#045 奴隷オークション

「よく誤解されるんだけど、ボクはこの世の全ての女性奴隷が、幸せになってくれる事を望んでいるんだよね」

「そうですか」


 ついに来てしまった、奴隷オークション。まぁ、興味が無いと言えば嘘になるが、ニラレバ丼と一緒なのは流石に……。


「まぁ、無理に分かってもらおうとは思わないけどね」

「少なくともニラレバ様の奴隷は、惨めな生活をおくっているようには見えませんね」


 映画や漫画のイメージで言えば、奴隷は『いつ死んでもおかしくないような劣悪の環境で虐げられる底辺の労働者』に思えるが、実際にそれをやったら病気などですぐ死んでしまうし、購入者も大損だ。大昔の地球の制度が実際にどうだったかは知らないが、少なくともこの世界では『無犯罪奴隷は(終身制ではなく)期間限定』であり『労働者として最低限の福利厚生』は保証されている。


 まぁ犯罪奴隷は、割とイメージ通りの生活らしいけど。


「そうかい? 相変わらずキミの言い回しは面白いね」

「言い回し、ですか」

「ん~、立ち居振る舞いと言った方がいいかな? ボクを敵視する者や、逆に取り入ろうとゴマをする者は多い」

「はぁ……」

「ボクも最初は後者だと思っていたんだけど、キミは多分どちらでもない、ただ"この場所"に順応しようとしているだけ…………って感じている」

「そうですか? まぁこの世界は気に入っているので、うまく自分の"場所"が確保できれば、確かに嬉しいですね」


 お互い興味のない男性奴隷を見流しながら、シミジミと言葉を交わす。


「ミランダの事だけど、お察しの通り"ハグレ勇者"にあてがったよ。とりあえず頭金だけ出してもらって、あとは分割払いでって感じ」


 やはりルリエスさんは、あの場に居たのだろう。最初にあった時もそうだったが、俺はあの場でも試され、そして"正解"を選んだ…………のだと思う。


「彼女は幸せそうでしたし、彼も充実している様に見えました。"誰も"損はしていませんね」


 買った奴隷を、そのまま首輪を外して自由にしてはいけないのか? 問題無いように思えるが、この国ではその行為は違法だ。何故なら、奴隷としての労働は"償い"であり、懲役刑や罰金刑の代わりに行われている行為なのだから。故に『規定年数の労働』と『奴隷としてあり続ける事』が強制され、それを免除する際は5倍もの追加代金を求められる。


 じゃあ、ニラレバ丼は買った奴隷を転売して儲けは出るのか? もちろん、売りつける際に水増し請求する事も可能だろうが、それは奴隷の条件から売価が逆算出来てしまうのでボッタくった事がバレてしまう。


 だからニラレバ丼は、買い取り金を分割にして高利貸しの真似事をしたり、早期に奴隷解放させ解放金を"中抜き"したりしているのだ。100万で買ったものを、満額の100万で転売出来たとしても利益は出ない。それなら解放金としてギルドに500万を払わせ、ギルドの利益から"仲介手数料"を徴収すればいい。


 これが、ニラレバ丼のビジネスのカラクリだ。


「そう言う事」

「そう、ですか……」

「しかし、退屈だね~」

「他の冒険者のステータスを確認できるのは勉強になりますけど、それ以外は見るところが無いですね」


 お互い思っていた事も言って、ようやくオークションに話題が向かう。


 現在オークションは折り返しを過ぎ、冒険者奴隷の紹介が大詰めにさしかかったところ。ユグドラシルはダンジョンであり、商人が護衛目的で購入するほか、内外で破産した冒険者が集まる事から"一応"彼らがメインの商品って事になっている。


「やっぱりキョーヤ君とは気が合うね。男にしておくのが惜しいよ。まぁ、ボクにホモの気は無いので、安心していいよ」

「そ、それは何と言ったらいいか、助かります」


 個人的に何かあったのだろうが、いちいち強調されると逆に怪しく感じてしまう。まぁ、女好きなのは間違いないが、両刀かどうかは大きな問題だ。


「性別もそうだけど、アイツらの"表情"が気に入らないんだよね」

「自信に、満ちていますね」


 冒険者奴隷は、年齢の問題もあって短期間で解放される。加えて活躍する機会も多く、早期解放も狙いやすい。つまるところ、奴隷の中では"勝ち組"なのだ。


 別に『卑屈になれ』とまでは言わないが、奴隷落ちした事実を反省し、相応の態度を見せてほしい。そう、思ってしまう。


「そう! 確かに冒険者としては、頼れる方がイイんだろうけど、奴隷落ちした時点で今更だよね~」

「奴隷落ちした理由が、酒やギャンブルなのに、自分は悪くないって顔をしているのは、納得できませんね」

「いやもう、鉱山にでも行ってろって感じだよね」

「ですね」


 不本意ながら、完全に意見が一致してしまった。何と言うか、基本的に他人、それも同性相手だと、どうにも興味が持てない。ぶっちゃけ、記憶する事自体を脳が拒絶してしまうレベルだ。


「よし、やっと売春奴隷の番だよ!」

「長かったですね」


 なんだかんだ言っても、奴隷を買うなら"ソッチ"の要素は外せない。たとえ護衛目的だったとしても、同じ能力なら共に旅する以上、異性の方がいいし、ソッチもOKなら更に良い。


「ん~、顔は及第点だけど、胸が小さすぎるよね。あぁ言うのはキョーヤ君の好みなんじゃない?」

「いえ、別に……」

「やっぱり、もっと"下"か」


 下ってどういう意味かジックリ問いただしたい気もするが、それはさて置き、他の参加者も血走った表情の者が多い。


 売春奴隷は、自分専用の娼婦であり、その気になれば嫁にも出来る。もちろん、時がたてば別れる可能性もあるが、奴隷側も売春奴隷の経歴は汚点であり、よほどの事が無ければそのまま夫婦として添い遂げるようだ。




 しかし、結局オークションで出てくる奴隷は"値段相応"であり、掘り出し者はいなかった。つか、掘り出し者じゃないと買えないんだけどね。


 そんなこんなで、俺は社会勉強だけ、ニラレバ丼は6人ほど売春奴隷を買ってオークションはお開きになった。

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