第129話 ナンパされた二人
「どうでした?」
武器屋から出ると、近くの店で時間を潰して居たエリスが直ぐに合流した。灯の所に見覚えの無い顔の若いのが居たが、凄い顔で走って行った。
「取り合えず、預けて来た、代わりは帰ってからだな。」
今日は外に行く予定も無いし、武器の確認は後で良いだろう。
少し面倒そうなため息を付いた灯がワンテンポ遅れて合流する。
「なんだかすごい顔した若いのが走って行ったけど、ナンパでもされた?」
「何だかこの時期他の場所からの新入りさん多いので、私達だけだと意外とナンパされます、色々握り潰せば青い顔して逃げて行きますのでご安心ください。」
灯が困り顔で手をワキワキさせながら言う。
「何を握り潰しているのか・・・」
「何を想像しているのかはアレですが、肩とか腕とかですよ?」
「程々にな?」
「冒険者の人たちは押しが強いんで、一寸強い位で丁度です。」
エリスも灯と同意見らしい。
「明らかに日本より押し強いですし、普通ににこやかに帰れって言っても帰りませんからね、それに・・・」
「それに?」
「ナンパされてるの見せると、和尚さん多分凹むというかいじけるじゃないですか、だから和尚さんに認識される前に握り潰して速攻でお帰りいただくのです。」
「なるほど、気にしすぎな感も有るが・・・」
「そんなもの気にしないって言うのは表向きで、物分かり良い振りして、何ならそっちに行ってもとか言い出します、今更私等が浮気する筈も無いのに、コミュ障モード入ってグダグダするのが見えます。」
「だから其処まで言わんで良い。先読みと深読みのし過ぎだ・・・」
いや、悪循環入るとやりかねないが。
「そんな訳で、ご機嫌取るのでご褒美下さい、この間言ってたじゃないですか。」
戦闘中にその場の勢いで何でもかんでも了解していた、恥ずかしい言葉も付きでアクセサリーが欲しいと言って居たな。
灯のその言葉にエリスも目を光らせている。
「言ってたな、良いけど、どの店?」
「あの店で良いです。」
前回と同じように金属細工屋が店を開いて居た。
「おう、相変わらず仲良さそうで何よりだ。」
細工屋の親父はどうやらこちらを覚えて居た様だ。
「又来たんでサービスしてください。」
灯がにこやかに値引きを要求する。灯も段々そう言った交渉に成れて来ているようだ。
「まあ、多少はサービスしてやるから、代わりに又アレやってくれ。」
「アレ?」
「前にもやってただろう?婚礼の誓いみたいな奴。」
前回同様見世物に成るルートらしい。
「望む所です、其れをやらせたかったのです。」
「アクセサリーがおまけです。」
灯とエリスが力強く店の親父と意気投合している。
「其れは其れで如何なんだ・・・・」
力無く突っ込みを入れてみる、既に多数決で負けているので諦め気味である。
「そんな訳で安物でもやたらと喜びます、安上がりです、贈る言葉が本体です。」
「安物扱いか・・・」
店の親父が苦笑を浮かべて少ししょんぼりしている。前回の灯に続き、エリスにまで安物扱いされている。因みに、前回買った指輪はしっかりと3人の指にそのまま輝いているので、安物でも長持ちしている。
「その割にはちゃんと現役なようで何よりだ。」
3人の手に未だに光る指輪を見つけて、少し笑顔を浮かべる。
「長持ちしそうで趣味の良いアクセサリーが有れば良いのですが・・・・」
灯とエリスは既に物色しているが、其処まで魅かれては居ないらしい。ほぼ見るだけで、手にとって付けるまで行って居ない。
「もっと良い物ありません?」
「はいはい、こっちのは高いけど良いか?」
親父が店頭に広げていなかった箱をカバンから取り出して、箱を開けた。
「わあ・・・」
「高そう・・・」
灯が歓声を上げ、エリスが少し尻込みした声を上げた。
店頭に置いて有るのは実際安目の銀系だが、親父がもったい付けて出して来たものは金系だった、ゴールドである、きんきらである。ネックレスやらブレスから指輪やらと色々揃って居た。
「わぁい。」
上手いリアクションが浮かばなかったので合いの手を入れてみる。
「どうだ、今度は安物じゃないぞ。」
店の親父がこれなら文句は無いだろうと、凄いどや顔で笑顔を浮かべて居る。
「鍍金(メッキ)って言う落ちじゃなく?」
念の為そんなツッコミを入れる。
「何なら削ってみやがれ、ちゃんと純金だっての。第一水銀中毒に成るから詐欺に使わない限り鍍金なんざ割に合わんわ。」
苦笑を浮かべて、威勢よく啖呵を切って来る。そうか、電気無いから電解鍍金じゃなく、水銀合金のアマルガムで鍍金するのか、其れは危ない・・・
「それじゃあ、和尚さん選んでください。」
灯がそんな事を言って来た、自分で選ぶのではなく、此方に選ばせたいらしい。
「石言葉と言うか、色々こじつけて下さいね?」
やはり、そうなるらしい。
「で、付いてる石の詳細は?」
聞くだけ聞いて見よう。
「透明なのは水晶、その白いのはオパール、その緑もオパールだ、赤いのがスピネル、透明な緑で赤いのがトルマリンだな・・・」
割と高くない石が並んでいる・・・この期に及んで安物なのか・・・金の台座に負けてるだろう・・・
「蒼いのはアズライト、その緑は緑柱石だ。」
アズライトには良く見ると金色の黄銅鉱だか黄鉄鉱が浮かんでいる、アズライトではなく瑠璃の方か、混ざるしな。エメラルドの緑柱石(ベリル)ではなくトルマリン系の緑柱だ。同位体のアクアマリンでも無いらしい。
「その縞模様はメノウだな、目が見えるだろう?天眼ていう一級品だぜ?」
「むしろあれですよね、其れは私達が和尚さんに送る物ですよね?」
灯が挟まって来た、確かに天眼メノウは仏教的には坊主に持たせる物だ、石言葉は神様の眼で財福を呼び寄せる・邪悪なものを跳ね返すと言う、やたらと強そうな効果が付いて居る。
「其れを言うと、そっちに贈るのは柘榴石(ガーネット)に成るぞ?」
鬼子母神の吉祥果である柘榴にちなんだ安直なネタである。
「宝石用の赤くて透明で奇麗な奴なら許します。」
理科の授業で出てきそうな灰板柘榴石は只の黒い石なので真坂宝石扱いでは無いだろう。と言うか、店頭には並んでいないだろう。
「エリスちゃんに関しては何でしたっけ、貴方を支配するの石でも喜びそうですが。」
「其の石は自分で買いなさい・・・」
妙な事を言い出す灯を窘める。
「どんな意味の石です?」
エリスは興味があるようで乗って来た。
「カイヤナイト、従順の石だったか?贈った相手を従わせるとか、贈り主の所有物って言う意味になるとか。自分で買った場合は自分を支配するだから悪い意味が消える。」
この辺は石好きの客からの又聞きのうろ覚えの知識に成るが、この石に関してだけは、贈られると言うのは問題で、マニアックな嫌がらせとして贈るのがお約束らしい。
まあ、この辺は安いカラーストーンを売る為のお約束の口上なのであまり意味は無いが。
「むしろ、その意味だったら贈られたいのですが。」
「ほら・・・」
「変な方向で炊き付けるな・・・」
エリスがむしろ欲しいと乗って来る、良いのだろうか?
「カイヤナイトなら有るぞ?」
親父も乗るな・・・
「金剛石(ダイヤモンド)は?」
「アレに関しては削りようが無いから奇麗にならん、同じ色の水晶で我慢してくれ。」
どうやら加工技術は未だ出来上がって居ないらしい。
「ダイヤ同士でこするのです・・・・」
「うん?」
思わずと言った様子で灯が呟いた。
「良いネタあったら話してくれたら安くするぞ?」
親父が目ざとく反応する、聞き逃す気は無いらしい。
「ダイヤは一番固い石なので、同じ硬さのダイヤの粉を皮に散らしてこするのです・・・」
「ほうほう、其れは良い事を聞いた、工房に帰ったら試させてもらうぞ。」
何気に灯、石ネタは詳しいらしい、段々と親父と石ネタで盛り上がり始める。
取り合えず、今の内に選ぶことにしよう。
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