#004 冒険者ギルド

「……では、クエスト達成ポイントをカードに記録しますね」

「はい、お願いします」


 ノルンさんに冒険者カードを手渡す。


 この世界は中世ベースのファンタジー世界に近い外見をしているが、"魔法科学"が発達しており、案外生活に不便は無い。体感としては『日本の田舎』くらいの便利さだろうか? その最たるものが水洗トイレと冒険者カードだろう。電気こそ普及していないが、代わりに大気中の魔力からエネルギーを抽出できるので、物によっては電気よりも便利だったりする。


「はい、お返しします。もう少しでランクアップですので、頑張ってください」

「はい、がんばります」


 冒険者ギルドに来たのは、溜まったドロップ品を換金してもらう為だ。ギルド経由だと、定額で即換金できる代わりに手数料が発生する。ドロップ品の扱いは自由なので、自分で消費してもいいし、手間はかかるが加工して販売してもいい。


 因みに買い取りに限った話では無いが、ギルドを通す事で冒険者としての"ランク"を証明するランクポイントが貰える。これを上げていけば様々な場所で優遇が受けられる他、利益率の良い"指名依頼"が舞い込んでくる事もある。今のところは狩場にガッツリ籠もって稼いでいるが、将来的には"生産系スキル"や御用聞きの様な仕事をする事も考えている。


「それにしてもキョーヤさんは堅実ですよね。失礼ですけど、もっと危険なクエストを受注して、一気にランクを上げてくるものだと思っていました」


 先生にも言われたが、俺はそんなにハングリーに見えるのだろうか?


「まぁ、怪我をしたら大損ですからね。それに、低ランクのクエストは"ボーナス報酬"もあります。だからしばらくは、鍛練優先でやっていくつもりです」


 ボーナス報酬とは、特定のクエストを一定回数こなすと得られる追加報酬で、例えば『薬草収集クエストを5回達成するとポーションが1つ貰える』みたいなものだ。基本的には、人気のないクエストや、新人育成目的のクエストに対して、ギルド側が利益を削って提供している追加サービスとなる。


「そうなんですけど、どうしても初心者の方は、低ランクのクエストを軽視したり、いきなり高ランクの魔物に挑んだりして…………その、亡くなってしまう場合も少なくなくって」


 もっともな話だ。高みを目指すなら一番の近道は『強くなって高難易度の魔物を狩る』事。とくに若い男は、英雄ヒーローに憧れ、自分の力を過信してしまう。正直、その気持ちは痛いほど理解できる。俺も、ナチュラルチートな光彦アイツさえ居なければ…………今頃イキって死に急いでいたかもしれない。


「心中お察しします。無茶をしないとは約束できませんが、死なないように努力します」

「そう言ってもらえるだけで充分です。では、がんばって…………あ、忘れるところでした! ちょっと待っててください!!」


 そう言って、慌ててバックヤードに駆けていくノルンさん。ほどなくして戻ってきたノルンさんが抱える"包み"を見て、俺もピンときた。


「お! 出来たんですか!?」

「はい。鍛冶師ギルドに依頼していたオーダーメイド装備が完成したので、お納めください。代金はクエスト達成報酬の貯蓄で完済済です」


 俺は、クエスト報酬を"全て"ギルドに貯金している。当然、食糧や生活必需品の代金は自分の稼ぎから出さなければならないのだが…………魔物は一定の確率で魔法燃料となる"魔石"をドロップする。これが現金の代わりに使えるので、さほど不自由する事は無い。


・追加装備

忍者刀:鋼の軽量片刃剣。一撃の攻撃力は低いが汎用性は高い。鞘には様々な細工が施されており、踏み台やシュノーケルとしても使える。


「おぉ! イイですね、これ! 本当に、50万でいいんですか!!?」

「はい。とは言っても、ギルドのコネを使って無理を言いましたし、職人も剣のコンセプトに興味がわいたのか、料金以上の仕事をしてくれました。ですから今後はあまり期待しないでくださいね」


 この世界の武器の値段はピンキリではあるものの、ダンジョン内の露店で売られている刀モドキは2万もあれば買える。オーダーメイドとは言え、そこに50万を出すのだ。ロマンが理解できない人にはバカにされるだろうが、そんなものは気にしない。俺はこの世界に来て『ロマンの為に生き、ロマンの為に死ぬ』と決めたのだ。


 あ、あと、欠けたら泣くと思う。多分。


「はい! これが良いものなのは一目見て分かりました。早速、試し斬りに行ってきます!」

「はい。気をつけてくださいね。あ、あと最後に1つ。鍛冶師の方から伝言です」

「え? 何かありましたか??」

「はい。えぇ、こほん…………面白いアイディアがあったら、とりあえず俺に言え! だ、そうです」

「なるほど。では、こう伝えてください。…………沢山あるから、覚悟しておけ! っと」

「フフフ、畏まりました」


 俺には、地球の歴史が生み出した武器の知識がある。それがこの世界の技術や魔法と合わさったら面白いし、単純にゲームの武器を再現するだけでも胸熱だ。それこそ…………引退後は趣味で武器博物館を作るのも良いかもしれない。




 そんな事を考えながらも、俺は冒険者ギルドを後にする。

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