#068 クリスタルファントム②
「作戦通り、必ず3班で取り囲め! 合図をおくる余裕が無い時だってある! 交代する部隊は油断するな!!」
「「おぉ!!」」
結晶亡霊の姿は、当たり前だが"人の形"をしている。黒い霞のようなものを纏っており、身体能力が異常に高いが、それでも基本は"対人戦"と同じだ。
「何が結晶亡霊だ! 魔物風情が、人の"剣"を語るな!!」
「ぐっ! 流石に強いな。だが、お前の剣は…………軽い!!」
ベテラン冒険者が結晶亡霊と互角の鍔迫り合いを繰り広げる。
結晶亡霊の攻略法は単純で、ベテランパーティー(少数)が三方向から仕掛け、前衛にダメージや疲労が溜まったところで、パーティーごと入れ替える。
基本的には質の高い装備と前衛が揃っていれば"勝てるボス"であり、あとはボスの大技や魔物の乱入次第となる。
「それじゃあ、ちょっと行ってきます」
「ご主人様、お気をつけて!」
「いってら~」
他の照明班の警護を2人に任せ、俺は単独で部隊を離れる。
*
「おい、あの勇者、勝手にどっか行っちまったぞ?」
「おまえ、昨日の説明、聞いていなかったのか?」
「聞いていたぞ、寝ながらだけど」
「ほんと、お前の頭は飾りだな」
恭弥が、作戦エリアの外周に沿って駆け抜ける。
「あぁ、背後からも照明魔法で照らすのか」
「そう言う事」
「しかし、何だ"アレ"?」
「見たまんまだろ。短剣にマジックアイテムをぶら下げて、それを片っ端から木に刺していくんだよ」
森の木々に、次々と"クナイ"が突き刺され、それらが淡い光を放つ。
クナイの柄には、使い捨ての術式とその燃料が吊り下げられており、それを複数用意することで周囲を明るく、それでいて眩しくならないよう配慮して照らし出す。
「なかなか考えたな。でも、アイツ、1人で大丈夫なのか?」
「あぁ、大丈夫みたいだ。死霊でもゾンビでも、1人で全部瞬殺していっちまうから」
「流石は器用貧乏の勇者。ザコが相手なら、1人で何でもこなしちまうって訳か」
55Fの魔物はどれも一癖あり、敬遠する者が多い。各種ゾンビ・スケルトンには急所が存在せず、たとえ首を失おうとも、体力が残っている限り襲い続けてくる。
死霊に至っては、無機物をすり抜け、直接精神を攻撃してくる。故に普通の剣や盾に意味は無く、魔力を宿す高価な装備や、魔法による攻撃手段が必要になる。しかし体力自体は低く、有効な攻撃手段があれば倒しやすい相手だ。
「おい! アイツ、ゾンビにトドメを刺していないぞ!?」
「大丈夫だって。アレは、わざと殺さずに放置しているんだ」
「いや、ゾンビには出血や痛覚が無いんだ。放置しておいたら、結晶亡霊の方へ行くかもしれないんだぞ!?」
「大丈夫だって、ホラ」
ゾンビの首には縄が掛けられ、木に繋がれている。したがってその場から離れる事は出来ず、縄を外す知能も無い。加えて、死んでいる訳でもないので再出現(リセット)する心配もない。
「あぁ、考えたな」
「ゴーストには使えないが、周囲のゾンビが結晶亡霊に加勢できないのは大きいな」
「つか、アイツ、ゴーストを素手でぶん殴ってないか?」
「いや、光っているし、何かの魔法だろ。知らんけど」
「知らんのかい」
使っている魔法は<ファイヤーバースト>。攻撃魔法は構造上、どんな魔法でも"射出"の術式を組み込む必要がある。これを省くと、集約した魔力が手元で暴発して、術者にダメージが返ってしまう。
バースト系は、自傷ダメージを許容する事で、発動と消費魔力を極限まで抑えた攻撃魔法だ。当然ながら射程はゼロであり、触れられる距離まで接近する必要があるほか、返るダメージもバカにできないので、一般的には『割に合わない魔法』と認識されている。
しかし恭弥は違った。魔法耐性が魔法攻撃力を上回っており、平手でバーストを使えば、力を閉じ込める形が作れる。これにより、本来大気中に散ってしまう"力"を余すことなく対象に伝えることが出来る。更に打撃による物理ダメージも加わるので…………ハイリスクではあるものの、低消費で高威力の魔法格闘術が完成した。
「つか、アイツ強すぎじゃね? 誰だよ、低層に引き籠っている無能なチキンって言ったやつ」
「お前だよ」
「でもまぁ…………ミツヒコ程じゃ、ないよな」
「だな。あんな危なっかしいイロモノと違って、ミツヒコは上級スキルの<飛翔斬>を使いこなす正統派だ。ギフトも実戦向きだし……」
「やはり、時代はミツヒコだな。例の"組合"も、早めに入っておいたほうが良いかも」
「そうかもな」
ただし、ダメージ効率がいい分、光る斬撃を飛ばすスキルと比べると、どうしても地味であった。
そんなこんなで、対結晶亡霊戦は続く。
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