第0.5話 とあるゲーム

「おにい、このゲームは面白い?」

 兄の部屋に入って本棚にあるゲームを物色する、勝手知ったる他人の部屋、因みに兄は既に開き直っている段階なので、パソコンの18禁ゲームも一般向けコンシューマーゲームも一緒くたに並んでいる、私も既に突っ込まない、ハードコアな尖った物は流石に別枠で隠して居る様だが、其の類のエロ特化はシナリオが読みたいだけの私の志向とは合わないので正直どうでも良い。

 自分で性欲を処理できている限り私と関係は無い、妹物のスキダイスキとかお留守番とか出て来た時には流石に「うわあ」って成ったが、まあその辺は振れずにいた方が良いだろう。

 手に取った物は「謳われたもの」葉っぱと言うメーカーが出したケモ耳が生えた人々のお話だ「キャッチコピーが散りゆく者の子守歌」

「良い物だぞ、変にわざとらしい媚も無いし、多分泣けると思う」

 ほうほう、其れは良さそう、時には泣きたい時も有る。

「じゃあ借りるね」

 お金の無い学生の身分としては、こうして借りるゲームは貴重だ。

「はいよ」

 特に止める様子も無く勧められた、因みに私のPCはパソコンオタクでゲームマニアな兄のお下がりである、社会人に成ってお金が入るようになると、パーツが余る毎に勝手に残りのパーツが生えて来るらしい。

 お金の無い学生の身分では良く分からない衝動買い理論だ。


 手っ取り早く、インストールしてゲームを始める、シナリオ分岐するのかと思ったら一切の選択肢と分岐の無い一本道だった、結局そのシナリオだが、あらすじとしては、謎の仮面を被った男が、本来いた世界とは違う場所で目が覚め、其の世界で色々な貢献をして、人々に信頼され、何時の間にか反乱の旗印とされ、あれよあれよと言う内に国盗りと成り、更に世界の謎にかかわる自分の出生の秘密に触れ、そして・・・

 と言う、ある意味今流行りの異世界物と見ても良い様な話なのだが、とても丁寧に書かれて居て、男も女も変に媚びる事も無く活き活きと描かれていた。

 そして最後の評価だが、泣いた、ボロボロ泣いた。

 其れは反則だろうと言わんばかりに散々泣いた。


 全年齢版とアニメ版も出たので飛びついた、とても良い出来だったのだが、不思議な物足りなさがあった。

 何と言うか、エッチな部分が無いので、キャラクターの生々しさが何だか足りないと言う、自分でも良く分からない所で引っかかった。

 でも、ちゃんと朝チュンでも子供も出来て居るのでまあ良いと思う。


 後日、続編が出た、今度はお財布にも大分余裕が有ったので真っ先に自分で飛びついた。

 結果、まさかの未完で次回だった。

 あの病弱な娘から、あの体力チートな娘が出来たのは良いけど、初対面で拾った男に自分の父親の名前を付けるのは如何なのだろう?

 因みに、総評としては、やっぱり泣いた。

 しかし、腐女子としては男キャラが多くて掛け算妄想が捗るのは良いのだけど、主人公に異性に対する性欲が無さ過ぎて、逆に違和感を抱いた、でもあれだよね? 前後編だから後編で其処等辺頑張るのだよね?


 さらに後日、後編が出た、まさかの性欲無しで最後まで走っていった。

 告白されても顔を赤らめるでもなく、べたべたされても無反応、全年齢の一般ソフトだからにしても、性欲的な生々しさは一切無く、挙げ句の果てに自分の仕事は終わったと、ヒロインの誰ともくっ付かず、ふらりと居なくなった。

 お話の展開は凄く盛り上がった、凄く良い話だった、奇麗に風呂敷を広げて奇麗に畳み切った、しかしこの虚無感は何事なのか・・?

 と言うか、主人公は責任を取れ、アレだけ惚れられ、好かれておいて手を出さない方が失礼だ、描写は朝チュンだけで良いから。

 私がヒロインだったら絶対許さない、一夫多妻でも浮気でも良いから全員分責任を取らせる。

 そんな大分捻くれた謎の感想が第一だった。

 いや、女子としてこの感想が正解とも思わないので、表立っては言わないが・・・


 一瞬、一切私に触れずに私の悩みを聞くだけ聞いて、不意に居なくなってしまったあの人が思い浮かぶ、今と成っては子供っぽい只の憧れで、今逢ったらがっかりするのかもしれないけれど、こんな気持ちにした責任位は取って欲しい。



 そんな事を考えながら登校する、何時もの朝の通学列車待ちの駅のホーム、列の先頭でぼんやり待つ、後ろにもいっぱい人が並んでいる、満員電車はあまり好きでは無いが、之しか通学手段が無いので、暫くは諦めて満員電車に揺られるとしよう。


 ふぁぁあん


 警笛を鳴らして電車がホームに入って来る。


 うぁあ!

 あぶねえ! 気を付けろ!

 後ろでそんな声が聞こえたと思った所で。


 どん


 後ろから不意に押され。


 え?


 私の身体はふらりと線路側によろけて。


 足を踏み出して受け身を取ろうとして。


 踏み出した足は空を切り。


 ふわりと体が浮いて。


 直ぐ目の前に電車が有って・・・・



 其れが、その時、最後に見た物だった・・・



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