第225話 嫌がる坊主の成り上がり

「あれ? この短剣どうしたんです?」

 前回に続いてぬーさんと一緒に病室で寝ていると、アカデさんが食事を片手に様子を見に来た。

 テーブルに置いて有った、半ば強制的に何時もの役人さんが置いて行った追加報酬(?)である。

「さっき来てた役人が追加の報酬だって置いていきました」

「あの人が?」

 アカデさんが少し困り顔でその短剣を見比べる。

「ちょっと借りますよ?」

「どうぞ?」

 恐る恐ると言った感じでアカデさんが短剣に手を伸ばす。

「この紋章が付いてるんだから、本物・・・・いや、あの人が偽物持って来る筈も無いし・・・・」

 ブツブツ言いながら短剣の装飾を確認している。

「何か謂れでも?」

「この紋章は何処のだか知ってますか?」

 柄にある装飾、前足を上げたドラゴンの様な物が描かれて居た。

「いいえ?」

 あまり見た記憶は無い。

「あの土地に引き籠ってるから判らなくてもしょうがないですけど、これ、この国の王家の紋章です」

「王家?」

「当然、これ偽造したら公文書偽造の罪で酷い事に成るので、偽物では無いです」

 役人が偽物置いて行くはずも無いので当然だとは思うが。

「で、この王家のが表で、コレが裏、この領地の紋です」

 装飾が少ないのが裏側らしい。

 小麦の穂と鳥の紋だった。

「そして、確かこれを回せばこっちが外れて・・・・」

 ブツブツ言いながら短剣の柄を外す。

 短剣の茎(なかご)の部分に、文章らしい物が刻まれて居た。

「読んでみて下さい」

 コレが本体だと目の前に持って来る。

「この地の領主を任じる、民の剣として、ひいては国に尽くさん事を?」

 そうです、と言う感じにアカデさんがうなづく。

「この土地の領主を任命する時に王から下賜される、公文書的な扱いの短剣です、領主の任を押し付けられましたね?」

「うぎゃあ・・・」

 変な声しか出て来なかった。

「これと同じ様なのは、私達のギル義父様(とうさま)も持ってたはずですよ?」

 流石、こう言った事には詳しい。

「因みに、家に有るのは森と荒野の紋です」

「気が付かなかった・・・・・」

 内心で思わずぐったりと平べったくなる、元から横に成って居るので動いて居ないが・・・

「今からでも突き返して無かった事に・・・」

「出来ません、コレを返した場合、侮辱罪と言うか、不敬罪と言うか、碌な扱いをされません、あの人、これを独自裁量権の直で持ってこれるって権限がアレですけど、何者なのやら・・・」

 と成ると、聖騎士隊じゃ無く、近衛騎士団? 嫌まさか・・・・

 そんな感じでぶつぶつ言って居るが、あの人の裏権限を追いかけると怖い事に成りそうなのは解ったので、突っ込まない事にする。

「諦めて領主をやれと?」

「そんな話ですね、何やったんです?」

「知っての通りの現在進行形の疫病対策と、この人口が半分以下に成ったこの領地経営の立て直し方を聞かれて、適当に答えたら、領主をやらないかと言われた挙句に、咄嗟に断ったら、代わりにコレを半ば強制的に置いて行きました」

「はあ・・・・」

 呆れた、と言った様子でアカデさんがため息を付き。片手で頭を抱えるポーズを取る、何気に義父上と動きが似ている。

「私でも仕事押し付けたくなりますね、今回の疫病で、この領地は数年単位で税収が見込めません、それに対して貴方の知識は純粋にお金に成ります、極論宮廷学者にして飼い殺しにしても元が取れますよ」

 油断しすぎと言う事らしい。

「其処まで?」

「貴方達があの辺境領に来てから、明らかに領地の経営が上向いてます、石鹸に火薬に洗濯樽にチョコレート、私も関わりましたが抗鉛薬、今回の黒皮病特効薬の試作も、その他細かい本やら何やら、前々からあの人に目を付けられてましたから、領主の席が丁度空いたので、これ幸いと言った所でしょう」

 かなり納得されて居る、文官仕事を時々手伝って居る関係上、何気に内情に詳しい。

「殺したい半分、面白い半分と言った所らしいですけどね?」

「面白いと金になるで、結局利益に傾いたんだと思いますよ?」

 最早なりふり構って居ない様子だ。

「高く買われたと喜ぶ所でしょうか?」

 ポジティブに行きたい所だが。

「まあ、一般人的にはそうなんですけど、本来家の辺境領継ぐ筆頭候補何ですから

 義父様の心情的に何とも・・・・・」

「そうなんですよねえ・・・・・」

 何気に後継者扱いされて居たのだが、前世のアレも有ったので何処まで信じれば良いのか何とも言えなかったのだ。

「まあこっちは養子の更に婿養子ですから、血縁的にはウルザが正当後継者と言う事で、ある意味対外的には納得されるでしょうけど」

「むしろ、嫁と子供達連れて出て行く事の方が問題?」

 エリスと子供達連れて出る事の方が大問題だと思う。

「確実にそっちの方が問題に成りますね、まあ、現状あーさんに頑張ってもらえればそんなに遠くは有りませんから、ぬーさんも単独でふらっとこっちに来れる位ですし」

 知らんと言った調子で欠伸をするぬーさん、そんな扱いか。

「そんなに近いですか?」

 馬車で2時間の上かかったと思うが

「徒歩で半日かかるし、馬車でも2・3時間位、でも、あーさんなら30分かかりませんから」

「あーさん早い・・・・」

 確かに駝鳥じみた行軍速度で走って行くのは知って居たが、そうして数字に起こすとかなり早い。

「ぬーさんに関しては知りませんけどね? 最高速度分かりませんし」

 こっちも知らんと言った様子で欠伸をするぬーさん、遅くは無いだろうがかなり謎である。猫なので持久力は無さそうだが、意外と移動範囲が広いので油断は出来ない。

「まあ、コレの対の委任状持って来るまでは本決まりでは無い筈なんで、詳しい対処は後から考えましょう」

「そだね・・・・」

「先ずはご飯食べましょうか」

 そう言って、アカデさんがおかゆを食べさせようと匙を構える。

 結構時間が経って冷めて居たが、程良い程度には温く成って居た。

「はいあーん」

 声に合わせて、反射的に口を開けて受ける。

「食べるぐらいは自分で出来ますけど」

 口の中の物を飲み込んでからツッコミを入れる。

「ちょっとした遊びです、力関係違うのも楽しいって灯さんも言いますし」

 そんな事を言いながら、照れて居るのか、少し赤く成って居た。

 俎板の鯉らしく、観念する事にした。



 追伸

 領地の都市間距離は20キロ程度で考えています。

 人だと時速5キロ、馬車は時速10キロ、サラブレッドでは無い馬単独で時速60キロですが、意外と持久力少ないので其処まで早く無かったりします。あーさんのモデルの一つである駝鳥は時速60キロで一時間無補給走行出来ます。そんな感じで、あーさんはクソ早いのです、雑食系で餌代もぬーさんに比べてかなり安い為、金持ちに流すと金になるけど売りたくないに納得できるかと。

 補足すると、サラブレッドの最速は時速90キロクラスですが、5分程度が限界ですし、このペースでは本気で足を壊して死んでしまう事も有りますので、結局トータルでの一日の移動距離は60キロ程度、こうしてみると馬は其処まで早く無いのです。

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