#082 Yマンティコア①

「1班から2班、突撃! ボスを一旦遠ざけろ!!」

「「応ッ!!」」


 何もない、まるで闘技場のような59F。その平らな土の上を、重装備の前衛突撃班が駆けだす。彼らはまず、入り口に陣を設置するため"Yマンティコア"を遠ざける。


 59F、ゲートキーパー・ユグドラシルマンティコア。複数の動物や魔物を繋ぎ合わせたキメラの一種で、獅子の体にサソリの尻尾を無理やり取り付けた容姿をしている。キメラ種は、本来はもっと様々な種族のつなぎ合わせであり、他地域のマンティコアは人面や翼などを持っているそうだ。しかし、Yマンティコアはシンプルに2つだけ、その代わり……。


「で、でけぇ……」

「おいおい、あんなの、本当に倒せるのかよ!?」

「いやむしろ、戦いになるのか??」


 純粋にデカい。ゾウを通り越して巨大なマンモス級の巨体は、質量だけでも脅威であり、踏まれただけでも即死となる。


「喋っている暇は無いぞ! すぐに陣を築き、戦える形を作るんだ!!」

「「おぉ……」」


 Yマンティコアが大きいのは分かっていた事だが、あの巨体は流石にインパクトが大きい。実物を見てしり込みしてしまうのも仕方無い。


 加えて、体毛が異常に固く、刃が通らない。動きは巨体ゆえ遅いが、距離をとると……。


「毒針だ! 1班がやられたぞ!?」

「3班・4班、突撃! 1班の回収と誘導にあたれ!!」

「「…………」」

「何をしている! 突撃!!」

「「お、おぉぉ……」」


 サソリのような尻尾からは、大量の毒針が射出される。これは拡散と集束の使い分けができ、拡散は回避不能、集束は防具を物ともしない毒攻撃を叩き込んでくる。つまり、どの距離でも即死の可能性があり、回避型と防御型、両者に対応できる隙の無さだ。


「おい、確りしろ! お前、この戦いが終わったら結婚するんじゃなかったのかよ!?」

「へへへ、下手こいちまったぜ。アイツの事、頼んだぞ…………」

「そ、そんな……」

「いや、毒がまわっただけだろ? さっさと毒針を抜いて治療してやれ」

「え? あ、はい」


 毒針を受けた者が展開途中の陣に運ばれ、応急処置を受ける。1本1本の針は、五寸釘程度の大きさで、単体で金属防具を貫通する威力は無い。しかし、細いのでどうしても防具の隙間を抜けるものが出てしまう。避けるにしても守るにしても対処に困る、厄介な攻撃なのだ。


 幸い、毒に即効性は無いので1~2本程度なら素早く適切な対処をすれば危険は無い。しかし、動き回っていると毒の巡りが早まり、気絶に追い込まれるのは問題だ。そして何より、長期戦になった場合『治療する余裕はあるのか?』『大勢が毒に侵された場合、誰が前線を維持するのか』などの問題が出てしまう。


「そろそろ陣が完成する! 軽装突撃部隊! 出ろ!!」

「「おおおぉぉぉ!!」」


 この厄介なボスの対処法は、近距離なら回避全振り。遠距離なら防壁越しに攻撃するのが有効だ。幸い、ゲームと違って地形を利用して安地からのハメ殺しが許される世界なので、相手の攻撃手段が割れていれば対処のしようはある。分かっているところまでは……。


「フフフ、そろそろ一番槍といこうか」

「槍って、ソッチですか」


 本来の一番槍は、最初に敵陣に突っ込む者を指すのだが…………ロゼさんが構えるのは"炎の槍"だった。


「虚ろから出シ、獣ノ番人よ。我は汝を任より解放せし者。今宵コノ時、この鍵を持って、汝を悠久の束縛から解き放たん。…………<噴火の灼槍ランス オブ エトナ>!!」


 城壁の完成に合わせて、ロゼさんが巨大な魔法の槍を放つ。その灼熱は、身を焦がすような熱風を撒き散らしながら、一直線にYマンティコアに向かい…………刃を通さぬ鋼の体毛を焼き切り、肉を焦がし、炭化した血と肉片を撒き散らす。


「決まった! 直撃だ!!」

「何がゲートキーパーだ!? これがじん…………嘘だろ」


 爆炎と共に、深々と尻に突き刺さった一撃が、まるで逆再生でも見ているかのように元の様相を取り戻す。


「フフフ、流石に一撃では、終わらない様だね」

「メチャクチャ怒ってますね。でもまぁ、怒ってるって事は、ダメージが入ってるって事ですよね?」

「そうである事を、願っているよ」


 突然のカンチョーで、尻をあり得ないくらいに拡張されたYマンティコアが、怒り狂って、あり得ないくらい大量の毒針を飛ばしてくる。その怒りの雨を、城壁に身を隠しながらやり過ごす。


「前衛部隊、何をやっている! 毒針は足元には撃てない! 動きをよく見て、懐から突き崩すんだ!!」

「「お、おぉぉ!!」」


 前衛部隊が、Yマンティコアの足に剣を突き立てる。体毛に阻まれて斬撃は通らないものの、"突き"ならまだ少しはダメージが通るようだ。


「どうやら、出番の様だよ?」

「その様ですね。イリーナ! ルビー!!」

「はい!」「おう!」


 <眷属召喚>を受け、第六階層の主要な魔物が出現する。当たり前だが、ハメ技で完封できるほど、ゲートキーパー戦は甘くない。




 そんなこんなでYマンティコア戦は続く。

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