第34話 お出かけ準備(武器屋編)

「そういえばそろそろ出来てても良い頃か?」


 まだ1週間は経っていないが近くを通るので確認しておこう。


「そういえば靴注文してましたよね、あの人は仕事早いんでしょうか?」


 灯が今更思い出したように返事をする。


「まあ、近くを通るんだし寄ってみよう。」




「おお。丁度良かった、出来上がりましたよ?」


 しっかりと出来上がった靴が飾ってあった。


「早いですね?」


「こんな立派なデザイン出されたとあっちゃ張り切りもします。」


 灯のデザインは良い刺激になったらしい。


「なるほど。履いて見ても?」


「どうぞどうぞ。」


 靴屋が飾り棚から取り出して椅子に座っている灯の足元に置く。


 どうやら履かせてくれるらしい、足を入れて紐を通し直してサイズを合わせて編み上げていく。


「履き心地はどうです?」


「あつらえたようにぴったりです」


「あつらえたんだしな」


 普通に灯がぼけたので突っ込んでおく。


「歩いた感じはどうです?」


 灯が立ち上がり店内をぐるぐると歩く。


「今のところ大丈夫ですね?」


「それは良かった。違和感出るようでしたら持ってきてください、ちゃんと調整するんで。」


「その時はお願いします、じゃあ、残りの分はこれで?」


 残りの半分をテーブルに出す。


「はい、確かに頂きました。おまけで手入れ用の油付けときます、またいらしてください。」


 靴はそのまま履いて出ることにした、まだ朝の内なので問題無いだろう。


「後は靴擦れ出ないか勝負だな。」


「治療魔法とツボ治療あるにしてもちょっと怖いですね。」


「まあ馴らさないと履けないから諦めてくれ。」


「はーい・・・」




 前回と同じように食品の朝市で果物や干し肉、塩やパン等多めに買っておく、瓢箪で作った水筒も見つけたので買って水を補充しておく。瓢箪は元の世界でも紀元前から使われている便利植物だ、この世界でも有るのか。


 野宿と言うかツエルト泊になる予定なので改めて布団用の布と寒さ除けの外套も買い、取り出しやすいように大きめの袋にひとまとめにして虚空の蔵で収納しておく。


「つくづく便利ですね。」


「まったくだ、流通革命どころじゃない。」


 物無し状態の前回よりは格段に楽である。




「そういえば武器屋も覗いておきたいんだが、どの辺?」


「武器屋はこっちですね。」


 エリスに腕をひかれ武器屋に案内される。


「いらっしゃい、どんな武器が欲しい?」


 髭の背が小さい親父が出てきた。


「俺用の槍と、この二人用の杖を。」


「手と槍を見せてもらっても?」


「はいよ。」


 槍を立てかけて手を見せてみる。店の親父が触って筋肉やらタコの様子を確認しているようだ。


「ちょっと握ってみてくれ。」


 握手の体制で握らせてみたりしている。


「大分強いな。」


「そうらしい、今のところ比較対照が少なくてわからんのだが。」


「槍は・・・よくこんなもの振り回すな・・・」


「重いのか?」


「ここらの冒険者でこの重さ振り回すバカはいねえ、柄まで金属じゃねえか、普通金属は穂先だけだ、穂先もやたら厚いし・・・」


 この槍は柄まで金属芯が入っていて木材でサンドされているのだ、


「じゃあこれか?」


 何の気なしに店の端に立てかけてあった槍を掴む。ふわっと・・


「軽い・・」


「之と比べるならここの槍は全部軽いさ。」


 苦笑いを浮かべて店の親父が言う。


「これが普通か?」


「普通だと思うぜ、裏が空いてるからちょっと振り回してみてくれ。杖はそこに置いてあるから好きに見ておいてくれ。刃はついてないから怪我はしないだろう?」


 裏側の戸を案内される。戸をくぐると広場になって入て試し振り用の武器や木人が置いてあった。


「先ずは持ってきたやつ振り回してみてくれ。」


「こうか?」


 適当な型を流してみる。


「なるほど、重さで振り回されてるわけじゃないんだな。」


「多少重くは感じるけどこの通りだ。」


「どうする?他の重い装備探すか?ハンマーやメイスならあるぞ?」


「重けりゃいいってもんじゃないだろう?」


 何故か重さメインで選ぶ流れになっている親父をたしなめる。


「重さは信頼だ。それにその筋肉とタコなら大抵のは使えるんだろう?」


「まあ何でもある程度は。」


 器用貧乏とも言う、杖術槍術は最終的にただの棒状の物として剣術や昆術も混ざるので振り回せれば実質何でもいいのだ。


「折れない武器っていうと如何しても刃が厚くなるからな、重いのはイコールだ。」


 どうやらこの親父は頑丈さと重さ信仰らしい、確かに戦場で折れたりすると心細いじゃすまないが。


「メインはこれで使うからいざという時の予備が欲しいんだ。」


「あんたなら家の店のは何でも使えるだろう、好きに選んでくれ。」


 最終的にぶん投げられた。


「ああ、そうする。」


 店に戻ると灯とエリスが杖を持ちながらあーでもない、こうでもないと話していた。


「良いのあったか?」


 二人に話しかける。


「お帰りなさい。和尚さんは?」


「何でも使えるだろうから好きに選べとさ。」


「雑ですね。」


「そっちは?」


 エリスは元から杖持ち、灯は何も持っていないので適当にゴブリンから奪ったナイフを持たせていた。


「選び方がわからないのでエリスちゃんに聞いてました。」


「完全に武器として考えなくていい、普通の杖だと思って重くないの選べばいいさ、何ならパチンコとか弓でもいいぞ?」


「それもそれで雑ですね。」


「武道の類はやってなかったんだろ?」


「普通の女子高校生に何を求めてるんですか・・」


 ちょっと拗ね気味だ。


「最低限山歩く時の補助に杖あったら便利だろうなあ程度の話だぞ?」


「其処ですか?」


 灯がキョトンとした様子で確認してくる。


「杖進めたのそれだけの意味だし、何ならナックルでもつけて殴るか?」


「極論すぎます。」


「もとから戦うの俺だけで良いから、山歩きの補助と、出来る事ならうっかり打ち漏らし出た時に少しでも時間稼いでくれれば俺がフォロー入るからって意味だからな。」


 灯は早九字出来るから出番が無いかも知れないが、咄嗟にできる選択肢は多いに越したことはない。


「わかりました、ちゃんと守ってくださいね?」


 灯は軽くため息をついてそう言って物を決めたらしく一本手に取った。


「じゃあこれで。」


「はいよ。エリスの方は何か買い替えあるか?」


「今のところはこれで十分です。」


 そう言ってゴブリンの所で回収した杖を掲げる。


「了解。あとは俺だけか。」


「之でも使ってみないか?」


 店の親父が鉄の棒を持ってきた。


「之なら折れないし曲がらない、信頼性も十分だ、おぬしなら使えるだろう?」


 本当にただの鉄の棒だった、木製の柄の部分などない太さ3センチ、1.5m程の鉄の棍棒。


「材料じゃないのか?」


「ちゃんと鍛造してある、鋳物じゃないぞ。」


 鍛造はハンマーで叩いて鍛えたもの、鋳物は型に流し込んだだけの安物である、後者はよく割れるし折れる。


「それなら大丈夫か、ちょっと試してみても?」


「ああ、好きなだけ試してくれ。」


 鉄の棒を受け取り裏庭に出て振り回してみる、体感8キロと言ったところか、確かに程よい重さ、何時もの槍より軽い位だ、サブに持っておく分には丁度良いか。


「じゃあこれもらう。これに刃をつけられるパーツかなんかあるか?」


「素直に剣を持っていけ、後で作っといてやるから。」


「作るんだったらこういうので頼む。」


 地面に十字槍の穂先を書き込む。


「はいよ、研ぎまで入れて1週間て所だな。」


「んで、あの杖入れて幾らだ?」


 灯が持っている杖を指さす。


「この剣も付けて金貨二枚だな。」


 やたらとゴツイ剣が抱き合わせで出てきた。


「作っては見たんだがこの辺の奴らはひ弱すぎて使えないんだ。在庫処分だと思って持って行ってくれ。」


 取り合えず軽く持ち上げて振ってみる、重心バランスも意外と手元側で振りやすい。


「まあ、予備はあって困るもんじゃないからいいが。」


 財布の中身も割かし余裕があるので買えるが。


「エリス判定は?」


 大物買うときは一応判定してもらう事に成っている。


「武器に使うお金ケチると死人が出るので買って良いです。」


 もっとも今の所止められた事が無いのだが。


「はいよ、じゃあこれで。」


 ギルド証から金を取り出して親父に渡す。


「毎度、じゃあ注文証だ、後で来てくれ。」


「良い物作ってくれよ?」


「誰に物言ってやがる。」


 ガハハハと言う感じに笑いながら送り出してくれた。




「さて、それじゃあ出るとするか。所で方向はどっちだ?」


 未だにこの辺の地形はわからない、前回の水源地は意外と低い上に、森が深くて地形の確認が出来なかった。


「沼側の出口はこっちです。」


 何時も通りエリスの案内で歩き出す。


「何も無ければ良いですけどね・・」


 灯が無駄なフラグを立てていた。

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