#061 怪人の囁き
「それで、次の話なんだけど…………光彦たちが上で活動している冒険者グループと"和解"したよ」
「これからは協力し合って、本気で第七階層を解放しようって、なんか燃えてる感じ」
「あぁ、そうか」
基本的に光彦派は、強制的に召喚して、魔物と戦わせようとする"この世界"を憎んでいる。自立組(特に恋人ができたヤツ)は意見こそ分かれるだろうが、少なくともこの世界の"倫理観"は日本とは大きく違う部分が多く、否定する気持ちは共通のようだ。
「勝手に召喚された恨みはあるけど、そこはホラ、こっちもデカい問題を起こしちゃったじゃない?」
「まぁ、あれだ。お互い様って感じで纏まったみたい」
「雨降って地固まるって事か」
「そういう事」
既存の冒険者の多くは『
そんな冒険者の世界に、和解だの妙な仲間意識を芽生えさせるのは正に"光彦マジック"であり、俺としては薄気味悪いものを感じずにはいられない。まぁ、当人にとっては『スポコンに目覚める』ような感覚なのだろうけど。
「まぁ、順調にいっているなら俺としては何も言う事は無い」
上層が解放されれば報奨金が出るし、高ランクのドロップで一気に稼ぎが跳ね上がる可能性は高い。不安な気持ちはあるが、最悪、人為的"でない"トラブルは起きても許せる。
「えっと、それで……」
「あぁ、うん。その、なんだ……」
突然挙動不審になるAとB。これは"悪い話"で間違いないだろう。
「よし、それじゃあ!」
「わぁ、まってまって! もう1つ話があるんだから!!」
「その、ほら! 恭弥、深呼吸して! ス、ス、ハー」
「……やっぱり帰る」
席を立って振り返った先には…………俺の想像を遥かに超える"厄災"が待ち構えていた。
「ったく、いつまで待たせるんだよ!」
「合図、忘れちまったのか?」
「恭弥、お願い!!」
「マジで、ワタシラに出来る事なら何でもするから! 今だけは冷静になって2人の話を聞いてやって!!」
現れたのはCとD。連続記憶操作事件の首謀者であり、今は改造手術を受けて悪の怪人"玉無し男"にジョブチェンジしたクズ2人だ。
「早く用件を言え」
「はぁ? キモオタが……」
「「わぁわぁ!」」
「ちょ、喧嘩は無しって約束したよね!?」
「いいから、ほら2人とも、簡潔に言う事言って!!」
「チッ! まぁいい。恭弥、テメーに良い話を持ってきてやった。協力しろ」
「断る」
「ちょ、だから待って、恭弥。アタシのオッパイ揉んで落ち着いて! 美玲も」
「あぁ! 信二も、喧嘩腰は止めなよ。処刑を無しにしてくれたの、本当は恭弥なんだからね!!」
前後で挟まれ、2人のオッパイが強引に押し付けられる。俺の人生において、これほど有難味の無いオッパイは他に無いだろう。
「そもそも俺たちは悪くねぇ! やったのは交じゃねぇか!!」
「信二、それは俺も同意見だけど、今はクールにいこうじゃないか」
高圧的な姿勢を崩さないCを、Dが嗜める。どちらも救いようのないクズだが、Dはどちらかと言えば"インテリヤクザ"な印象だ。
「まぁいい。俺たちは光彦たちに監視されて迷惑してるんだ。たく、ちょっと強いからってイイ気になりやがって」
「今は違うようだが?」
「流石に四六時中って訳でも無いからな」
まぁ、こっそり寮を抜け出してきたってところだろう。CとDは、上層開放クエストに強制参加と、光彦の更生プログラムの受講が義務付けられている。
「まったく、門限だの飲酒禁止だの、口煩くてマジで迷惑してんだよ」
さも大変かの様に言っているが、むしろユルすぎて眩暈がする。やはり光彦は"仲間"に対してどこまでも甘いようだ。
死ね。
「それでだ、恭弥、お前も、光彦の事、ウゼーって思ってるんだろ?」
「…………」
「才能だけで何でも手に入れる熱血偽善者は、ちょっと"痛い目"にあえばいいって、思うよな?」
「ちょ! 話が違くない!?」
「アンタラ! 恭弥に(戦闘の)指導を受けたいって話じゃなかったの!!?」
困惑するAとB。どうやら適当な事を言って、俺に口利きを頼んだようだ。
「確かに、何度か"死ねばいいのに"と思った事はある」
「だろ~。それでな、1つ"イイ話"がある訳よ」
「その前に、協力するのに1つ条件がある」
「ちょ、恭弥も何言ってんのさ!」
「2人は黙ってろ! へへ、話が分かるじゃないか」
「それで、条件ってなんだ?」
「今すぐ外に出て、魔物に喰われてこい」
「「…………」」
一瞬にして場が凍り付く。もしコイツラが仕掛けてくるなら、その時は迷わず腕を斬り落とす。
「お前、俺たちがその気になれば、一発でお前を廃人に出来るって事、忘れてない?」
「たしかに俺たちの能力は魔物には効果が薄いけど、対人なら最強なんだぜ?」
「そう思うならやってみろよ」
「「……………………」」
「2人とも!!」
Aの声がキャンプ地に響き渡る。
「信二も、大悟も、マジで止めてよ。これ以上ヤラかしたら、次は無いんだからね……」
「…………」
ボロボロと泣き出すA。Bはその姿を無言で抱きしめる。
「チッ! 冗談だよ。なに、マジになってんだ」
「たく、デケー声だすなよな。もう帰ろうぜ」
結局俺も、Aの涙にすっかり牙を抜かれ、それ以上何も言えなかった。
こうしてこの場は、有耶無耶になって解散した。
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