#081 ゲートキーパーの攻略法
「フフフ、試しに私も使ってみたんだが…………危うく、腕を吹き飛ばすところだったよ」
「いや、なにサラッとヤバいこと言ってるんですか。自分の魔法攻撃力くらい、御存じですよね!?」
ゲートキーパー戦、当日。集合場所には、片腕を包帯で覆うロゼさんの姿があった。
「その、大丈夫なのでしょうか? その腕で……」
「あぁ、それは大丈夫。包帯は、気分で巻いているだけだからね」
「え? えぇ??」
イリーナが、厨二的発想を理解できずに狼狽える。
それはさて置き、ロゼさんはどうやらバースト魔法を試して自滅したようだ。この魔法は、魔法防御力が魔法攻撃力を上回っていないと自傷ダメージを受けてしまう。『魔法攻撃力>魔法防御力』の構図は、ほぼ全ての魔法職に当てはまる特徴なので、実戦でバーストを使えるのは(分かる範囲では)俺だけとなる。
「もう、紅蓮も"ゼロ"も、いつまでお喋りしてるんですか! 準備、手伝ってくださいよ!!」
「フフフ、怒られてしまったね」
「嬉しそうに言わないでくださいよ」
相変わらず御茶目なロゼさん。
因みに、ゼロとは俺の新しい二つ名の略称で、正しくは
「ご主人様……」
「ん? なんだイリーナ」
「なんだかその、魔法使いの方々と仲がイイですよね? 殆ど初対面なのに」
「あぁ、まぁ、フィーリングが合うからな」
言われてみれば確かに、これだけ大勢の人と好意的に接するのは珍しい。基本的に俺は『友達百人って拷問ですよね?』ってスタンスであり、一人や少人数を好むタイプだ。
「なぁボス……」
「今度はルビーか。なんだ?」
「やっぱりボスも、バインバインが好きなのか?」
「「…………」」
自分の胸を揉みながら問いかけるルビーの一言に、場が一瞬にして静まりかえる。
「ルビー、そういう質問は変な空気になるから、作戦前や作戦中は避けろ」
「おう!」
「ただ……」
「「…………」」
「大事なのは大きさじゃない。"誰のか"って事だ」
「そうなのか?」
「そうなのだ。そう言う事にしておいてくれ」
「お、おう」
メチャクチャ気まずい雰囲気になってしまった。どうせライラさんに色々と言われたのだろうが…………ホント、こういう質問は絶対的に男が不利なので止めてほしい。
「さて、キョーヤ君の好みは気になるが、準備も出来たので出発しようか」
「まったく、あれは"逃げ"よね」
「いや、どう見ても…………しょ?」
「え? でも…………じゃない??」
「ほら、皆さん! 出発ですよ!!」
第六階層ともなると、59Fまで行くのも一苦労。特に今回は、大量の資材を運ぶ必要があるので尚更だ。
*
ともあれ、今回はギルドや国も連携する大規模クエスト。大名行列の後方に位置する"護衛"に、特に仕事が廻ってくる事も無く…………気がつけば59Fの手前、幾重にも重なる蔓に閉ざされた"門"に到着した。
「そう言えば、このユグドラシルダンジョンって誰が作ったんですかね?」
「さぁ……。"魔王"が関係しているのは確かだと言われているけど、残念ながら"碑文"以上の情報は、この大陸には残されていない様だね」
資材の組み立て風景を眺めながら、今更ながらにロゼさんと語り合う。
俺は見られないが、ユグドラシルのルールは入り口に設置された碑文に書かれているそうだ。その歴史は少なくとも数万年以上とされているが…………詳しいところは誰も分からない。何せこの世界は、500年周期で魔王が出現し、その際に幾つかの文明は滅んでしまう。だから長寿で知られるエルフ族や寿命が存在しない魔人も、1万年以上前の記録は持っていないのだとか。
「"天然"の勇者って、本当は魔王と戦えるくらい、強いんですよね?」
「そうらしいね。でも、判明している限り、世界統一を成し遂げた勇者は居ないそうだね」
「魔王の方が強いって、詩人なかせですよね」
「フフフ、たしかにね」
そもそも『勇者=正義、魔王=悪』と言う構図が存在せず、7つある大陸それぞれに魔王や勇者が出現するので、結果的にチート存在が14人も出現する事になる。だから魔王と勇者が手をとりあう事もあれば、勇者が愛や私欲に溺れて国を亡ぼす事もあるそうだ。
そんな調子で500年周期で"魔王大戦"が勃発して、何処かしらの大陸が滅び、空いた席を埋めるように人や知識が流れ込む。そんな風に、衰退と発展を繰り返すのが"この世界"なのだ。
「そろそろ"櫓"が出来てきます! 最終確認をお願いします!!」
「おっと、どうやら出番のようだね」
「そうですね」
今まで手伝いもせずに傍観していたのは、もちろんゲートキーパーと戦うためであり、ここからは本戦に向けての最終調整に入る。
まず、運んできた資材を組み上げ、移動式の櫓を作る。これは城壁に取り付くタイプの攻城兵器に似た構造をしており、魔法使いはこの櫓から打ち下ろす形で砲撃を行う。
「よし! 土嚢を詰め込みながら、櫓を固めていくぞ! 各班…………! ……!!」
「連結は最後だ! まずは…………!!」
ただし、ただ木を組み上げただけの櫓では、大型の魔物の攻撃には耐えられない。よって、土嚢で防御力と重量を増やし、さらに隙間を土魔法で埋めて"動く石の塔"にしてしまう。これを十台ほど用意し、突入後それぞれを連結して、ゲートを塞ぐ城壁にするのだ。
「それでは、別動隊が"ケートス"に仕掛けます! いつ門が開いても良いように、突入部隊の方々は待機をお願いします!!」
最終確認が終わったところで、一旦魔法を解除して櫓を動ける(軽い)状態に戻し、別動隊が57Fのボス・ケートスに挑む。
ケートスは、一言で言えば小型のリバイアサンだ。生息域が水中なので、バカ正直に挑めば第六階層"最強"のボスとなる。しかし水棲の魔物だけあって、浅瀬に追い込んでしまえば"まな板の上の鯉"であり、ハメ殺し出来てしまう。もちろん、そこまでもっていくのに多大な労力と人員を必要とするが、今回のように採算度外視の状況では、もっとも倒しやすいボスであり、ゲートキーパー戦の最後の"鍵"に選ばれた。
「もうすぐゲートが開くぞ! 前衛部隊、突撃準備!!」
「「おおぉぉぉ!!」」
そんなこんなで、ゲートキーパー戦の幕が上がる。
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