第100話 ヌシの仕事
私はヌシ、自分自身でそう名乗った訳では無いが、人間から草原のヌシなどと呼ばれているので、そう言う事にしているだけだ。
人間とは持ちつ持たれつ。上手くやっていると思う。
馴れ初めとしては、生まれてすぐの頃、親兄弟と逸れてしまい、途方に暮れてニャーニャー言っていた所を人間に拾われたのだ。
丁度直ぐに冬が訪れたので、その出会いが無ければ私は今此処には居なかっただろう。
冬を人間の保護下でぬくぬくと過ごした私は。春になって外に出て。懐かしい匂いを追いかけた結果。
無事?親兄弟と再会する事ができた。
冬を超えた兄弟は数を減らし。4頭居たはずの兄弟は1頭に減り、親も兄も痩せ細っていた。
母は喜んでくれたが、兄は自分よりも体格が大きくなった妹である私に人間の匂いが気に入らないと喧嘩を仕掛けてきたが、体格の違いは純粋に力の差だ。軽くいなして力関係を判らせると大人しくなった。
そうこうして。大人になった私は、子供が生まれると、冬が来る前に人間の家に預ける事にした。
どうやら、上手く育てている私を見習って他の猫族も真似する事にしたらしく、私の子供以外も人里に居る猫族の子供達が何時の間にか増えていた。
幸い。人間は私達猫族の見分けはあまり得意では無いらしく。ただの猫だと認識しているようでなんの問題も出ていない。
最も、こちら猫族からも人族の見分けはつかないので、お互い様なのだが。
当然。利用だけしている訳ではない。私達猫族から人を襲う様なことはしない。
尤も、無遠慮に縄張りを荒らす様な礼儀知らずはその限りでは無いが。
偶然居合わせて魔物に苦労している時や。今にも襲われる場面では、こっそりと魔物を先回りして狩っていたりする。
冬越しの際に世話に成った者には気持ち念入りに、我が子を追い出した様な不届き者には一切手を貸さない。
ん?見分けが付かないんじゃなかったかと?同族や我が子の匂いはちゃんと嗅ぎ分けられるので、残っているのは仲間。匂いのしない物は不届き者と言う訳だから。難しい見分けでは無い。
そして、我が子が冬越しの際に念入りにマーキングした場合は。良くしてもらっていると言う意味なので、私の縄張りとして、念入りに守る事にしている。
其処に居る我が子の言う分には妹分が出来てしまったので暫くこっちには帰れないと言う事らしい、まあ、良くしてもらって居るので帰れないと言う事は良くある事だ、だが、身体が大人になってしまうと、流石に人間と色々トラブルに成ってしまうので、居座れるのも2年程度だ、それ以降は一気に体が大きくなりすぎるので、普通の猫だと言い張るにも無理が有るのだ。
そんな訳で、まあ、そのまま人の世話に成るのもその範囲でなら問題は無い。
そんな中で、小鬼共の大規模襲撃が有った。前回の大規模襲撃では私たちの父親、先代のヌシが活躍したらしい、一族を縄張りに集め、縄張りに入ろうとする小鬼やら大鬼やらを自ら先陣を切り、狩り殺して山の様に死体を積み上げたらしい、流石に老いには勝てずに、私に代替わりしたが、その時の武勇伝は猫族の中では語り草だった。
そして、今回の襲撃、私の出番だ、今年は我が子が人里にマーキングを入れて縄張りを拡張してしまったので、この人里が最前線に成ってしまった。どうやら世話に成って居る人間に子供が生まれて居るらしい、血と肉の匂いがする、人間は産んだ後の胞衣は食べない事が有るので、出来れば私が貰いたい位だ、そんな事を思いながら見回りとしていた所、暗闇の中に小鬼を見つけた、どうやら、人間が狩り逃したらしい、狙いはどうやら。我が子が世話に成って居るあの家か、血の匂いがするのだから当然だ、後産の胞衣は栄養が豊富だから引き寄せられるのも当然だ。だが、其処は我が子の、ひいては私の縄張りだ、勝手は許さない。
産婆視点
「にゃあ。」
「あら?どうしたの?」
カリカリと外側から戸を引っ掻く音と猫の鳴き声に呼ばれて戸を開けた、先ほどは入って来なかったけど、何か用が有るのだろうか?
今は奥様は産後の疲れで寝て居るし、3人の赤ん坊はそれぞれ大人しく寝ている、家主の他4人はゴブリンの襲撃騒ぎで飛び出して行ってしまった、この状態ではこの家と言うか、この子たちを守れるのは私だけだ、生まれた後は速やかに撤退するのが私たちの生き残り戦略だが、そんな事も言って居られないので、大人しくこの家で籠城しよう。
戸を開けると、猫がするりと中に入って来た、確か、ぬーさんと呼ばれていたっけ?
「なぁお。」
猫、ぬーさんは後産の胞衣を丸ごと咥えて部屋を出て行ってしまった。
胞衣は産後の肥立ちと乳の出を良くする薬、栄養食として珍重されているのだが、この家では三人とも栄養状態が良いので、まあ見逃しても良いだろう。
我が子の縄張りに入った小鬼を狩り殺していると、我が子が外に出て来た、胞衣を咥えている。
貰って来た?
守ってもらっているお礼?
じゃあ、有難く貰って置く。
だけど、今日の外は危ないから、暫くは其処の家の中に居なさい。
しかし、人間も頑張っているようだけど、あの程度の小鬼を逃がすなんて。
自分の子供も守れない様では親失格だ、しょうがない、胞衣をもらった分と、我が子が世話に成って居る分は、働いてやろう、せいぜい感謝するが良い。
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