第116話 暴れる灯の宥め方

 ゴブリンの大規模襲撃、自分たちの仕事としては、防衛線を九字切結界で強化、般若心経でのゴブリンが使う毒の浄化と治療、ゴブリンキングとクイーンの討伐、いわゆる大物狩り。そして、最後に従う頭をなくしたゴブリンの群れをゴブリン寄せ(恐らくフェロモン香水的な何か)で人里離れた場所に誘導して交戦、後はある程度数を減らせたら離脱して臭いを消して移動の後に帰還、残党狩りは余裕が出来たら。

 そんな予定だったのだが・・・


「多分、後始末要らない流れだな・・・」

 現在、灯が鬼子母神覚醒モードに入って大暴れしている。

 物理的に角が生えて居る訳では無いが、体表に揺らめく陽炎の様なオーラが発生している。その陽炎が何となく鬼の様に見えない事も無い。

「灯さんてあんなに強かったんですか?」

 エリスも呆然と言った様子で呟いて居る。

 灯が大暴れしている分、手が空いて来たのだ。

「灯に付いてる(憑いてる?)加護は、鬼子母神、所謂子供の守り神だから、多分、子供の所に早く帰りたいとか、お産邪魔したとか、そう言うので覚醒するとああ成る。」

「凄いんですね・・・」

「多分、エリスにも同じ加護付いてるから、その方向で怒ると似たようになるぞ?」

「あそこ迄怒った試しがないので・・・」

「まあ、普通はそうだけどな。」

 灯の戦闘スタイルは其処まで変化は無いと言いたい処だが、戦斧を振るうとゴブリンが千切れ飛ぶのは変わらないのだが、時々戦斧では間に合わない時に、素手でゴブリンを掴んで握り潰したり、殴ったり蹴ったりのパターンが追加されている。何時かの俺の戦闘スタイルも混ざって居る気がしないでもない。

 訂正、握り潰した上で投げつけるパターンは流石に無いので俺を参考と言う訳では無く、多分加護からの逆流だと思われます・・・

 返り血も凄いのだが、勝手に浄化されて跡形も無く蒸発している、やたらと便利だ・・・、流石に服の破損は直らないので段々と破れて際どくなっているが、まあ、このメンバーで今更見えても気にしている状態でもないので特に問題は無い。

 序に、ゴブリンの傷が浅くても、焼けた様に崩れて行く、ゴブリン特攻も付いて居そうだ。

 先ほどから灯の反応と言うか、返事が無い、狂戦士?バーサーカー状態?

 同士討ちと言うか、此方に対する敵意や危険と言うのは一切感じないので、恐らくゴブリンの殺気にでも反応しているのだろうか?

「隊列崩れたけど、悪影響は無いから、危なくなったら援護は入れる。」

 恐らく、あの状態では援護を入れる必要性が無い。無理矢理な戦闘スタイルなので、疲労は速そうだが、加護発現状態で疲労するのかは謎だ。そもそも、灯とエリス、二人共あのサイズの重量武器を振り回して居るが、疲れた様子が無い。この状態でなら自分は一般人枠の様な気がする、嫁に恰好悪い所は見せられないと必死にペース配分しているのだ・・・

 多分、読まれた上で気を使われているオチの様な気もする。


 そういえば、武器が油で使い物に成らなくなると言うお約束のネタが有るのだが、結局この3人揃って重量武器の為、切れなく成ろうと当たれば潰れるし拉げると言う事で、十分に殺せる為、多少効率が悪くなる程度で済んでいる、流石に自分の槍の穂先が役立たずに成ったので、其のまま柄の部分のや石突で殴る流れとなり、更に地味化する流れで肩身が狭い。

 韋駄天の真言でも使って上げ底しようかと思ったが、多分最後まで持たないのでやめて置く。



「疲れた・・・・」

「お疲れ様です・・・」

 思わずぐったりした声が出た。

 同じく疲れた様子のエリスが返して来る。

 其のまま倒れそうな疲労具合だが。座ったり転がったりしたら、それ以上動ける自身が無いので、肩を落として立ったまま呼吸を整える。

 虚空の蔵から瓢箪を取り出し、水を口の中に流し込み、エリスにも飲んで置けと渡す。

 周囲に動いて居るゴブリンが居なくなり、遠くで巨大な鳥達がゴブリンの死体をつついて居る、灯はかかって来る相手が居なくなったので、動きを止めている。

 未だに灯は一言も発していない。

「お疲れ様、大丈夫か?」

 少しだけ緊張して灯に声をかける。こっちを見るが、反応が無いので、未だ戦闘モードのままらしい、取り合えず、昔のあの時と同じ流れで、そのまま抱き締めて見る。特に逃げたりする様子が無いので、そのままよしよしと、頭を撫でる。

「オン ドドマリ ギャキテイ ソワカ」

 頭に浮かんだ真言を唱える、確か鬼子母神の真言だ。

「もう一寸ロマンチックな言葉をお願いします。むしろ褒めて下さい。」

 第一声が既に軽かった、通常モードに戻ったらしい。真言使ってスイッチできたのか・・・でも多分これ解除スイッチだけだろうなあ・・・と、今更な効果に納得する。

「よく頑張った、お陰でこっちも無事生きてた。」

「もっと感謝してくれても。」

「流石俺の嫁、灯と一緒で良かった。」

「こういう時の語彙力は一寸低いですね。」

 灯が噴き出す。苦笑いを浮かべて居る。

「すまんね、ナンパするには向かないキャラなもんでな。」

 ぐううぅぅ

 どちらからと言うか、灯の方からお腹の音が聞こえて来た。

「お腹すきましたね・・」

 灯が少し気の抜けた様子で呟く、少し照れている様子だ。

 緊張感と脳内麻薬、加護の補助が抜けて空腹に気が付いたらしい。

 お互い笑いながら、灯から離れる。

「取り合えず、保存食でも齧るか?」

 虚空の蔵から保存食の袋を取り出して、口を開けて中身を漁る。

「水と甘いのお願いします。」

「はいよ。」

 ナッツ類を蜂蜜と砂糖、小麦粉で固めて焼いたクッキー擬き、廃カロリー保存食を取り出す。もう一本準備して置いた瓢箪も取り出して一緒に渡す。近くで羨ましそうな様子で見ているエリスにも食料を渡す。

「これってカロリー高いですよね。」

 灯が今更な注意事項を呟く。

「あれだけ動いた後だから、むしろ食べないと死ぬ、運動量考えれば実質ゼロカロリー。」

「懐かしいですねそのネタ。」

 灯が笑いながら保存食を齧り、水分を盛大に取られたらしく、水で流し込んでいく。エリスはそんな事は気にしたことが無いと言う様子でリスの様に齧って居る。

「それと、今更ダイエット考えなくて良い、少なくとも俺が太ってると認識する迄は大丈夫。」

「それは分かってますけど、まあ、話のネタ程度だと思って下さい。」

「そだな、取り合えず、今は休憩、落ち着いたら帰るとするか。」

「はーい。」

「はい。」

 そんな事を言って居るが、既に日は傾いて居る、一旦野宿する流れだろうか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る