#125 逃走①
「クソッ! どうなってやがるんだ!!」
俺は毒づきながらも、キャンプ地に戻り、もしもの時の為に用意しておいた隠れ家に飛び込む。
「なっ! バロット、なんでお前が!?」
「それはコッチのセリフだ!!」
そこに居たのはトンスル。コイツは女を騙して貢がせる、ちんけな詐欺師であり、肛門の破壊者の女性周りを攻略させていた。上手くいけば、破壊者の動向や、弱みを掴めるはずだったのだが…………この様子だと、俺と同じ状況なのだろう。
「それは…………キョーヤが仕掛けてきて」
「 ……。こっちもだ。ダンジョンに出てからずっと尾行されてな。とりあえず、気づいていないフリをしてキャンプ地に戻ったが…………この調子だと、あまり猶予は無いな」
思う所はあるが、とりあえず今は話を合わせておく。
トンスルは『三ツ星の女性数名に接触して、順調に交友を深めている』とか言っていたが、ホンフェイの話によると『金だけ貰って工作を放棄している』とのこと。俺の方からも状況を探ったが、どうやら工作を感づかれ、ビビッて『金だけ貰う』作戦に切り替えたようだ。
俺たちは、一応『カースマルツの同士』と言う事でツルんでいるが、それはあくまで金と組織の都合ありきであり、そこに友情だの信頼だのは存在しない。金になるなら参加するし、ヤバくなったらいつでも仲間を切り捨てる。それだけの関係なのだ。
「どうする? 連中、完全に俺たちを"村の仇"だと決めてかかってきているぞ。警備兵と連携していないのは、ソレを動かすだけの証拠が揃っていないのか…………はたまた、直接殺したいと思っているのか」
「そんなの、両方に決まっているだろ。一体、何人殺したと思っているんだ」
「クソッ。なんでここまで恨まれなければいけないんだ。俺たちは、金のために"仕事"で村を襲った末端だぞ? 恨むなら、依頼主の奴隷商を恨んでくれよ」
「連中は"力"こそあるが、裏の世界を知らない素人だ。殺し屋や武器商人を恨んでも、意味無いって事すら知らないんだよ」
そう、俺たちは『トカゲのしっぽ』であり、確証が持てたからと言って安易に潰していては、本体である奴隷商は攻略できない。しょせん肛門も、他の召喚勇者と同じで青い部分が抜けないクソガキの様だ。
「アンタたち、どうしたの? こんな時間に集まって」
「「!!」」
そこに現れたのは、荷物を抱えたホンフェイ。この隠れ家は、使われていない娼館の倉庫であり、普段はホンフェイが手入れをしている。
「おい! キョーヤの攻略はどうなっているんだ!!?」
「え? やっているわよ? キョーヤ好みの娼婦を使って、情報を抜き取る準備をしているところ」
「何を悠長なっ!!」
いつもの冷静さは何処へやら。自分の事を棚にあげて、トンスルは怒りと焦りを露わにする。
「そんな事言われても、私にどうしろって言うのよ」
「そ、それは……」
客観的に見れば、ヘマをしているのはトンスルであり、ホンフェイにあたるのは筋違いだ。しかし、それとは別に、俺にはホンフェイを信用できない"理由"があった。
「俺たちは、今……。……」
とりあえず、ホンフェイに状況を説明する。この隠れ家はバレていない様だが、今、自由に動けるのはホンフェイだけ。怪しくとも、頼る以外の選択肢は無い。
「それじゃあ、とりあえず食料を用意してくるから。あと、一応、ツテは当たってみるけど、期待はしないでね」
「あぁ、任せたぞ」
ホンフェイは、娼婦としての"ツテ"が幾つもある。冒険者に兵士、はてはギルド員まで。
「なぁ、奴隷商に匿ってもらう事は、出来ないか? アッチなら、人も多いし、権力的にも踏み込んでは来られないだろう??」
「下手をしたら、消されるかもしれないがな」
「…………」
それこそシッポ切り。俺たちさえ死んでしまえば、カースマルツや奴隷商へ繋がる道は閉ざされる。
「それより、ホンフェイのヤツ、怪しいと思わないか?」
「え? ホンフェイがか??」
ホンフェイの言動は、一見すると自然に見える。しかし、この状況で俺たちを非難しないのは落ちつきすぎだ。それこそ、俺たちを切り捨ててもいい筈なのに。
「とにかく、油断しない事だ兄弟」
「あ、あぁ、そうだな」
対するトンスルは『ヘマをしただけ』って感じなので、今、感情的に責める事はしない。カードとしては心もとないが、それでももしもの時の為に、取っておいて損は無いだろう。
*
「これと、これ。あと…………(冒険者)ギルドの知り合いに頼めば、手形は用意できると思うけど、どうする?」
「出られるのか!? それなら頼む! ユグドラシルさえ出てしまえば、連中は追ってこられないはずだ」
「…………」
「もちろん、"タダ"とはいかないけどね」
「チッ! 金は払う。でも、今は手持ちが無い。無事にユグドラシルを出たら、そこのギルドで金を引き出すってのはどうだ?」
いい判断だ。すぐに金を払ったら、ホンフェイは迷いなく俺たちを殺すだろう。そしてユグドラシルさえ出てしまえば、俺たちを口封じする意味は無い。
「それは…………仕方ないか。でも、前金として、有り金くらいは寄こしなさいよね」
「仕方ない。バロットも、それでいいだろ?」
「あぁ」
もちろん、バカ正直に全額渡すマネはしない。隠し持った金は、情報収集に使う。結局、最後に勝つのは、"情報"を制する者なのだ。
こうして俺たちは、ホンフェイに金を渡し、ユグドラシルを出る準備を整える。
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