#065 警備隊・予備兵

「ご主人様、アレは……」

「わかっていると思うが、あの首輪がついてるやつは殺すなよ」

「……はい」

「なぁ~ボス、襲ってきたときは、どこまでやっていいんだ?」

「その時は殺してもいい。ただし、飼い主は"半殺し"までだ」

「ほぉ~ぃ」


 第二階層の探索の為に11Fに出たところで、久しぶりに"とある勇者"の姿を目にした。


「キョーヤ君、キミも"彼女"の様子を見に来たのかい?」

「いえ、たまたま通りがかって」


 声をかけて来たのは警備隊ゴルドフさん。


 このまま立ち去ってもよかったのだが、念のために状況を聞いておく。


「……アンタたち、見に来たんだ」

「たまたまだ」

「「…………」」


 休憩なのか、遅れてやってきたのはドッグジャンキー。イリーナと色々あって引き籠っていたはずだが、どうやら復帰したようだ。


 因みに、イリーナは黙って会釈をするだけ。そしてルビーは、俺の背後に隠れている。別に引っ込み思案とかでは無いが、余計なことを言わないよう、勇者や偉い人の前では『隠れていろ』と躾けてある。


「イクエ君には、少し前から警備隊の予備兵として働いてもらっている」

「そうですか」


 犬系の魔物を手懐けるギフトを持つ犬子は、警備隊に入隊したようだ。後ろには、無言で伏せるウルフが3体。一応、警備隊にはすでに犬系獣人がいたはずだが、多分その人たちと協力する形で、警備や捜査を担当するのだろう。


「その、今度は、ちゃんと許可を貰っているから」


 犬子がイリーナに語り掛ける。


 イリーナの事情は犬子も知っているはずなので『謝りはしないけど、敵対するつもりはない』って感じか?


「それは何よりです」

「「…………」」

「あぁ…………イクエ君は冒険者でもあるのだが、基本的にクエストには参加しないものだと思ってくれ」

「って事は、ダンジョンには出ないんですね」

「あぁ、その認識で頼む」

「その……」

「何よ?」

「行方不明の御二人は、捜索しないのですか?」


 現在CとDは行方不明であり"捜索クエスト"が出ている。俺はすでに『魔物に喰われて死んでいる』と思っているが…………死体も発見されていない事から…………一番可能性が高い第三階層では現在、光彦の呼びかけで集まった冒険者数名が捜索にあたっている。


 そして俺や先生たちは、"念のため"第一・二階層を捜索する事となった。別に、変な希望は持っていないが、死体すら見つかっていないのは不気味であり『生死が判別できるものでも無いか?』という気持ちで捜索に参加した。


 まぁ、俺も日本人の精神を捨てたわけでもないので、"仏様"を悪く言うつもりはない。葬式を開くなら参列するし、出来れば『遺品を地球に送りたい』と思っている。


「もしかして、私がやったんじゃないかって、疑ってる?」

「なぜ、その様に思うのでしょうか?」

「「……………………」」


 こわっ!


 確かに使役したウルフが加われば、2人の捜索は捗るだろう。しかし俺もそうだが、正直に言って『2人の生存』を望んでいる者は少ない。なにせ相手は性犯罪者だ。特に女性陣からの風当たりは強く、大抵は『光彦が言うなら……』って理由で付き合っているだけにすぎない。


 しかしそれとは別に、犬子なら今の状況を作り出せる。酒でも儲け話でもいいので匿名でダンジョンに呼び出し、油断したところをウルフに襲わせる。もし殺し損ねても、ウルフが出現するエリアなら、犬子が疑われる可能性は低い。


 流石に裁判になってしまえば言い逃れは出来ないが、例の強力ウソ発見器は高価な代物で、裁判沙汰にまで発展しない限りは持ち出される心配はない。


「一応補足させてもらうと、イクエ君にはアリバイがある。他でもない、我々警備隊のもとで、適性検査を受けていた」

「そうですか」


 普段は大人しいイリーナだが、流石に"仇"が絡むとそうはいかない。イリーナの親や自分の左腕を喰いちぎったのはウルフで間違いない。しかし、イリーナの親だって旅商人として最低限の自衛はしていた。


 数体の群れに襲われた程度で負けるはずは無く、にもかかわらず"負けた"のだ。それは他に何か"原因"があったと考えるのが自然で、例えば…………商人を襲うために調教されたウルフだった、とか。


「あ! そうだ!!」

「お、どうしたのかね、キョーヤ君」


 俺としても『犯人は犬子』だとは考えていない。まぁ俺と同じように『早く死んでくれないかな……』くらいには考えていただろうが、どうせボス戦で死ぬのに、わざわざ手を汚す必要は無い。


 犯人は例の事件の被害者、特に『被害者の恋人』あたりが怪しいだろう。それなら『ボスに殺される前に、直接殺したい』と思っても不思議は無い。


「いや、犬子のギフトって…………獣人にも、効果があるんですか?」

「「…………」」


 警備隊には、狼系獣人が多く所属している。ケモナー的には垂涎ものの状況だろう。


「犬子って…………別にいいけど。それはその、ある程度強い"自我"がある相手には無効みたい」


 目をそらしながら犬子が答える。


「あ、ふ~ん(察し)」




 そんなこんなで俺は、犬子の新たな出発を、生暖かい目で見送った。

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