#043 優良冒険者

「よっし、それじゃあ任せたからね! ケガするんじゃないよ!」

「おぉ! 任せとけ!!」

「いや、わりと頻繁に……」

「イリーナ、気にしたら負けだ」

「は、はい」


 俺たちはリンデさんに見送られて狩りに出発する。


 今回、指名契約の特権で、格安で大型カートをレンタルした。まぁ、ぶっちゃけて言えばリヤカーだ。





「今回は、生け捕りにする必要はないんですよね?」

「ウルフは鑑賞や標本用だったらしいからな。今回は"数"で勝負だ」

「腕がなるゼ!」


 やってきたのは33Fの"荒れた林"。ココにはポイズンスネーク(毒蛇)やサンドウルフなどの、下層の魔物の強化版が出現する。コイツラの皮は、ポイズンなら毒耐性がついており、お高い装備の素材になっている。


「毒蛇ですね。毒液を吐きかけてくるので注意してください」


 早速現れたのは、見るからに毒々しい紫色のスネーク。基本的にはグリーンスネークと同じだが、毒要素が加わった事で中距離からのハメ殺しが難しくなっている。


「ルビー! きりさく だ!!」

「おう!」

「きりさく は素早さ依存でクリティカル率が増加する」

「え? そうなんですか??」

「初期はな」

「え? え??」


 困惑するイリーナはさて置き、ルビーは素早い攻撃で毒蛇の頭部を斬り刻んでいく。


 今回、毒のスリップダメージが予想されるのでイリーナはカートを担当してもらい、ルビーが速攻アタッカーとして極力毒を貰わず倒す戦法を選んだ。


「倒したぞ!」

「よし、交代だ!」

「おう!」


 即座にルビーと入れ替わり、<解体>でスネークの皮を剥ぎ取る。残念ながら"最高品質"は出せないが、今回は実用装備として使用する目的なので多少品質が落ちても特に問題は無い。そんな訳で俺は、カートの護衛と解体を担当している。


 因みに毒蛇のドロップは、レア以外だと牙や毒液で、まぁ毒液は使えなくも無いが、買い取り金額は二束三文なのでデメリットは(レアのドロップを無視すれば)『ほぼ無い』と言えよう。


「防具用なので、頭を攻撃できるのは助かりますね」

「ほんとな~」


 極論を言えば、冒険者に求められるのは殲滅力ではなく"対応力"だ。もちろん、討伐系のクエストもあるので一概には言えないが、討伐の際も高価なドロップは極力拾いたいし、儲けが増えればそれだけ今後が楽になる。


「よし、とりあえず1枚。どこまでいけるか分からないが、魔力が持つ限り狩りまくるぞ!」

「はい!」

「おう!」


 各種皮の"高品質"は、大きさにもよるが1枚5千で買い取ってもらえる。それが大体半日で100枚集まるので、3人で50万稼げる計算になる。もちろんレンタル料や毒の治療薬の経費は発生するが、それでも充分な儲けが期待できる。


 じゃあ毎日、それこそ1日2回やればボロ儲けじゃね? っと思うかもしれないが、そこはゲームと違って出現数に限度があるので、ある程度間隔をおく必要がある。あと、当然ながら値崩れする場合もあるので、そこは需要に合わせて臨機応変にいくしかない。


「あ、パラライズスネークです」

「ラッキー! ルビー、逃がすなよ!!」

「おう!」


 今度は黄色いスネークが現れた。コイツは個体数が少なく、その分買い取り金額が高い。加えて、ドロップする"麻痺毒"も有用性が高い。


 受けて面倒なのは毒も同じだが、使う際は即効性がある麻痺の方が使い勝手がよく、殺傷性が無いのも生け捕りクエストなどで役に立つポイントだ。





「そういえば、あれからニーラレイバ様の使いが、何度も(グレポン式の)弾丸を購入しに来ているようですね」

「流石は金持ちだな」


 ひとしきりエモノを狩ったところで小休止。


「ボス、腹へった。干し肉をくれ!」

「ルビー、だからご主人様に登るのは……」

「……。ほんとはイリーナも……」


 すっかり打ち解け、仲良く喧嘩する2人は置いておいて、どうやらニラレバ丼はグレポン式を気に入ってくれたようだ。


 確かにグレポン式の瞬間火力は、奴隷に戦闘を任せる奴隷使いの"護身用装備"として最適なのは事実。むしろ驚くのは『狩りに出かけていた』ところだ。何と言うか、冒険者としては全く働いていないイメージがあった。


「じゃあ、膝の上ならイイのか? えへへ、汗のにおいだ」

「ちょ、なんで顔から!?」


 ともあれ、そこは問題ではない。重要なのは『買った奴隷をどうしているのか?』と、その『資金源』だ。別に暴いてドウコウするつもりは無いが、知っていれば回避できるのが地雷だ。


「さて、そろそろ続きを始めるか」

「でも、この辺は大体狩り終わったぞ?」

「"外周部分"なら、まだ残っていると思いますけど、行ってみますか?」


 外周とは、各階のゲートから一番離れたエリアに便宜上つけられた呼び名だ。不便なのであえて踏み込む冒険者は少なく、魔物の出現を安定化させるためにも侵入は極力控える決まりになっている。


「そうだな、ノルマは果たしたし、とりあえず帰って、次は28Fでゴートでも狩るか」

「さんせ~。知ってるか? ゴートの肉はちょっと臭いけど、上手く料理すればスゲー美味いんだぞ!!」

「そうなのか? そうか、そうか……」




 そんなこんなで俺たちは、今日も真っ当な冒険者として稼ぎを積み重ねていた。

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