第182話 ぬーさんの日々

 我が名はぬーさん、何時の間にかそんな呼び方をされるようになった。

 この地方の冬はかなり寒く、冬越しを失敗する事が多いので、冬場は人里に預けられるのが、この地方での我々猫族のちゃっかりした生存戦略である。

 無料(タダ)とは言わない、我々猫族をしっかり迎え入れた者には、我々猫族ネットワークによる一寸した守護が与えられる、匂いが残って居る限り、猫型の獣には襲われ無いし、他の魔物や獣に襲われている場合、ある程度の範囲で手伝いが有る。

 道に迷った時なんかは、場合によっては先導してやる事も有る、私の母が縄張りとして居る範囲の猫の生息域の限りでなら意外と役に立つ筈だ。

 まあ、効果は必ずしも保障されない訳で、居合わせた猫の気分次第の気休め程度でもあるが。


 冬越しで世話に成って居る内に、その家に子供が沢山生まれ、何時の間にか子守り担当にされていた、まあ、寝ている赤子が私の寝ている横に置かれている程度、私の眠りを妨害する訳でも無く、横で寝ている程度なら問題は無い、流石に母乳は未だ出ないから、ちょっと呼んで来てやる。

 オムツもか、ほら呼んで来てやるからちょっと待ってろ。


 ゴブリンが群れで人の集落を襲って来た、母が人里まで出向いて撃ち漏らしのゴブリンを狩って居た、私達を冬の間預けた分の恩は之で返したと言う事らしい。

 後日、得意気に報告された。


 気が付いたら、子供達にすっかり懐かれていた、何時の間にかしがみ付かれて身動きが取れない、迎えが来たのでこの家から出て行こうとした所、逃がすかとばかりにしがみ付かれた、そんな訳で出て行こうにも出て行けなかった。


 しょうがないので悲痛な鳴き声を上げた所、母には納得された、また来年迎えに来るらしい。


 更に世話に成って居る家に嫁が増えたと思ったら、また一人増えた、節操無いなこの家主・・・


 最初は揃って私の事を見るとぎょっとするが、特に何もしないぞ? でもその肉は寄越せ。


 何時の間にか赤ん坊も寝て居るだけから、寝返りを打つようになり、4足歩行を始めた、しかし人間は育つのが遅い・・・

 私達の獲物である草食獣等は生まれて直ぐ立ち上がると言うのに。

 ほら、危ないからそっちに行かない、こっちで大人しくしてなさい。


 2年目の冬が明けて、春に成り、段々温かくなって来た所で、改めて母が迎えに来た、その日は毎日の様にしがみ付いて居る子供達の拘束も緩んで来たので、改めて 母の元に帰った、46時中私にべったり張り付いている子供達だが、本来の親は居るのだし、私が少しの間抜けても大丈夫だろう。


 小さくさよならと鳴いて、家を出た。


 母の元で、狩りの練習と、縄張りの引継ぎを行う、未だ母が現役を退く予定は無いが、もしもの時を考えて、こうして私たち子供にも色々教えて居るらしい、そもそも私達は単独行動なので、無事一匹だけで獲物が狩れる様になれば独り立ちして好きな様にして良いらしく、一緒に生まれた兄弟も先に独り立ちした様子だ、縄張りの見回りの際に、兄弟の顔も久しぶりに見た、どうやら無事生きているらしい。


 狩りの時には気配の殺し方が大事だ、興味の無いそぶりを見せて、毛繕いでもして油断を誘うのが楽だ、下手に隠れようとすると余計に警戒される。

 射程距離に入ったのならこっちの物だ、我々が主と呼ばれているかは之で証明できる。


 母の元に戻って程無く、無事一匹でも狩りが出来る様になった、こうなると後は好きに生きろと放り出される、群れで狩りをしないと生き残れない訳では無く、一匹で十分生きていけるので単独行動なのだ、親子仲、兄弟仲が悪い訳では無い。


 群れの場合、群れを維持する為に自分の為の分以上に狩らなければ行けないので結構面倒なのも有る。


 久しぶりの外は広くて爽快なのだが、何時もしがみ付いて来る子供たちが居ないと言うのも少し寂しい。


 ふらりと、この間まで世話に成って居た家まで足が向いた。


 そろそろ家だなと近づいた所で、闇の中に見覚えの無い、黒い服を着た人間が居た、何だ其の下手な殺気の隠し方は?

 家の中に居る人間の匂いは一切しないし、あの家の関係者だと言うのなら私の匂いがしない時点で、余所者なのは良く分かる。

 ・・・臭いな、毒か、足音は人間にしては旨く消せているし、気配は隠せているようだが、その匂いは誤魔化せない、意識は家の中だな、敵か?


 音も無く忍び寄って、軽くあしらう、大層な毒が塗ってある武器だろうと、そもそも抜く余裕も無ければ出番は無いだろう、あまり人を食べる物でも無いと言うか、美味しく無い匂いがするので半殺しと威嚇程度で放り出す。


「主は人を襲わないんじゃ無かったか?!」

 等と寝言をほざいて居たが、この家の敷地は既に私の縄張りだ、殺気出して入り込んだ時点で既に敵である。 


 返り血が少し付いたが、まあ良い、少し顔を出して行こうか?


 待って居たとばかりに子供達にしがみ付かれた、こいつらは未だ私から独り立ちは出来なそうだな、外に居てもやる事も無いから、又世話をしてやっても良いだろうか?

 そんな事を考えて居た所で、其の汚れをどうにかしろと、家主の一人にお風呂に連れていかれた、先に飯は? お風呂が先? しょうがないな・・・


 御飯は遅くなったが、改めて歓迎され、丁寧にブラッシングされた、私が居ないと困る? しょうがないな、暫く居てやろう。


 結局、何十年単位で居る羽目と成った・・・



 追伸

 怪しい男は逆恨みの王族其の3と、ブレイン領の最後のおまけ的な刺客です、こんな感じに、最早和尚無しでも勝手にぬーさんが迎撃して居たりもします。

餌代以上のお役立ちぬーさんです。

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