#046 魔法学

「中位の魔法は属性や効果をかけ合わせた複合魔法が主になりますが、それ以外だと術者の"属性値"に依存する魔法も加わります」

「つまり、魔法を覚えるだけでは使えない魔法って事ですね」


 今日は狩りを半日お休みして、ノルンさんに魔法を教わる事となった。別に魔法に限った話では無いが、俺は知り合った人に片っ端から声をかけ、各種基礎スキルを習得している。しかし適性の問題か、基礎を覚えるのは早いのだが、中位以上のスキルは地道に鍛練を重ねないと習得できない。


「それもそうなのですが、属性依存の魔法は魔力だけでなく、属性値を直接、変換、放出する魔法になりますね」

「ん~、奥が深いですね」


 因みに生徒は、俺とイリナ、そして先生と博士の4人。最初はルビーも居たのだが、早々に頭痛を訴えて逃げた。


「属性値に依存すると言う事は、私も使えるんでしょうか?」

「そうですね、イリーナさんは充分見込みがあると思います。代表的なところで行くと……。……」


 イリーナは、魔法適正こそ無いが、ドワーフの血の影響で土と火に適性がある。加えて、適性は無くとも暴走対策で普段から魔法を使っているので、僅かではあるが魔法関係のステータスも上昇している様だ。


・属性依存魔法

ストーンシールド:一定時間自身の物理耐性を向上する。土属性値が一定以上ないと使えない。土属性値が僅かに上昇する。

グラビティーブレイク:攻撃に土属性の追加ダメージを乗せる。土属性値が一定以上ないと使えない。土属性値が減少する。


「なるほど、私の型にもハマっているので、出来れば会得したいですね」

「因みに、ノルンさんから見て、ルビーはどうですか?」


 ルビーも同じく魔法適正は無いが、属性は火と風に適性がある。残念ながら本当に僅かなので充分な効果は見込めないが、それでも『ダメージの期待値が大きい攻撃』を正確に把握しておくのは重要なことだ。


「ん~、ルビーさんは根本的に魔力量が少ないので、素直に身体能力を伸ばした方が、良い気はしますね」

「まず、学習に対して適性が無いですからね」


 乾いた笑いが立ち込める。


 因みに、物理攻撃スキルにも魔力消費や属性の変動は存在するので、ルビーの場合は素直にソチラを覚えた方が早いだろう。


「その…………恭弥君はどうなの? どれが得意とかって」


 恐る恐る問いかけるのは先生。まだギコチなさはあるが、周囲の雰囲気もあってある程度普通に話せるようになってきた。


「そうですね。使う機会が多いのは火と風ですけど、今のところ得意不得意は無いですね」


 一般的な環境に暮らす魔物に対して安定してダメージが通るのは火属性だが、ドロップに影響する事もあり使用は制限している。結局、俺は相手に合わせて最適な魔法を使っているので、変に偏らせない方がいいのかもしれない。


「キョーヤさんの場合は、風属性なんて合っていると思いますよ?」


ウインドローブ:一定時間周囲に空気の膜を纏い、温度変化や霧系の攻撃を無効化する。風属性値が一定以上ないと使えない。風属性値が僅かに上昇する。

ライトニングブースト:瞬間的に素早さを向上させる。風属性値が一定以上ないと使えない。風属性値が減少する。


「あぁ、移動系は助かりますね。それに防御も、あると狩場の幅が広がりますし」

「ともあれ、属性値が偏ると、他の属性魔法は全体的に弱くなってしまうので注意してくださいね」


 適性とは別に、属性値は反発しあう組み合わせ(火と水など)が存在するので、複数の属性値を伸ばすなら2つが限界であり、威力は1つに絞った方が高くなる。加えて、上位の魔法になればなるほど体内属性の影響が強くなるので、たとえ物語のチート主人公の様に『全属性の適正』があったとしても、実際には全ての魔法をフルスペックで行使するのは不可能となる。


 俺には縁のない話だが、やはり現実で上を目指すなら浮気をしないで『一芸に特化して、相性の悪い相手はパーティーメンバーに任せる』スタイルの方がいいのだろう。


「質問」

「はい、リッカさん」

「こっちの本には"基本属性"は5つって書いてある」

「良い質問ですね。それは魔法体系の違いです。主流は"四大属性"ですが、5もあれば、12属性で術式を組み上げる魔法体系も存在します」


 1番シンプルな括りは『火・風・水・土』だが、精霊魔法には木属性の概念があり、他にも光や闇、中には金属や鉱物を土と分けてごんと表す体系もある。そのあたり非常に複雑で、俗っぽく言えば『魔法の沼』だ。


「四大元素、五行思想、概念属性……」


 因みに概念属性とは、不死とか聖などが該当する。ほかに祈りや奇跡を操る信仰魔法など、体系は無数に存在し、それぞれの使い手が都合に合わせて概念を定義づけしている。


「取捨選択していかないと、とても覚えきれない量ですね」

「そうですね、短命種の方に"魔術の探求"は、正直おすすめできません」

「ですね」


 魔法は一時的な事象の改変であり、魔法の法則だけでなく、物理法則や精霊に"力を借りる"なんて要素も加わる。そこには無限の可能性があり、それこそ異世界転移ですら可能にしてしまう。そんな奥深い学問なので、ギフトや適性の有無があったとしても一代でどうにもならない。


「助手」

「ん?」


 何の脈略も無く、博士が俺に魔法書の1ページを指し示す。


「あぁ、それは……」


 ページを覗き込み、微妙な表情を浮かべるノルンさん。


「バースト魔法?」

「それは、魔法使いには使えない魔法、ですね」

「はぁ……」




 そんなこんなで俺たちは、ダンジョン攻略だけでなく、様々な人から教えを受けている。

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