第72話 武器屋 研ぎ直し(第68部分洗濯物を回そうの後)

「こんちわ。」

「おう、いらっしゃい。今日はどうした?」

「これの研ぎ直しお願いします。」

 刃先の潰れた何時もの槍と、前回此処で買った、現在刃こぼれの酷い剣を取り出して見せる。流石に前回ゴブリンキング相手に投げたり力尽くで足と首を切り飛ばしたりしたので、刃先が死んでいる。

「またこれは・・・」

 苦笑交じりに店主が受け取り、刃先を確認する。店主の目付きが一瞬で鋭くなる。

「槍は研げばどうにかなる状態だが、剣の方は無理だな、刃毀れはともかく刀身がゆがんどる、残念ながら之は処分だな。」

「買ったばかりですいません。」

 感覚としては買ったのはすぐ前だ、大量生産の鋳物ならともかく手がかかった鍛造品を直ぐに潰したのでは少し気まずい。

「気にする事はねえ、ゴブリンの殲滅戦でキング2匹潰したんだろ?生き残ってるだけめっけものだ。」

「その話はどこからで?」

「出入りの冒険者がとんでもない物を見たってどいつもこいつも。」

 盛大に広がっている、まあ冒険者の法螺話って事で処理されるとは思うが。

「眉唾かと思ったが、この武器の状態見る限りは本当だな。」

「まあそんな訳です。」

「こっちもそんな訳で帰って来た奴らの武器の修理やら調整、研ぎ直しが溜まっててな、これも結構刃先を削らなきゃならんから少し待たせるが良いか?」

「はい、槍は前のアレが有るので。」

「それなら取り合えず剣の代わりだな、そんな訳で丁度此処に昨日出来上がって研ぎ終わったこれが有るんだが、どうだ?」

 前回の潰してしまった剣より立派な剣が出てきた。

「キング戦でへし折れた前の奴よりは刃が厚い、今度は折れない筈だ。」

 キングと打ち合う前提なのはアレだが、既に三回も戦闘して居るので、ある意味最低限の性能要求と見るべきか。

「取り合えず試します。」

「おう、好きなだけ試してみろ。」

 剣を受け取り、裏に出て、抜いて一通り振り抜いて見る、元の剣よりは重いが、重量バランスは悪くない、先の方は身が若干薄くなっているのかちゃんと手元に重心が有る。

 止められるし回せる、問題無く使いこなせるな。

「大丈夫ですね。お幾らで?」

「じゃあ問題無いな、研ぎ直しも含めて金貨二枚で良いか?」

「はい、じゃあこれで。」

 ギルド証から金貨を取り出して払う。

「はい、毎度。」

「あ、小物用の投擲武器が欲しいんですけど。」

 今頃思い出した。

「ん?槍を投げるんじゃないのか?」

「投げる度に毎回回収するの大変なんで、メイン槍投げて回収するまで剣振るって回収地点まで行くって言うのもおかしな話ですから。」

「普通は投げた時点で終わりだろうが。」

「使い捨てにしても大丈夫程度の値段で手数を増やしたいのです。」

「短剣の類を投げたいと?」

「そう言う事で、投げた時にブレない物が有れば嬉しいです。」

「どこに下げる?」

「この辺で。」

 右腿を叩く、左は剣を下げるので付けて行くと干渉する、腕は下手に付けると技が制限されるので、余り付けたくない、そもそも両脇はあの二人の定位置なので、それの邪魔に成る物は付けたく無いのも正直な所だ。

「それじゃあこれだな。」

 腿にセットするレッグポーチと幅2センチ、長さ15センチほどの剥き身の刃物が出てきた、姿勢制御用に飾り紐も付いて居る。それが5本ほど入って居る。

「取り合えず試してみても?」

「裏の的に投げてみてくれ、当たらない様なら別のを勧める。」

 取り合えず右腿に装着して、また裏に出て、的に向かって投げつける。

 特に問題無く突き刺さった。

「当たるんだな?」

「この武器の精度が良いからじゃないですか?」

 残りの4本も投げつける、特に問題無く的に当たった。軌道に違和感も無く、素直に飛んで行く。

「問題無さそうで何よりだ、ちなみにベルトとその5本で銀貨15枚、投擲用刃の補充は一本銀貨2枚だ。安くはしておくが、ちょいちょい投げ捨てると破産するぞ?」

「出来るだけ回収はしますので。いざと言う時の手数が大事なのです。」

 刃の重量分の威力が足りないので牽制用ではあるが、無いよりは良いだろう。

「気持ちは分かるがな。」

 ギルド証から銀貨を取り出して払う。

 的から投げた刃を回収する。

「これはおまけだ、小さいのぐらいは自分で手入れしておけ。」

 砥石と油を付けてくれた、有難く貰って置こう。

「ありがとうございます。」

「槍の研ぎは3日ほど待て、ちゃんとまた来いよ?」

「はーい、お願いします。」


 外に出ると、こちらを認識した灯とエリスが寄って来た。

「良い物ありました?」

「この通り。」

 両脇に差して有る武器を示す。

「そっちは?」

 珍しく別行動だった。何を買って来たのだろうか?

「これで。匂いの気になるタイミングで帰る前に対策をお願いします。」

 大量の服と水瓶だった、帰って来た時臭かったので泊まった時は洗って着替えて匂い対策をしろと言う事らしい。臭いと言った罪滅ぼしと言う意味も有るのだろうけど・・・

「そんな微妙な顔しないで下さいよ。」

 灯に突っ込まれた、顔に出ていたらしい。

「流石にあの匂いは100年の恋も冷めるので。」

 エリスからも援護射撃が飛んでくる。

「りょーかい・・」

「帰って来た時に抱き着きたかったら、これで対策お願いします。香水禁止ですからね?」

「そもそも香水高いんで先ず売って無いです。」

 エリスが突っ込んだ。

「俺自身匂いのする物は苦手だし、森に入る時に香水付けてたら先ず死ぬな。」

 虫的な意味で。さらに、昔の職場では香水おばさんのお客様が、かなりの鬼門だった事を思い出す。嗅覚麻痺でとんでもない量の香水をかけているので。本気で合わないと比喩無しに吐く。香害はある意味アレと風呂入らないコミケのアレも別種の同系統なので、アレと同列になってしまったと思うと少し悲しい。

「和尚さん本体を嫌ってる訳じゃ無いんで、其処まで落ち込まないで下さい。」

 顔に出ていたらしい。

「匂い大丈夫だったら抱き着き放題ですし、私たちも嫌がってる訳じゃ無いんで。」

「分かってる。大丈夫。」

 灯がフォローを入れてくる、言って居る事も判ってるので大丈夫だ。

「和尚さんて意外とこう言う所打たれ弱いんですね?」

 エリスが今更気が付いたと言う様子で呟いた。

「肉体的には強くても、このラインは意外と弱いですから、本気で直ぐ凹みます、帰ったら甘やかさないと潰れるんで、扱い注意ですよ。」

 灯が詳細な説明を加える、その通りだけど、其処まで読まれても困る。

「なるほど・・」

 エリスは感心している、まあ、実害も無いし良いのだが。

「そんな訳で、帰ったら甘やかしてあげますから、とっとと機嫌を直して下さい。」

 そう言いながら、灯が荷物片手に腕を組んで来る、それに合わせてエリスも反対側の腕を取る。

「だから大丈夫だって。」

 其処までダメージは受けていない。ハズ。

「そのセリフに説得力は無いので、とっとと帰って甘やかしますよ。」

「はーい。」

 こういう時の二人は押しが強い。自分はそもそも反抗する意思は無いので流される事にした。


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