第73話 駆け回る坊主と来客

 その後は、1日刻みで深紅の翼と近場の討伐任務や採取依頼を受けまくった。

 深紅の翼のメンバーは流石にベテランなだけあって、効率良くクエストを受け、効率良く俺と言う戦力を投入して稼いで行った。

 金貨11枚も結局あっという間に稼いでいたので、それほど大した事の無い金額に見えて来るので、上級冒険者は凄いと思う。

 布の材質の関係でツエルトの完全再現は出来なかったようだが、ツエルト擬きの骨無しテントは出来上がったので、荷物が減ったとかなり喜ばれた、何だかんだで模造品が増えてきているらしい、もっとも、他のPTと野営で出くわすことはゴブリンの殲滅任務以外は余り無いので、実感は無いのだが。

 洗濯機は無事ぐるぐると回っている。洗濯板から手での回転運動に変わり、かなり楽になったと喜ばれたので、調子に乗って足踏み式にランクアップした、チェーンは工業力が足りなかったのでギア直結のクランクドライブである、皮ベルトドライブでは重さが無理と言う事で滑って使えなかったのだ。ギアボックスの理屈を伝えたが、歯車の耐久性と精度の問題で其処まで実用化出来ていない、大型化すればどうにかと言う事で、水車の石臼の回転力が上がったらしい。

 水車の回転力で洗濯物を回せば人力すら不要になると言ったが、水車を新しく作るのは流石に予算が厳しいらしく実用化まで行って居ない。

 仕立て屋の所に手回し式のミシンの原形のようなものも有ったので、同時に皮ベルトドライブが採用され、足踏みミシンにランクアップしていた。

 お陰でツエルトも量産体制が整ったので増えたと言う事らしい。

 虫糸(シルク)は高いので木綿生地ではあったが・・、


 そんな最中、ギルドに来客が居ると名指しで呼び出された、休みの日だったので灯とエリスも一緒に居たのだが、一緒にと言う事らしい、誰だろう?

「貴方がドラゴンゾンビに遭遇した人ですね?」

「ええと。どなたで?」

 下の解体場に案内され、中に居たのは覚えの無い顔だったので、思わず突っ込みを入れる。

 目線を向けて灯とエリスにも確認するが、どうやら知らないらしく、首を横に振っている。

「どちらかと言うと、俺が呼び出した来客だ、多分お前らは初対面だな。」

 義父上が解体場隅の椅子に座っていた。

「前回お前らが骨蛭付きのドラゴンゾンビを討伐しただろう?その骨の分析と、復元作業だ。」

「それで骨が転がってるわけですか・・」

 部屋中に骨が散乱、いや、並べられていた。確かに復元作業にも見えなくない。

「一応そいつが、うちのギルドでの一番縁が深い学者、アカデだ、前回の大発生も予想した位の凄腕だ。」

「どうも、アカデです。話には聞いて居ます。凄腕だとか。」

「どうも、ガンダーラのPTリーダーやっている和尚です、凄腕かは不明ですが、よろしくお願いします。」

 手を出してきたので握り返す。

「PTメンバー兼妻その1、灯です、よろしく。」

「PTメンバー兼妻その2、エリスです、よろしくお願いします。」

 そのパターンの挨拶は初めて見たな・・・そもそも揃って挨拶するパターンが初なので何とも言えないが。

 二人も揃って学者、アカデと握手を交わす、ああ、アカデさん一応女の人なのか、女の人で冒険者は身近にエリスも居るので其処まで珍しい訳じゃないのかもしれない。

 もしかして威嚇してる線なのか?今の所そういう対象では無いと思うから大丈夫だと思うが。

「昨日このアカデが到着して復元始めたんだが、正直骨がバラバラでどれがどれだか分からん、原形の参考が欲しいから呼び出した訳なんだ。」

 盛大に関節も砕いて居る物も有るので、原形が竜ですと言っても判り難い。

「ああ、そういえばスケッチとか出してませんでしたしね。」

 クエスト報告が口頭説明と現物確認で納得したのでそれだけだったのだ。

「そんな訳で、どんな動きをしていたのか、動いて居た頃のスケッチを頼む。」

「紙とインクをお願いします。」

 灯が珍しくやる気で言い出した。

「描けるか?」

「腐女子を舐めないでください、あの時は結構見てる余裕もありましたしね。」

 そう言えば、そう言うことも言っていたなと思い出す、同人誌も書いて居たのだろうか?

 灯が紙とインクを受け取って描き始める。


 淀み無く描き進めて、見事な竜の絵が出来上がった。

「見事なもんだな・・・」

 義父上が感心した様子で見ている。アカデさんも興奮した様子で書きあがる絵を鼻息荒く見ている。

「向こうで神絵師でもやってたか?」

「こっちで虚空菩薩の芸術の加護付いたおかげでしょうね、元のより上手くなってます。」

 得意気だが、少し複雑そうに言う。

「向こうでは神絵師の腕食べて神絵師に成りたいでしたけど、こういう流れで神絵師になるとは、人生分からないもんですねえ・・・」

 カニバリズムランクアップシステム、怖い怖い。

「今なら鼻歌交じりにシャッター取れたのに残念だったな。」

「人生ままなりません・・・」

 ため息を付き、がっかりと肩を落としながら、今度は骨だけ状態の骨格図を描いて行く。

「素晴らしい!、今度の論文と図鑑で挿絵書いてくれませんか?!」

 アカデさんテンション高い・・・

「そこら辺は料金次第でお願いします。」

 灯はただ働きはしないと言う事でしっかり徴収する構えだ。

「料金・・すいませんギルマス・・・予算下さい・・・」

 恨めしそうにアカデさんがギルマスを見る。

「少しは出そう。」

 ため息交じりにギルマスが答える。

「よし!お願いします!」

「はい、まかされました、でも実物見ないと書けませんからね?」

 それはそうだ。

「どの辺なら書けます?」

「えーっと。」

 灯が今まで見て来た物の名前を上げて行く。こうしてみると色々見たな・・

「ゴブリンとキング、ホブは見たんですね?丁度ゴブリンで新しい発見と仮説が浮かんだんです、先ずはその3種お願いします。」

「ゴブリンですか・・・」

 灯が複雑な顔を浮かべる。

「場合によっては被害者が助かる新発見があるんですよ!」

 その一言に、部屋中、一同に衝撃が走った。

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