第241話 甘くしよう、何でも実験
先ずは良く挽いた小麦粉を鍋に溶かす、片栗粉が有れば話は早いのだが、この世界ではそんな精製の仕方をしているところを見た事が無いし、そもそも今回やりたいのは小麦粉を麦芽糖にする為の手順の確認だ。
因みに何時も持って歩いているのは、麦の麦芽糖では無く、米の麦芽糖、つまりお粥を麦芽酵素で分解した物なので、実は別物だ。
あっちでは米の方が安かっただけで有る。
製法的には麦の芽が出る時の酵素でデンプンを糖分に分解するので、材料は何でもいいのだ。
常温の水では小麦粉は溶けずに沈んでしまうので、火にかけて無理矢理溶かす。コレをコロイド溶液と言うのは、高校に入ってから知った。
この世界の小麦粉は少し純度が低く、全粒粉みたいに殻の部分も多少混じって居るので、この時にアク取りの要領で取り除く。
焦げ付かないよう弱火でトロミが付くまで多少煮込んだら、火を止めて多少冷まして、発芽した麦の粉を投入して一晩放置。
トロミのデンプンコロイド状態が分解されて、麦芽糖に変換されて鍋の中はサラサラ状態に戻るので、もう一度弱火で焦げ付かないように煮詰める。
ちょっと味見。
うん、甘いのでデンプンの麦芽糖分解変換成功。
ついでに何とも言えない様子でコチラを観察しているメイドさん達にも味見をさせて、何を作っているのか分からせる。
後はひたすら焦げ付かないよう弱火でコトコト煮詰めて、限界一歩手前位で火を止めて。
この辺は面倒なので、さっきからちらちら様子見している娘を捕まえて手伝わせた。
ひとまず完成と、砂糖とジャム代わりにお茶請けにしておやつタイムとしよう。
「ギリギリいっぱいでやりすぎたな?」
和尚さんが苦笑いしつつ、冷えて固まった麦芽糖のべっこう飴を器用に切り分けつつ、それぞれの口に放り込んで行く。
うっかり煮詰め過ぎて、お茶の準備をして運んでいる内に冷えて固まってしまったのだ、因みに、硬度的に叩いて砕ける程のカチカチでは無いので、本当に微妙な弾力が残ってしまい、割るにも切るにも何ともなあと言う中途半端なねちょねちょ段階だったので、切り分けるだけで一苦労だったりする。
多分私が力付くでやるとまな板事殺りかねないので、自重した次第だ。
「考えてみたら、コレマニュアル化しなくちゃ行けないんですよね?」
ちょっと遠い目をして見る。
「ある程度までで良いだろう? 料理上手が居ればきっとどうにか……」
作り方見てるのが結構居たから、見て覚えたのが居たら押しつけようと思う。
「でもコレ、本当に小麦粉から作ったんですか?」
カナデちゃんが未だに半信半疑と言う感じに聞いて来る、因みに口の中にべっこう飴が入っているので、甘さに負けて口元が緩んでいる。
「ええ、実質的に小麦だけですよ?」
えっへんと言う感じに胸を張って見せる。
「小麦畑が砂糖畑に・・・・・・」
カナデちゃんが遠い目をする、因みに、どう見ても年上に見えなかったため、自分の中ではちゃん付けで落ち着いている。
「かなり高くなりますね?」
エリスちゃんが皮算用を始めた、商人に買い叩く暇は与えない所存だ。
「酵素分解と煮詰めて精製する手間はあるけどな?」
「コスト重いですか? 確かもっと簡単な何かありませんでしたっけ? 異性化液糖?」
うろ覚え知識を適当に出してみる。
「コーンシロップか? 芋も使うか? でもデンプン溶液に塩酸流し込んで単糖類作るのは、その前段階の塩酸の調達に困るからやめれ」
考えたらしい。
「いきなり化学実験に飛びましたね? 塩酸ってどうやって作るんでしたっけ?」
そもそも麦芽糖の酵素分解も化学実験に近いけど、お祖母ちゃんに習ったことだったので、自分の中ではお菓子作りだ。
「二酸化硫黄を水に溶かして硫酸を作って、塩水を電気分解して水酸化ナトリウムにして、其れを混ぜると塩素ガスが出来るから、その塩素ガスを水に溶かすと出来る」
一歩先周りしたらしいEXが解説を入れる。クリスちゃんがしゃべる蜘蛛を見つけてギョッと目を剥いた。まあ、その蜘蛛に害はないので質問が無い限りスルー推奨です。
「あれ? 材料的には以外と集まりそうですけど、危ない?」
極めて危険ぽいことを言われた気がする。
「塩素ガスは純粋に死人が出るからな?」
トイレ掃除のアレか。何故か混ぜたがる人が一定数出てきた記憶がある。
「じゃあ今は止めときましょう」
すっぱり切り捨てて置こう。
「そもそも、この辺海が一寸遠いので、塩も割と高いですからね?」
エリスちゃんが釘を刺してくる、なるほど世知辛い。
「硫酸と塩酸ってどんなのです?」
一段落したところでアカデさんが食い付いてきた。
「酸性の液体、金属なんかは何でもかんでも溶けますね?」
確か金以外は溶けたはずだ。
「元の材料は意外と簡単そうなんですか?」
矢次はやに質問が続いてくる。
「硫黄と水と塩、後は電極材料、電気の元として調達が早そうなのは銅と鉄と果物……」
「ほうほう・・・・・・」
「電池なら塩と炭と紙と金属でも行けるな?」
和尚さんも乗ってくる。
「後で試したいのでお付き合いお願いします」
アカデさんが実験という名のデートに誘う、相変わらず色気も何も無い誘い文句であった。
追伸
内陸地では塩が高いです、だから獲物を仕留めたとき、血液は出来れば捨てずに血餅とかブラッドソーセージ的なのとかすると塩分補給に結構喜ばれたりします。
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