第1話 漏れなく救う仏様

坊主の行き先


 仏教における僧侶・坊主・僧正など、仏門に入ったものの死後の行き先はあの世であるのだが、あの世でも仏の教えを広げるもので、新たな旅立ちであると大々的に送り出されるものである。死は終わりではなく新たなスタートなのだ、そして仏は三千世界をあまねく見通し、水かきのある手で漏れなく救う。すなわち仏門を叩いたものは死後も派遣される宣教師(社畜)なのである。




「ん?ここに一人派遣してくれと?」


「現地の生き物が進化の過程で狂暴化してしまって、人類が明らかに劣勢になってしまったのです、このまま絶滅させるのも可哀想なので、仏教広げてもいいので助けてくださいと。」


「神の権限で動かすと地表丸ごと消えてしまうのです。」


「大々的に大人数送り付けると現地の反発もありそうですので。」


「こっそりと少人数でと、完全に一人だとちょっと可哀そうだから縁が繋がりそうな子を一人付けておこう。」


 最近の日本産の僧侶は現地に派遣しても強い力をつけても悪いことをしないのでそれほど悪影響を出さずに現地の状態を正常にしてくれるので最近評判がいいのだ。ほかの国の僧侶は結婚を禁忌としているところもあり子供を作らないこともあるが、日本はその禁忌がないので長持ちする。


 派遣者候補の書類を見る、高橋尚でおしょうか、仏門に入るために準備したような名前だ、正式に独り立ちしたわけではないが小僧の修業は大体済んでいる、僧侶の死亡スケジュールは丁度隙間が空いているので適任かな?そこそこ腕も立つようだし。死因は?霧の中で立ち往生して座ったところで窪地に溜まった二酸化炭素中毒と、体も魂も損傷はほぼないからそのまま送れるな。相手は、ちょうど同じ時間にホームに落下して電車に惹かれた女子高生が居たな、死後裁判の順番待ちの書類で丁度重なっていた、これも縁だろう。




 最初の一人で送るのだから仏の加護は少し強めに付けておこう、さあ行ってこい。

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