第130話 贈る石
「どれ贈ってくれるんです?」
贈る相手に見られている状態で選ぶとなると、それなりの緊張感がある、恐らくは、どれでも喜んでくれると思われるのだが、だからと言って適当に贈る訳にも行かないのが問題だ。
「今回はこの辺で。」
エリスにピンクトルマリン、愛情と知識と言う意味になる。灯にガーネット、一途な愛と絆、という意味になるが、さらにこじ付けて口説かないといけないのが辛い所だ、見世物になる恥ずかしさは最早諦める、元から悪目立ちしていたので問題無い、前回の二人は見世物状態でかなり恥ずかしがっていたが、気にしない方向にしたらしい。
「じゃあ、こっちもコレで。」
「1つに付き金貨2枚の所だが、面白い事聞かせてもらったから1枚にしといてやる、3つで金貨3枚だな。」
二人も俺宛は選んだらしく、親父に見せて纏めて会計をする、前回同様、俺が2枚で2人で1枚分を取り出して払う。
準備出来ましたよと言う様子で、二人が此方を向く。
さあ、判定のお時間です。一種の公開処刑だと思うのだが....
前回は指輪だったので、今回はペンダントの方にした。
灯が先に受けますと言う様子で一歩先に出た。
何か始まるなと言った様子で野次馬が集まり始めた、人垣が集まりきる前に決着をつけよう。
「これからも、一途な愛と絆で、一緒に居てくれますか?」
小さくペンダントを掲げて言う、問題無ければ、そのまま近くに寄って付けさせてくれと言う意味だ。
「はい、喜んで。」
灯が肯定の返事を返し、近くに寄って頭を少し下げて俯く、留め具で止めるのではなく、そのまま一本の鎖なので、前から手を回して着けるのではなく、頭から潜らせる形になるのだ。もっとも、身長差が有るので、そうしなくても付けられるが、こちらが着けやすい様に気を使ってくれたらしい。鼻とか耳とか引っかかるしな・・・
ペンダントを着け終え、そのまま灯を軽く抱きしめる。
野次馬が少しどよめいた。
さて、バクバク音を鳴らしているのは自分の心臓か、流石に相手の音は服の上からは聞こえまい。もうちょい落ち着け。
少し待って灯を開放する。
流石にテレがあるのか。灯は顔と耳が真っ赤になっていた。
「いや、改めてやっても恥ずかしいですねこれ。」
「これがご希望だろう?」
灯の呟きにツッコミを入れる、灯が改めて髪をペンダントから抜き出して、ポジションを直す。
「んで、どうです?似合いますか?」
「うん、良く似合ってる。」
灯がその言葉に。相好を崩してにへらっと笑顔を浮かべた。
金の鎖はあまり細くなく自己主張が激しいが、どうやらそれ程違和感無く灯の胸元に収まった、ペンダントトップとなった赤褐色のガーネットも褐色の目の色と合い、組み合わせとしては問題無く出来上がった様だ。
此方はこちらの世界で回っているのだが、野次馬が勝手に大分盛り上がっている。拍手でも送られかねない雰囲気だ。
「はい次、エリスちゃん。」
赤い顔をした灯が。更に赤い顔をしたエリスの影に隠れるように場所を入れ替えた。
始まる前から既に場の雰囲気に飲まれたらしく、ソワソワしている。
少しワタワタと動いて、覚悟を決めた様子で、コチラを向いて固まった。
野次馬が更にザワザワしている、「2人纏めて?」等聞こえてくるが、まあ、雑音である。
「これからも、愛情と知識を持って、私の事を支えてください。」
先程と同じ様にペンダントを小さく掲げて、言う。
灯のより誓いの言葉が具体的なのは、明確にエリスはそう言う役割がある方が落ち着く様子があるからだ。
「はい、喜んで、任せてください。」
エリスは微笑み、そう言って、一歩こちらに踏み込み、俯いて鎖を待つ。
頭の上から優しく潜らせ、ペンダントを着けた。
そのまま抱き締める、エリスは緊張してガチガチに成っているが、段々と余計な力が抜けて行く。
何時もより距離感は服の分遠いぐらいだが、どっちにしても雰囲気に飲まれると固まるらしい。
落ち着いたタイミングで、抱き締めている手を開放すると、少し名残惜しそうに離れた。
離れてから、髪をペンダントから抜き出し。ポジションを直す。
ペンダントトップのピンクトルマリンはそれ程目立たず、金の鎖はエリスの金の髪と擬態状態で一体化してしまい、逆に目立たなくなった。似合っているのだろうか?
「どうでしょう?」
「良く似合ってる。」
「違和感無さ過ぎて埋まりますね。」
灯が突っ込みを入れた。アクセサリーとして埋もれるというのは微妙なのだが。
「似合わなかったら後で交換でもいいぞ?」
親父が助け舟を出すが。
「いいんです、これで。」
エリスは大事そうに抱え込んだ、気に入ってもらえたのだろうか?
灯とエリスが改めて小声で作戦会議を行い、二人ががりでペンダントを構えて口を開いた。ペンダントトップには、先程出て来た天眼瑪瑙が付いていた。
「これからも、私達を護ってください。」
前回と同じ言葉だ。当然答えは。
「はい、よろこんで。」
そう答えて一歩踏み込み、膝立ちで頭を垂れる。
どちらかと言うと、結婚とかの誓いじゃなくて、騎士の誓いの方だなと、内心で突っ込んだ。
二人ががりでペンダントを装着される。
抱き着いてくるのではなく。それ迄とは別に。左右からほっぺにキスが飛んできた。
野次馬が大盛り上がりで歓声を上げ。拍手が巻き起こった。
お互い、前回以上に真っ赤になり、顔を見合わせ、苦笑した。野次馬が盛り上がり過ぎである。
立ち上がり、どうだ、羨ましいだろうと手を降ればいいのだろうか?
店の親父と目を合わせて。
「こんなんでどうでしょう?」
と言うと。
「いやあ、良い営業だ、毎日やってくれないか?」
と、凄い笑顔で言われた。
「こんなもん、毎日やってたら有り難味が消えます。大道芸人扱いも嫌です。」
と、苦笑を浮かべて返しておいた。
「残念だ。」
さほど残念そうでも無い様子で店の親父が大人しく撤退した。
結局テレと恥ずかしさに負けたらしい二人は、前回同様に張り付いて動かなくなった。
「其処まで恥ずかしいならわざわざやらんでも‥」
後でそう突っ込んだ所。
「分かってないですね、その恥ずかしいのも含めてエピソードでセットなのです。」
と、灯に力強く断言された。エリスもうんうんと肯いている。この辺は議論するだけ無駄らしい。
エリスのネックレスはもう一回選びに行こうかと提案したが、大事に抱え込まれて断られた、最終的にネックレスに合うように服を変えて満足した様子だ、成程、そっちか。
追伸
和尚のセンスは其処まで良くありませんので、そんな事も起こります。
外では基本的に服の中に埋まりますので、それほど目立つ予定は無いですが、そんなグダグダも味の内と言う事にしておいてください。
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