#162 改良型保存カート
「そうか、評判も良かったし期待していたんだが…………ダメだったか」
今日は久しぶりにキョーヤ様の手伝いで第三階層の崖エリアに来ていた。
「その、ダメという訳では。実績もあげていますし」
新しい魔道具の調整をしながら、前回受けた講習の話をする。
あの講習は、たしかに脱線続きで私に限定すれば実入りは無かったものの、不真面目と言うか…………真剣みに欠ける冒険者を惹きつける魅力はあったし、あの講師の人も凄いと思う。
「冒険者は自由であり自己責任だ。腐るのも、マイペースにやるのもな」
「はぁ……」
「ソレを取ってくれ」
「あ、はい」
「まぁ、冒険者の平均レベルがあがるのは良いことだ。そこは評価しているよ」
「そうですね」
キョーヤ様というか三ツ星グループ全体の傾向として、個人主義で癖のある人材や方針が多い。ようするに個性重視で団体行動が苦手なのだ。それで言えばあの講師は団体主義派であり、(優秀な人ではあるけど)ウチとはソリが合わないのだろう。
キョーヤ様は基本的に実力主義であるものの、私も含めて、それよりも性格的な相性を重視する。私よりも優秀な人はいくらでも居るけど、それでも私を使ってもらえるのはそのあたりが大きい。
「……こんなところか。それじゃあ試してみるか」
「その、お手伝いは」
「必要ない。身を守る事に専念しろ」
「はい」
まぁ実際、キョーヤ様の実力なら私は足手纏いでしかない。軽い足取りで岩場を駆けおり、そこに居た羊の魔物の頭上を飛びこえる。すると魔物は、まるで糸の切れた操り人形のように静かに絶命する。それは、ただ斬り殺したのではない。やっていることのレベルが高過ぎて上手く説明できないが…………相手の急所を外部から破壊するのではなく、内部で魔法を破裂させて外傷を(ほとんど)与えず絶命させる神業だ。
「それじゃあよろしく」
「あ、はい!」
調整していた魔道具は改良型保存
優れものなのだが…………そのせいで製造コストがまた上がり、いっそうモトをとるのが難しくなってしまった。つまり売れないのだが、それでも作るのはウチが特殊な依頼を受ける機会が多いのと、研究目的のため。ウチは鍛冶ギルドとのつながりも深く、様々な道具を開発・試験していたりする。
「すこし大きかったか?」
「ううっ、な、なん…………とか」
「まるまる一頭だからな。これ以上のサイズは積み込むための補助機能もいるか」
「あると…………助かります。……すごくっ」
魔物を必死の思いでカートにのせる。本来なら血抜きや部位の取捨選択をするのでここまで苦労はしないのだが、この方式はそのまま運ぶことで商品価値と利益率を確保している。正直なところ、妥協しようと思えばいくらでもやりようはあるのだが、三ツ星の味はこの手間があってこそなので仕方ない。
「バランスは良さそうだな。魔力抜けは…………もう少し抑えたいところだが、ん~~」
「ハー、ハー。それじゃあ、運びます」
ちなみに私のポジションはサポーターであり『私一人でも運用できるか?』も試験内容に含まれている。サポーターは基本的に荷物持ちであり『見習いの仕事』として軽視されがちだが…………商人や魔法使いなどの後衛職が担当する事もあるし、特殊な解体技術などをもつ高給取りのサポーターも少数ながら活躍しているそうだ。
「保存能力も見たいから、すこし休憩してから出よう。甘いものは好きか?」
「……はい!!!!」
「お、おう」
なんだかここ数年で1番の大声が出た。恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じるが…………キョーヤ様はあれで調理の腕も一流だ。というか三ツ星の料理は大半がキョーヤ様が考案したものであり、味もそうだが、珍しくて貴重のものが出てくる事もある。だから本能がちょっと暴走しても、それは仕方のないことなのだ。
こうして私は、フルーツサンドという
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