」

「それでは、いってきます」


 まだ、新居は完成していない。しかしシルキーさんは、既に俺たちの事を認め、信頼してくれているようだ。それなら、その期待に応える以外に返すものは無いだろう。





「ご主人様、さっそくですね!」

「あ、うん。そうだな」


 早速、地雷ウルフに遭遇してしまった。まぁ、ウルフ単体で暴走する事は無いのでイイのだが、どうしても下層から中層にかけてのエリアは、ウルフに遭遇しやすいのは考えものだ。


「見ていてください。私、特訓したんです」

「おう。頑張ってくれ」


 イリーナは姿勢を低くし、左手を差し出すような態勢でウルフにニジり寄る。


 イリーナの左手は義手であるものの、ガントレット越しにソレを判断するのは難しい。そしてその左手は、最悪切断されてもノーダメージ。だから『肉を切らせて骨を断つ戦法』がノーコストで出来る訳だ。


 もちろん、普通に倒してしまっても問題ないが。


「「…………」」

「……そこです!!」


 跳びかかってくるタイミングに合わせて、イリーナの突きがウルフの顎を砕く。


「おぉ、お見事!」

「えへへぇ、それほどでも」


 返り血と照れで頬を赤らめながらも、ウルフにトドメをさすイリーナ。絵面は割とシュールだが、やはりシルキーさんに指導を任せて正解だった。


「体格や、瞬間的なパワーを活かせている。これは俺もウカウカしていられないな」

「そんな、私なんてまだまだです」

「ともあれ、今は解体と金策だ」

「はい!」


 何せ俺たちは10日で20万稼ぐ生活を、1年間継続しなくてはならない。時にはケガなどで狩りに出られなくなる事も考えると、それ以上のペースで稼ぐ必要がある。


「戦闘もそうだが、解体技術も勉強しなくちゃだな」

「そうですね。あと、皮を傷つけない倒し方も」

「だな」


 ゲームならオーバーキルしても普通にアイテムがドロップするが、現実では仮に、毛皮を焼きつくした魔物からは毛皮はドロップしなくなる。よって、お目当ての部位を破壊しない"倒し方"や、ソレを上手く取り出す"解体スキル"が求められる。


「ご主人様」

「ん?」

「その、私、ご主人様に買われて…………いえ、何でも無いです」

「プッ、そうか、クククッ……」


 一層頬を赤らめて言葉を飲み込むイリーナに対し、俺は半笑いで適当な返事を返す。


 感謝しているのは俺も同じだが、残念ながらお互い、そんな臭いセリフをシラフで言い合えるほど擦れてはいない。


 あと…………それでも、改めてソレを言おうと思わせたシルキーさんの活躍が、俺的にツボすぎる。


「ちょ、何で笑うんですかぁ!?」

「いや、すまない。ククク、まぁ、これからも、よろしく頼むよ」

「え? あぁ、はい! もちろんです」




 こうして俺は、冒険者の日常を取り戻した。

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