#047 栄子と美玲
「やっほ~、元気してた?」
「よっ!」
「……それで?」
夕方、俺はプレイヤーズのAとBに呼び出され、屋台通りに来ていた。
「つれないな~、アタシラの仲じゃ~ん」
「これ以上ないくらい適切な対応だったと思うが?」
「ハハッ! まぁいいや。悪いんだけど、100万くらいくれない?」
「死ね」
まさかコイツラ、カツアゲするために俺を呼び出したのか? とりあえず、耳を切り落としていい?
「いやいや、なんで段取りすっとばして結論ゲロってんのさ」
「いや、なんか面倒くさくなってさ~」
「わかった、ワタシから説明するから。えっとな、実はワタシラの間で、ちょっと意見っつうか、方針が対立するようになってきて……。……」
プレイヤーズは、倫理観の希薄なチャラい連中だ。クラスでは上手く取り繕っているが、放課後になれば夜の街を徘徊し、時には倫理に反する行為を平然とする。
その行いはアウトと言えばアウトだが、本人に悪意や悪気は無く、『これくらいイイじゃん。別にお前に迷惑かけている訳でも無し』と自己の基準で行動する快楽主義者の集まりだ。
「それでさ、信二は光彦"に"頑張ってもらって地球に帰るつもりみたいだけど、大悟は光彦に固執しないで、他の戦える連中をアテにしているみたい」
「ワタシは栄子と同じで、この世界の人たちとも協力した方がイイと思うんだけどね」
「つか、協力しないと無理じゃね? 10億だよ? そもそもアタシや美玲のギフトは、それ前提な感じだし」
ざっくりプレイヤーズの意見を纏めるとこうだ。
A(栄子)、この世界の人たちも含めて協力し合って、マイペースにがんばろう。
B(美玲)、何人生き残れるかも分からないのに、協力しないなんてどうかしている。
C(信二)、この世界の人たちは信用できない。つか、光彦に任せておけば何とでもなるだろ?
D(大悟)、光彦は仲間や非戦闘員を切り捨てられないから危険。保険の意味でも、他の戦えるヤツを上手くお膳立てしていくべき。
AとBは、(自分たちの都合で勝手に異世界に呼び寄せた)この世界の人たちをそこまで憎んではおらず、CとDは逆に強く恨んでいる。AとCは状況を楽観視しており『いつかは帰れる』と思っているが、BとDは危機感を持っており『犠牲は出る』、最悪『帰れない事もありえる』と考えているようだ。
「それで、なんで俺にタカる話になってるんだ? 最初にも言ったけど、回りくどい言い回しはやめろ」
「だから結論を先に言ったじゃ~ん」
「いや、だからってストレートすぎんだよ。恭弥も、今回はマジな話だから」
「聞かないとは言っていない」
本心は聞きたくは無いが、聞かないで地雷を踏みぬくのは、もっと御免だ。国は『何人かは死ぬし問題も起こる』前提で考えているようだが、それでもトバッチリや尻拭いが回ってくるのは目に見えている。
つか、美穂が正にソレだ。アイツはお人好しで、皆を信じて疑わない。だから事前の対策が出来ず、問題が起きてから俺に泣きつく。俺だって鬼じゃないから助けられるなら助けてやりたいが、アイツの成長の無さは流石に付き合いきれない。
「はいはい。でね、信二(光彦に一点投資)と大悟(分散投資)、あとはワタシラ(皆で協力)の方針、どれを選ぶかで"勝負しよう"ってなったわけよ」
「それが、
「そういうこと」
「アタシラ、揉めた時は何時もその方法で決めて来たんだよね」
まったく褒められたやり方では無いが、最終目標が10億なら、あながち間違いとも言い切れない。
「一番多く金を用意したヤツが"勝ち"だから、別に100万じゃなくてもいいんだけど、2人とも自信があるみたいだし……」
「つか、アタシラ2人合わせても、50万が限界、こんな事で借金するわけにもいかないし」
「俺なら、返さなくてもいいってか?」
「そこはほら、体で返すから!」
普通、この手のセリフは『親しい相手に冗談で使う』ものだが、この2人に関しては全く冗談に聞こえない。
「ワタシラ2人同時で、10回無料で、どう? どうしても生がいいなら、ちょっと時間を貰うけど」
「悪いがお前らじゃ、"抱く価値"は感じないな」
「はぁ!? アタシラじゃ抜けないっての!!?」
「栄子、落ち着いて」
そこでなぜマジギレ出来るのか理解に苦しむが、いい加減この会話にも嫌気がさしてきた。あと、相場的に2人で10回って、高いんだろうか、安いんだろうか? そこだけは気になる。
「俺のスタンスは変わらない。金が欲しいなら"情報"を持ってこい。そっちには、払うから」
折れる訳では無いが、何となくこの一件は大きな分水嶺になる気がする。
AとBは、倫理観や貞操観念が狂っているだけで、悪人ではない。コイツラの場合は、基本的に快楽と商売で行動しており、やっている事は(多分)犯罪行為には該当しない。
しかし、CとDは違う。アイツらは付き合っている相手に貢がせて相手を破滅させるタイプ。これは一歩間違えば、詐欺などの犯罪に該当するうえ、他人をどうとも思わない重大な"倫理観の欠如"があってこそだ。
そう、"払う側"であっては、あの羽振りの良さはあり得ない話なのだ。
「分かった。何とか頑張ってみるから、その代わり……」
「あぁ、金は用意する」
無理をして墓穴を掘らなければいいが、残念ながら俺にこれ以上肩入れする義理は無い。俺は美穂や光彦と違って"他人"は信じられない。
そんなこんなで俺は、不本意ながら100万を用意する事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます