第243話 灯の解説

「所で、皆さん、この和尚さんの奥様何ですよね? どんな所が魅力的でした?」

 カナデが不意にそんな質問をして来た、質問先は、当事者で有る自分を抜いた全員と言ったところだろうが、目線的には灯を向いている。

「ん? ん~~?」

 灯が変な声を上げて首を傾げた、直ぐ答えるには若干重いようだ。

「愛も恋も有るといますけど、思ったより理ですよ?」

 思考が纏まったらしい灯が、カナデの質問に返し始めた。

「上善如水 水は万物をじゃ無くて・・・・・・」

 しっくり来なかったのか、途中で言い直す。どうやら今から組み立てるらしい。

「君主の交わり水魚の如し? 水清ければ月映る? 水積もりて魚集まる・・・・・・」

 水系の慣用句が次から次に出て来る、何気にこの語彙力は文学少女だ。

 所々間違えている気もするが、通じるのは自分と灯だけなので突っ込みは薄い。

 君主の交わりは水魚では無く、淡い水のごとしなので、混じっている。水のように淡泊で有るのが最上という意味だ。

 水清ければ~は、水が澄んでいれば、月が綺麗に写る。心に穢れがなければ、神仏の恵みがあると言う意味だ、ある意味自分たちにぴったりではあるが、多分この場は其れでは無い。

 水積もりて~は、水量が豊かになると、魚が集まってくる。利益のある所に人が集まると言う意味だ。これも合っているが、少し違うのか、灯は未だウンウン唸っている。

「『水魚の交わり』で良かったんじゃないか?」

 先に出ていた君主水魚に近いが、微妙に違う。

 灯はその一言で纏まったのか、ポンと手を叩いてうんうんと頷く。

「じゃあ、そんな訳で、『水魚の交わり』故郷の言葉です、私が魚で、この人が水です、多分この人単体でも生き残れます、実質最強属性に近い水ですから、でも私は魚なので、水が無いと生きていけません、そう言うとべた惚れみたいに聞こえますが、ちょっと違うんです」

 ん、と、手を伸ばして。手持無沙汰にグーパーとにぎにぎしてくるので、対(つい)として掌を合わせて、指を絡ませる。

「そう考えると、この人はライフラインで有って、惚れた腫れたの恋愛対象とはちょっと違うと言うか、そもそも、一目惚れする様な格好良い人とはジャンル違うんです」

 そんな色気も何も無いことを言っている割に、手は離れないし、指も絡んだままだ、何ならにぎにぎと動かして密着度を上げたりしている。

「多分、この人も気が付いてる筈ですから言っちゃいますが、私もエリスちゃんも、利益を考えてこの人と一緒に居たんです」

 そう、何だかんだで利に聡い二人なので、自分自身を一番高く買ってくれる相手に貼り付いただけなのだ。

「私達、私と和尚さんは此処では異郷の者ですから、一番話が通じる、価値観を共有出来る相手がこの人しか居ませんでした、更にスタート地点が魔の森の奥地です、嫌われて単独行動したら死にますから、ここに惚れた腫れたは存在しないのです」

 割と身も蓋もない生存欲求で有る。

 そして、惚れた腫れたでは無いと言っている割に、今度は指を絡めたまま膝の上に乗っかって来た。

 ひとまず落ちないように軽く抱きしめるように手を添える。

「そして、人里に下りてからでも、何だかんだ言う事聞いてくれて、好き勝手させてくれる、いざという時は守ってくれて、そこそこ稼げて、ついでにエリスちゃんも付いてきて、そのおかげも有って、こちらの世界でもライフラインが整うと言う流れで・・・・・・」

 こうしてみると、灯の方が幸運に見えてくる、結果的に3人揃ってちょうど良い感じで、バランス良く回っている状態だ。

「更に、和尚さんがハーレム状態だと、最終的に一人あたりの家事分担とか諸々楽になるんですよね、私はベタ惚れねっとりヤンデレではないので、実利的に問題無い訳です」

 理詰めのすっきりサバサバ状態で有った。

「証明としては、私がこれだけ何だか酷いことを言っているけど、お咎めも何も存在しない辺りで、納得していただけるかと?」

 何故か得意げだった。

「良いんですか? こんな事言われてますけど?」

 カナデが胡散臭いと言うか、悪口を言われているのを見たような様子で、不安げにこちらを見て確認してくる。

「理だけで子供は産めないし、ゴブリンの群に飛び込んだりも出来ないと思うんで、コレはただのポースです」

 だから何も問題ないと返して、灯と唇を重ねる。灯のことだからこの対応も含めて全部計算ずくだったりするのだろう。

「まあ、大筋有ってるし、其れも有るのは確かなんですよね」

 エリスも渋々と言う様子で納得する。

 アカデさんも何だかんだ納得した様子で肯いている。

「で? 何でこの体制?」

 寝る時でも無いのにべったり密着して居る。

「理屈で建前其れでも、其処に情的なアレコレが無いわけでは無いと言うアピールです」

 灯が得意気に笑う。

「確かに、割と打たれ弱いですもんね?」

 エリスが納得する、だから其処まで解説せんで良いと言うか。

「あの、絶対に離れませんので・・・・・・」

 消え入りそうな声が聞こえる、困り顔の不安顔でこちらを見つめるクリスが居た、そういう意味では一番重いな。

「そんな訳で、意思表明をどうぞ」

 何故か良い感じに誘導できたと得意気に灯が笑う。

「全員自分から手を離すつもりは無いので、これからもよろしくお願いします」

 何故か頭を下げていた。

「いまいちです、もうちょっと独占欲を出してください」

 灯が判定する、どんな要点なのか、評価点が低かった。

「手元に居る限り自由と?」

 カナデがやっとこのメンバーの関係性を理解した様子で、一言呟いて首をかしげた。

「そんな訳ですね、好き勝手出入りできる鳥籠は城で、出入り出来ない城は牢獄と言いますが、そういう意味で自由な城です、実質の鎖はコレとコレだけです、もうちょっと強めに縛り付けても良いんじゃないかぐらいの緩さですから」

 何だかんだ気に入っているのか、灯達がネックレスの鎖と薬指の指輪を撫でる、結局誰一人外した所を見たことが無かったりするので、大事にされている様子だ。

「其れだから自分で付いてきてるんだろう?」

 言い返してみる。

「うっかりしてると勝手に死にかける和尚さんをほったらかしに出来るはず無いじゃ無いですか、勝手に死ぬライフラインとか最悪ですよ」

 睨まれた。

「ごもっともです」

 勝ち目は無い様子なので、大人しく項垂れつつ、灯を抱きしめることにした。

「なるほど・・・・・・」

 カナデが何故か納得した様子で呟いていた。


 追伸

 今年もお世話になりました。

 来年もよろしくお願いします。

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