#092 闇魔法

「ご主人様、分かっているとは思いますが、くれぐれも無茶はしないでくださいね」

「そうです。キョーヤさんは相手に肉薄するスタイルなので、特に注意が必要です」

「はははっ。2人とも心配性だなぁ~」


 治療も終え、肩慣らしついでに31Fの森にやってきた。このエリアには"ポイズンスパイダー"と言う、まんま毒蜘蛛の魔物が出現する。


「分かっていますよ。それに、今日は魔法主体で行くつもりですし」

「バースト魔法では、ないのですよね?」

「ないです。それよりルリエスさん、予定とか大丈夫だったんですか?」

「あるにはありますが、キョーヤさんより優先するほどのものはありません」

「そ、そうですか」


 今回、突然ルリエスさんが狩りに同行してくれる事になった。別に、断る理由も無いので快諾したが…………やはり、リリーサ様の事もあって、俺に死なれると困るのだろう。


「ボス~。さっそくPスパイダーが来たぞ~」


 グローブを一撫でして、俺がPスパイダーに向けて左手をかざす。


「闇の炎に抱かれて眠れ<ダークフレイム>!!」



・追加スキル

ブラインド:黒い煙を出現させて視界を奪う基礎の闇魔法。ただし敵味方両方に効果があるので注意が必要。

ダークフレイム:纏わりつく漆黒の炎を出現させる闇魔法。継続ダメージと回復阻害効果がある。ただし継続ダメージの特性上、即効性は無い。

ブラッドレイン:赤黒い血の雨を降らせる闇魔法。相手の外皮や防具を侵食して防御力を低下させる。ただし魔法が使えるなら、そのまま魔法攻撃を放った方が手っ取り早い。

ブラックホール:地面に奈落の穴を出現させる闇魔法。攻撃力は無いが移動阻害効果がある。ただし浅くて直ぐに抜け出される。

サイレントナイト:音を吸収する褐色の霧を出現させる闇魔法。隠密行動に使う際は、発生する霧が目立つので注意。

カースドボティー:暗黒の影を身に纏う闇魔法。闇属性の攻撃を軽減する効果などは無い。体が黒くなるので探偵ごっこでは犯人役がはかどる。


 兼ねてから温めていた闇魔法をお披露目する。闇属性は(悪人や陰険な性格とは無関係なので)適性者の少ないレア属性だが…………だからと言って強い訳でも無いのが何とも理不尽で泣けてくる。そのあたり、属性はあくまで属性であり、そこに強いとか弱いと言う絶対的な上下関係は無いようだ。


 そしてこのグローブは、特製のグローブ型魔力増幅器。今は、結晶亡霊戦で得た[闇の属性結晶]を左手側にはめ込んでいるが、付け替える事で対応する属性を変更でき、さらに左右で違う属性を使い分ける事も可能。



「その、闇のナントカって言うのは、必要な詠唱なのでしょうか?」

「イリーナ」

「はい?」

「本職の魔法使いの人たちには、絶対、同じ質問はするなよ」

「え? あ、はい」


 そんなやり取りをしながらもPスパイダーの[糸吐き]を回避していく。<ダークフレイム>は見た目こそ"火"っぽいが、特性は"毒"に近い攻撃であり…………闇魔法の真髄は、1つの属性で複数の属性が得意とする効果を選択できるところにある。


 まぁ、俺は殆どの属性が使えるので、あまり意味は無いが。


「ボス~。もう、倒してもイイか?」

「だから、糸を回収するのが目的なんだって」


 やっていて、まどろっこいのは同感だが、今回のターゲットはPスパイダーの"糸"であり、あえてスリップダメージでゆっくり殺すことで、より多くの糸を吐かせるのが目的なのだ。


 残念ながらゲームと違って『糸を吐かせる前に蜘蛛を倒しても糸はドロップする』なんてご都合は存在しない。


「キョーヤさん、体に違和感は無いですか?」

「えっと、今のところは、特に」

「……ご主人様! お水をどうぞ!!」

「え? あ、あぁ」


 Pスパイダーを倒したところで、"気遣い"で先を越されたのが気に入らないのか、イリーナがいつも以上に世話焼きに力を入れる。イリーナは奴隷だが、メイド服を着せている事もあり、"ポジション被り"が気になるようだ。


 それなら代わりに、ルリエスさんには対魔物忍者スーツを着てもらうのはどうだろう?(思っても口にしない)


「ははは、ボス、モテモテだな」

「そうなのか? そうなら嬉しいんだが」

「「…………」」


 そろって視線を逸らすイリーナとルリエスさん。ルビーの"ド直球"なのもいいが、2人の恥じらいも見ていて癒される。


「そういえば……」

「「??」」

「答えられないならスルーしてもらっても構わないんですけど…………上位回復薬を入手できるよう取り計らったのって、ニラレバ様ですよね?」

「…………そうです」


 じっくり間をおいて、端的に答えるルリエスさん。


「別に、首を突っ込むつもりは無いんですけど…………俺も購入費の件で話が回ってきたもので、協力してもイイものかと」


 複雑な心境ではあるが『10億稼いでクラスメイトを送り返す』目標を考えるなら、光彦を早めに復活させた方がいい。本人の戦力もそうだが、光彦の存在はクラスの連中や一部の冒険者の原動力となっており、その経済効果はバカにできない。


「ニーラレイバ様の目論見は、すでに"半分"ほど達成しています。キョーヤさんに"見合う"何かがあるのなら協力してもらっても構いませんが…………購入資金を用意できなくとも、上位回復薬は、勇者・ミツヒコに渡る手筈になっています」


 とりあえず現状では、光彦に頼っていた連中が、本格的に光彦抜きで頑張っている点が大きい。更にここから光彦が復帰したとしても、危機感から『活動を止めてしまう』とも考えにくい。


「そう言えば…………光彦って、すでに1億の借金がありましたよね? その返済って、どうなっています??」

「それはお答えしかねますが…………キョーヤさんの想像と大差は無いかと」


 まず間違いなく、返済は一時中断しているだろう。下手をしたら、利息分の支払いまで滞っている可能性すらある。その条件として、すでに何か契約を追加している可能性も……。




 そんなこんなで俺は、気兼ねなく狂信者の申し出を忘れ、事業に投資する決意をした。


 まぁ、狂信者も、俺の事は"ダメもと"と言うか、手当たり次第に声をかけた相手の一人にすぎないだろうけど。

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