#042 グレポン式

「キョーヤさん、先ほどギルドから"グレポン式"の量産型試作機が届きましたよ」

「おぉ、ついに来ましたか!?」


 ノルマを終えて帰宅すると、ベルンドさんのところに依頼していた新装備が届いていた。


「なかなか豪華な造りですけど、これを量産するのですか??」

「これは"販促用"だからな」


 届いた装備はグレネードランチャー型のマジックシューター。対応した魔法は<ファイヤーボール>なのだが、魔法と一緒に専用のマジックポットを射出できるようになっている。つまり『高コスト高火力のマジックシューター』って訳だ。


 これにはウチで開発した燃料が使われており、本体や弾薬の製造はギルドに頼んでいる。装備のコンセプト自体は初期段階からあったが、試作を重ね、この度ようやく量産できるところまでこぎつけた。まぁ、量産と言っても地球規模の大量生産ではないが、設計や開発者などの情報を『正式にギルドに登録した』ので、今後は通常の商品として店頭に並ぶようになる。


「量産型の価格は本体が4万、弾は1発8百を予定しているそうです」

「なかなかの値段ですね」

「本家マジックポットに比べればかなり安いが、その分火力も落ちているから一長一短だな」


 一応、グレポン式やその弾丸が売れると、俺に(組織の代表として俺名義になっただけなので、個人資産ではない)にインセンティブが入る事になっているが、あまりそこで儲けるつもりはなく、何より"売れる"とも思っていない。結局、コスパの悪さは僅かに改善されただけであり、破産装備である事に変わりはない。だからこれはあくまで『専門知識が無くてもそこそこの火力が出せる指揮官向け装備』として売り出すつもりだ。


 因みに、当たり前だがコスパや火力は、俺たちが普段使用している改良型マジックポット(紙パック式)の方が遥かによく、個人的に使う予定はない。


「それで、本当に、"あの方"にお譲りしてしまうのですか?」

「えぇ、そのつもりです」

「「??」」





「や~、キョーヤ君。キミの方から会いに来てくれるなんて嬉しいよ。あ、でも、ボクはホモじゃないから、勘違いしないでね」

「それは、コチラとしても助かります」


 やってきたのは第四階層キャンプ地にある大きな酒場。ココの2階はちょっとしたVIPルームになっており、ぶっちゃけニラレバ丼の指定席なのだ。


「さぁ、とりあえず座って。何か頼むかい? あ、ごめんね、女の子は"オッパイの大きい子"しかいないんだ」

「そ、そこは、お気になさらないでください」

「ハハッ! 半分冗談だよ。ボクは、手垢にまみれた女は抱けない主義でね」


 滅茶苦茶やりづらい。気さくなのはイイが、それでもニラレバ丼は貴族であり、何かあれば俺の首が飛びかねない。俺も一応"勇者"であり、一般人よりは格が高い立場なのだが、それでもこの国は階級社会であり、貴族が支配者である事実は揺るがない。


 とりあえず、いきなり用件を切り出すのも失礼なので、ひとしきり話に付き合ってから本題に入る。


「それで、今回面会をお願いした用件なんですけど……」

「その木箱だね? どんな卑猥なオモチャが出てくるのか、気になっていたんだ」


 これ、ツッコミを入れるべきなのだろうか? 本気でドツき倒したい気持ちもあるが、とりあえずスルーする方針でいく。


「ウチの工房で開発した新兵器をお持ちしました。ニラレバ様には是非、お試しいただければ思いまして」

「マジックシューターに見えるけど、この筒は何だい?」

「これは擲弾射出型のマジックシューターで……。……」


 ニラレバ丼にグレポン式の説明をする。意外と言っては何だが、食いつきはよく、俺の説明を真面目に聞くどころか、質問まで投げかけてくるほどだ。


 やはり、俺の"読み"は当たりだったのだろうか。


「なるほどね。それで、試射はさせて貰えるのかな?」

「もちろんです。コチラはすでにニラレバ様のモノです。替えの弾は、近日中に下の道具屋で販売されます」

「そうか。……店主! 裏の空き地を借りるぞ! 誰か、空いた酒だるを持て!!」





 酒場の裏の搬入スペースに移動する。この様な場所に貴族をお連れするのは問題があるが、本人に連れられては仕方ない。


「ここを折って、裏から弾丸を装填します。弾丸は密閉式なので多少濡れても問題ありませんが、長期間の放置や水没には注意してください。……あとは、魔力を籠めて引き金を引くだけですが、撃ってみますか?」

「そうだね。やってみよう」


 真面目な面持ちでグレポン式を構えるニラレバ丼。


 グリップには、内部の術式に繋がる魔術回路が仕込まれており、魔力が溜まったところで引き金を引くと、対応した魔法が発動して火をおびた弾丸が射出される。


 弾丸は着弾の衝撃で破裂し、対象に絡みつきながら激しく燃焼する。一応、内部に発火術式を組み込んだ"少しお高い"弾丸も近日発売予定だ。


「なるほど、なかなかの威力だが、思ったほどではないね」

「火に弱い魔物を"1撃"で屠れる火力に調整してありますが、もし必要でしたら、鍛冶師ギルドに……。……」


 過ぎたるは猶及ばざるが如し。っと言うのは半分建前で、実際には自動射出では大型化が難しく、本家の火力はとても再現できなかった。しかし、利点もそれなりにあるので、金銭面さえクリアできれば実用性は高い。




 その後は、ちょっと真面目になったニラレバ丼にアレコレ質問攻めにあったが、それ以上の事は何もなくアッサリ解放された。


 あ、そう言えば…………思いっきりニラレバって呼んじゃってたわ。

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