#139 恭弥対策会議

「それでは、第11072回、恭弥君対策会議を始めます」

「「…………」」


 薄暗い部屋に、仮面で顔を隠した女性の声が響く。


「まずは同士R、中庭の監視センサーの設置、ご苦労。同士のおかげで、また、のぞ…………こほん。沐浴の待機が再開できました」

「問題無い」

「「…………」」


 同士Rは、有能ではあるものの、言葉足りずで、度々議論の流れを止めてしまう。


「そうだ……」

「どうかしましたか、同士M」

「いや、この会議、毎回変な回数ですけど、そろそろ意味を……」

「はい! 他に質問は!?」

「くっ」


 同士Mは、知識不足から時折、余計な質問をしてしまう。


「我々は現在、さしあたって2つの問題に、直面しています」

「(告白する)勇気が無い事」

「うぅ、それは…………否定しませんが、もう少し、目を晒させてください」


 司会を務める同士Kは、同士を集って積極的に活動するものの、肝心なところで必ず日和ってしまう。今では、現実から目を背け、迷走具合を強くさせていた。


「同士の分裂も、問題ですよね」

「うぅっ……」

「あっ、死んだ」

「死んでません!」

「生き返った」


 この集いは、様々な理由から活動内容やメンバーの入れ替えが度々起こっている。そして入れ替わりを経て、最古参であるKが司会として同士を纏める今の形になった。


「えぇ、コホン! まず第一が…………家に帰らない問題です!!」

「あぁ…………たしかに。また最近、工房に居る時間が短くなりましたね」

「夜、居ないのが痛い」

「そう、それ!」


 恭弥は、元より安全な寝床を拒み、ダンジョンに身を置くことで精神を研ぎ澄ませていた。ともあれ、ゲートキーパー戦の一件以降は自宅の寝所を使うようになったが…………最近になって、また以前のように修行に没頭するようになってしまった。


「常に居ない訳では無いのですが…………前もって"理由"を用意しないと、時間を空けて貰えませんね」

「そうなんだよねぇ~。私的には、こう、自然に、雰囲気を作るところから入りたいんだけど……」

「私も、今は助手が必要な研究は…………ない」

「「…………」」


 結局、問題は相手ではなく、積極的に行動できない『彼女たちの性格』にあった。


「えっと、それで、もう1つの問題は?」


 空気に耐えかねMが話題を変える。


「それはもちろん、リリーサ様の事だよ。なんだか、"結婚"なんて話も出てるみたいだし」

「あぁ……。リリーサ様は嫌がっているみたいですけど…………家の事もありますからね」


 リリーサは、三ツ星商会の経営が軌道に乗った事もあり、正式に軍を退役し、所在をユグドラシルに移す事になった。それは、自身の夢であった『恵まれない女性を支援する』為ではあるが…………勇者である恭弥と結婚する話も持ち上がっており、周囲を納得させるために『形だけ結婚』してしまう展開が予測されているのだ。


「まぁ、私は愛人でも、気にしない。…………面倒だし」

「ぐっ。先生の立場では…………でも、法律的には、問題無いわけだし…………ぐぬぬ」


 面倒ごとを嫌うRに対して、倫理観に引きずられてしまうK。


「まぁ、リリーサ様は結婚したら貴族ではなくなってしまうので…………そもそも、正妻とか後妻って扱いは無くなりますけどね」

「えっと、この国って一夫多妻制なんだよね?」

「それは、間違ってはいませんけど、正しくは……。……」


 この国では、婚姻状況を登録・管理するのは貴族だけであり、平民の結婚を国が管理する事は無い。経済的な問題もあるので"一夫一妻"が一般的だが、経済力が許すのならその限りではなく、しいて言えば"事実婚制"なのだ。


「つまり私は、知らない間に恭弥君と結婚していたって事?」

「肉体関係や、互いの同意があれば」

「「…………」」


 互いに目を逸らし合う3人。


 とくに冒険者は、奴隷と結婚する事が多く、無暗に奴隷解放や財産を共有できない事情がある。分かりやすく言えば、結婚詐欺にあう可能性が高いのだ。街によっては"領地法"として婚約関係を管理している地域もあるが、街に属さない者たちの結婚や出生を管理するのは物理的に不可能なのだ。


「あっ、でも、ソレで言えば、リリーサ様は恭弥君とは結婚できない訳だよね? だって、その……」

「肉体関係に関しては、誰かが直接確認するものでもないので」

「うっ」

「つまり、まずは合意だけとればイイって事になる」

「それ、告白するのと同じだよね?」

「…………」

「「……………………」」




 こうして会議は、また、何も決まる事なく終わった。

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