#113 事業のスマート化

「 ……で、今回はどれくらい滞在できるんですか?」

「ん? 長くは無いが、何だお前、私に居て欲しいのか??」


 久しぶりにウチにやってきたリリーサ様。彼女の本業は軍人であり、用事があっても本人が顔を出す事はなかなか出来ない。


「いや、リリーサ様はともかく、自分はリリーサ様の事を嫌っている訳じゃないですからね?」

「そうか」


 相変わらず素っ気ない態度のリリーサ様。彼女は筋金入りの男嫌いであり、俺の事も嫌っているものの…………女性に対してなら人格者であり、俺的にもユリは大歓迎で、おまけに容姿も(ツルペタだが)可愛く、見ている分には癒される。


 むしろ、下手に恋愛だのを持ち出して問題を起こさない分、安心できるまである。俺も男なので、モテで悪い気はしないが…………だからと言って、ベタな転生小説の主人公みたいに、施設に集められた『女性全員に惚れられて、ハーレムを』みたいな展開になられても、普通に迷惑だ。


「正直なところ、リリーサ様には三ツ星商会の"監督役"として目を光らせていて欲しいんですよね」


 三ツ星商会には、長女の移籍に合わせてゴート肉料理以外の食品加工をすべて任せ…………ウチの業務は『試し屋・研究・魔物狩り・ゴート肉の加工』の4つに絞る事にした。その理由は、単純にキャパシティーの問題であり、新人の指導や事務処理が追い付かない状態になっていたためだ。


「オヌシは、サーラの事を信用しておらんのか?」

「商人として儲けを追及する中で本懐を見失う可能性が、"無い"とは言い切れません」

「「…………」」

「いくら私でも、本懐を見失うマネはせんから、安心せい」

「そうですね」


 現在、三ツ星商会は急速に事業を拡大している。商売をするにあたって必要不可欠なのは、利益になるものを見極める嗅覚と資金力だ。そんな中で三ツ星商会は、貴族の後ろ盾と、安心して投資できるだけのデータ(成功事例)が揃っている。


 これだけの好条件がそろえば、現金の親も安心して娘が商会長を務める三ツ星商会に投資できるし、(素人が作っているのは明言している事なので)多少の失敗や値段の問題は充分カバーできるだろう。しかし、そうなると心配になるのが"自惚れ"だ。お金に目がくらんで、安価な男性奴隷を雇ったり、料理の質を落としたりしかねない。一応、その辺りは長女もいるので当面は大丈夫だろうが…………そのうち、俺たちへの恩を忘れたり、忠告してくれる部下(長女など)を解雇したりしかねない。


「それでその……」

「??」

「す、すまんな。黒字化している事業を、殆ど奪ってしまって。オヌシだって、金が必要なのだろう?」


 利益率の高い"干しモノ"を手放すのもそうだが、ウチで預かる奴隷は欠損奴隷や事情持ちが中心となる。そうなると収益は激減してしまうし、手間やトラブルも多くなる。


「何を言っているんですか。ウチはあくまで、リリーサ様に協力しているだけですよ? 基本業務を、リリーサ様が用意した施設に移すのは、元から決まっていた事じゃないですか」


 そう、新工房ウチはあくまで俺の資産で、その資産運用の一環として奴隷解放計画に協力している。つまりウチは下請けで、集った奴隷はリリーサ様が購入した『リリーサ様の資産』だ。だからそれを、リリーサ様の都合で余所に移すのは、なんら問題無い行為となる。


 まぁ、研究成果や、三ツ星の成功マニュアルは、紛れもなくウチのものであり、その分の報酬(ロイヤリティ)は貰っているので、ウチが完全に赤字になる事は無い。


「そうだが…………オヌシには、同胞を帰す目標があるであろう?」

「あぁ~、そう言えば」

「そう言えばって」


 忘れていた訳では無いが、俺の精神衛生に配慮して、クラスメイトや聖光同盟に関しての諸々は、極力考えないようにしている。個人的に、ロマンの伴わない金儲けに興味は無いが…………それで後腐れなくクラスメイトと縁を切れる日が"早く来る"なら、それは間違いなく"嬉しい事"だ。


「良いんじゃないですか? 連中も、今はそれなりに稼いでいるそうだし」


 俺は勝手に、信者とかお布施と呼んでいるが…………やっている事は保険業であり、加入者から資金を集め、それを労力やギフトの恩恵で還元している。つまり銀行と同じで、手持ちの資金は相当多いのだ。もちろん、すべてが自由に使えるお金では無いのだが、少なくとも光彦が完全復活するのに必要な追加の治療費は、用意できたそうだ。


「あれは…………何と言うか……」

「正直に言って、胡散臭いですよね。黒い噂もありますし」

「そうだな」


 リリーサ様は、直接かかわっていないまでも、ルリエスさん経由でユグドラシルの様々な情報を把握している。それこそ、事故として処理された事件の事も。


「悪い事は言わん。カースマルツには関わるな」

「…………」

「アレの背後に居るのは"奴隷商"だ。末端を場当たり的に切り落とすくらいなら問題は無いだろうが…………組織を潰すとなると、奴隷商も黙ってはおらんぞ」

「リリーサ様が、大勢の女性を奴隷落ちさせようとする組織を、擁護するんですか?」


 つい、意地悪な言い方をしてしまった。


 そう、カースマルツは愉快犯や小銭目的で犯罪に及ぶ野盗では無い。国内全土で活動が確認される犯罪組織であり、その成果を換金するには、奴隷商の協力が必要不可欠だ。


 奴隷狩りは国際法レベルの犯罪(一部、人種などで例外アリ)であり、それを大規模な組織で生業にするのは不可能だ。しかし、"事故"で行き場を無くした者を無犯罪奴隷と言う形で保護し、仕事を斡旋するのも重要な社会貢献であり、奴隷商が人身を買い取るのは合法となる。それが、非合法な手段で奴隷落ち"させられた"者だと…………バレなければ。


「私だって! 出来る事なら、奴らを潰したいとは思っておる。しかし、奴隷商は貴族に顔が利く。奴隷商と言うより、"貴族"を敵に回してしまうのだ」

「やっぱり、リリーサ様は……」

「??」

「優しいですね」

「ふん! 女性限定である事を、忘れるな!!」

「はいはい。もちろん、リリーサ様にご迷惑がかからないように配慮しますよ。ルリエスさんもいますしね」


 頬を染める金髪ツインテール。デレこそ無いが、これはこれで可愛い。やはり、美少女はツルペタこそが"王道"。スタイル抜群の美少女は、美"少"女ではなくただの美女だ。(個人の感想)



 そんなこんなで俺は、決意を新たにしつつも、無理せずコツコツ、安全第一で…………犯罪組織に挑む。

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