#141 魔力影響下での成長

「恭弥君。最初にぶしつけな質問をするけど…………私たち、地球に居た頃に比べて、綺麗になったと思わない?」

「…………」


 工房の改装が進められる中で、俺は博士や先生に『研究成果を見せたい』と言う理由で呼び出されていた。


「そうですね。肌や髪のハリツヤは明らかに良くなっていますし、体系もメリハリが確りしましたね」

「うぅ……。やっぱり、聞くんじゃなかった」

「??」


 異世界での生活は、危険ではあるものの健康的だ。その要素を挙げたらきりが無いが…………大きいところで言えば、早寝と、過剰で片寄った栄養を摂取する機会の少なさの2つのなるだろう。


「この世界の住人は、美形揃い」

「そうだな。正直、平均値が高すぎて、俺には違いが判らんが」


 この世界はシンプルだ。地球にも『3高』などのモテやすい要素はあったが、別に、それに該当していなくとも結婚して幸せな家庭を築ける者は多い。それは情報伝達能力の差や、価値観の多様性がなせるものであり…………3高に該当しなくとも、趣味が合う人同士で接点を持つことは容易で、社会もそんな人たちの結婚を認める寛容性を持ち合わせている。


 しかし、地球に比べてシンプルなこの世界はシビアだ。『武力・財力・美しさ』(地位も重要だが、基本的に身分差のある者同士の結婚は認められない)の3つでほぼ決まってしまい、他の部分に優れた者を評価し、添い遂げてくれる人に巡り合うのは困難をようする。


 それがなくとも厳しい環境がハンデを抱えた人を容赦なく蹴落としていくので、淘汰作用が地球に比べて強く作用しており、結果的に平民でも美形揃いの世の中が出来上がった。


「それで、研究で…………魔力が、美形化にも効果がある事が分かった」

「あぁ、それもそうか。博士も血色がよくなったし、髪もサラサラだ」

「ぐっ。やはり、無理」

「??」


 この世界には"魔力"と言う新たなエネルギーが存在する。たとえば、筋肉痛や擦り傷、虫刺されに日焼け。一時的ではあっても完全完治に相応の期間を要するものが、瞬間的に直せてしまう。そう言ったものの積み重ねが、バカに出来ない差になっているのだ。


 加えて、成長にも良い影響が出ていると思われる。魔力に肉体を直接改造する効果は無い(あるいは誤差程度)だろうが、特訓に対してその効果が反映される期間は明らかに短いし、"適性"として長所限定で更に早く成果が得られる。


「私、実は慢性的な肩こりと、下の歯並びが、ちょっと気になってたんだけど…………気がついたら、治ってたんだよね」


 復活した先生が説明を続ける。


 肩こりは、あの胸なら当然だと思うが…………そう言えば、確かにこの世界で胸が垂れている人は少ない気がする。それに、歯並びの矯正効果も面白い。適性とは別に、遺伝子が持っている設計図に合わせて(後天的な)誤差を修正してくれる効果もあるのだろう。


「言われてみれば、視力とか間違いなく上がってますし、回復効果だけでなく、矯正効果もあるようですね」

「そう。個人差があるみたいだし、人によっては、なんだそんな事って思うかもしれないけど…………やっぱり、女としてそこは重要な事なんだよね」

「そうですね。具体的にどのくらいの効果があるのかってのを調べようと思うと、大掛かりな実験が必要になりますが…………興味は惹かれますね」


 自分が、地球の限界を超えた身体能力を得ている自覚はあったし、その成長に"面白さ"も感じていた。今までは盲目的に成長を楽しんでいたが…………そこに論理や裏付けを追加するのは面白い。


「スポーツ科学は詳しくないけど、異世界スポーツ科学みたいなモノを確り纏められたら、私たちの成長だけでなく、後続の育成とか、多くの人を救えると思うんだよね」

「そうですね。多少地味で、個人でやるには壮大なテーマだと思いますが、価値のある研究だと思います」

「だよね!」

「うんうん」


 博士も復活して、グイグイ距離をつめてくる2人。その様子を見て、なんとなくこの話の"本質"が見えてきた。


「つまり、俺にその研究を手伝えって話ですか?」

「流石は助手」

「話が早くて助かるわ」

「いや、まぁ、身体測定くらいなら構いませんけど」

「「ふふ、ふふふふ……」」


 2人が、軟性義体の時の様な笑みを浮かべる。俺は男だから、を見られることも、細部まで体を測定される事も苦では無いが…………女性だとそうもいかないだろう。


「とは言え、サンプルが俺1人じゃ比較検証できないので……」

「それなら、私の身体測定もする? その、恭弥君なら……」

「いや、そうじゃなくて、折角、ここには10代の少女(奴隷)が何人も集まっているんですから、あの子たちからもデータの提出を強制すればイイって話ですよ」

「「…………」」


 2人の視線が痛い。


 俺には『未成年の少女に欲情する変態』のレッテルが貼られている。確かに小柄な少女は好みだし、"女の子"を可愛いと感じる気持ちに偽りはない。しかし、そこは男として絶対的に不利な部分であり…………女の子を可愛いと言っただけで、ロリコンと見られてしまうのは、不本意ながら理解できる心理だ。


「だから、何度も言っていますけど、俺はロリコンじゃないですからね」


 俺的には、女の子は『三次元リアルのガキ』であり、小型種の成人女性は『二次元美少女の立体化』の認識なのだ。そこには絶対的で明確な差があり、実際、小型種の人はその差を理解し、成人と未成年を区別している。


 俺はたまたま、その感性を持ち合わせていただけなのだ。


「「はぁ~~」」

「恭弥君、そういうところだぞ~」

「えぇ……」


 理不尽なクソデカ溜息が返ってくる。


 このやり取りは何度もしているが、結局、見分けがつかない者には理解しがたい感性の様だ。




 そんなこんなで俺は、今更ながらに身体測定で、体の変化を毎日観察される事となった。

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