第224話 役人の見舞いと、護衛の毛玉

「本当に命懸けだったんですね?」

 予想外の変なモノを見たと言った調子で役人が第一声を発する。

 現在地は教会の病室、居るのは自分と何時もの役人、其れとぬーさんだ。

 相変わらず自分は療養中、ぬーさんは横に居るのでは無く、布団の上に我が物顔で寝そべって居る、ちび猫達は今日は揃って狩りに行ったと言うか、添い寝担当は自分が居るとばかりにぬーさんが居座った所で、蜘蛛の子を散らす様に出て行った。

「私を何だと思ってるんですか、生身の人間ですよ?」

 この人の中では割と超人扱いされて居たらしい。

 筋肉痛で倒れもするし、病に伏せたりもする、この世界では骨折位治るにしてもだ。

 自力では魔法のような回復を望めないのは深刻である。

 灯の真言では其処まで治らなかったと言うのがアレな所だが、文句を言う所では無い。

「今更納得した感じですね、ですが先日に続いてご無事で何よりです」

「其の事ですが、私達を不穏分子処理の為の囮にしましたね?」

「はて?何の事やら?」

 役人がとぼけた顔で、目を細めて苦笑を浮かべる、相変わらずの狐だ。

「まあ、その程度は如何と言う事も有りませんが?」

 現状嫁達が居るだけで防衛線が鉄壁である、更にぬーさんが飛び入りしたお陰で、襲撃側としては難易度爆上がりである。

「治療薬の状態は如何なって居ますか?」

 仕事の状態を聞きたいらしい。

「順調では有りますね、薬の宛は付いて、仕事の引継ぎも出来ました、恐らく私が倒れたままでも、薬と治療法は出来上がるでしょう」

 現状、自分無しでも仕事は終わるだろう、居無くなったら其れこそ嫁達に怒られるので、居無くなる訳にも行かないが。

「ほう、其れなら安心しました」

 その言葉に合わせて、寝たふりを決め込んでいたぬーさんが顔を上げ、ちらりを役人の顔を睨みつけた。

(解ってる、大丈夫)

 と、ぬーさんの首元を撫でて安心するようにと意思表示をする。

「私の首を取るには、護衛が強いですよ?」

 こう言った時には頼るのが正解だ。虎の威を借るなんとやらだが。

「ええ、一寸魔が差しただけです、今はそんな気は有りませんから、ご安心を」

 ヘラヘラと笑って居るが、恐らく冗談では無いのだろう、恐らく邪魔と見れば雑談中の相手でも迷い無く首を取るタイプである。

「今なら病死で全部誤魔化せるとか思ってましたね?」

「既にこの地の領主も病死して居ますから」

 変な方向から嫌な情報が入って来た、そっかあ、色々済んでるのかあ。

 因みに、黒死病は家畜や動物の等の蚤を経由して伝染る病気である事から、一般に平民と言うか、農民等が最初の犠牲者となる病気である、故に、貴族階級は結果的に感染源とは無縁である事が多い。すなわち、やっちまいましたと言う自供に近い。

「言っておきますと、私及び、身内に何かした場合、王都が丸ごと太陽に呑まれますから」

 苦笑して脅して置く、既にEXが材料に当たる物を採掘済みである。

 直ぐに出来る事では無いが、方法はあると言う事は言って置く。

「スケールが大きく成りましたね?」

 相変わらずの苦笑で返して来る。

「何なら、地方から攻めて国力半分コースで行きますか?」

 呑まれると負けなので、脅す方向で行こう。

 因みに方法としては、警備の薄い田舎の穀倉地帯に火を着けて回るお散歩コースである。当然、実際にやる事は無い、ただその方法は有ると脅すのは大事な事だ。

 口先介入は立派な外交である。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 しばし無言で睨み合いをして。

「・・・・・・・・・・・わかりました、手を出さない事にしましょう」

 役人はそれ程残念でも無さそうに退いた、口だけなのだろうが。

「所で、この領地の運営、如何すれば立ち直ると思います? 既に農民と町民の半分が死んで居るとします」

 変な方向に話題が飛ぶ、中々エグイ条件が出て来た。

 そうか、もうそんなに死んでるのか。

「今のこの地の税率は幾らです?」

「全収穫の4割ほどですね?」

「国に治める分は?」

「全収穫の1割ですね?」

「よく領民が逃げませんね?」

「普通の領民の移動は関所で強く制限されて居ます、冒険者と行商人ぐらいしか移動できません」

「なるほど・・・・」

 日本でも昔の一般市民は関所の通行手形の手配には苦労して居たので、そう言った物はお約束であるらしい。

「税金を待ってもらう事は?」

「代わりに来年2割で良ければ、国内での発言力は下がりますが」

「発言力は要りませんね、今年の税収は諦める、作物は収穫して税として徴収するのではなく、買い上げて分配、極論無税にして領民の金回りを良くした上で、最終的にその余裕分で領民に子供を産ませて、ゆくゆくは労働力に・・・・」

 児童労働に成ると色々ギリギリラインだが、この時代では割と普通であるのでセーフと思いたい。

 後は勝手に良い評判で、労働力として移民が来て増えてくれると楽なのだが、其れがどの程度居るのか判らない。

「破産しませんか?」

「今まで搾り取ってきた分が溜まって居れば問題無いですが、うーん、通貨発行権が無いのが惜しい・・・・・」

 国債刷って日銀に買わせるお約束ムーブをかませると楽なのだが。

「代わりに関税で稼げれば良いんですけど、地場産業、若しくは領主がやって居た商売は?」

「それなら・・・・」



「所で、この領地に興味は有りませんか?」

 話題が飛んだ。

「どの方向で?」

「先程話した通り、この地の領主が病死しまして、代わりの領主を探して居るのです。如何です? 領主? やってみませんか?」

「要りません」

 真っ直ぐ返す。

「大丈夫ですよ、私の方から優秀な副官を付けますから」

 どの方向で安心なのか判らない。

(殺そうかなあと思いましたけど、其れはそうと領主を任せて見たいんです、如何です?)

 と言われても罠にしか思えない。

「純粋に依頼料増やしてくれた方が有難いですね?」

 要らんって言ってるだろうがと言う感じのニュアンスを乗せて打ち返して見る。

「ふむ、ではこれをどうぞ?」

 其の手には短剣が握られて居たが、今度のぬーさんは無反応気味に欠伸をしている事からも殺気は無いらしい。

 無造作に放って来たのを反射的に受け取る。

 ちゃんと鞘はロックされて居た。

 妙に装飾が豪華な短剣である。

「では、確かに渡しましたよ?」

 何と言うか、良い笑顔で去って行った、追いかけようにもぬーさんが上に乗っている状態なので、重くて動けない。

 確実に何か変な物押し付けられたなと思いつつ、思考で無駄に疲れたので、寝る事にした。

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