第215話 培養の苦労

 一番サンプル、失敗

 二番サンプル、失敗

 三番サンプル、失敗

 ・・・・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 先程からやって居るのは、ペスト菌を殺菌する為の放線菌の選定である、ペストの殺菌するだけなら酢なりアルコールなり日光なり有る訳だが、人の体内に居る菌を殺す場合、人体に害の無い物で作る必要が有る、具体的には、都合良く菌類だけ殺す物質である、残念ながら都合良く人体だけ殺す物質の方が作り易いのが辛い所。

 百番サンプル、失敗

 子機を総動員で夫々放線菌をある程度培養して、顕微鏡で分類分けして、予めペスト菌を培養した培地に放り込む、サンプルの数字は使った放線菌の培養株の種類の数である、放線菌は分類分けされていない物も含めて種類が多すぎるのだ、一握りの土から数十種類が検出されるのはざらで、形状による分類をしても、突然変異的に培養株毎の性質が全く違う別物が沸いて出るのはお約束。

 和尚が候補株の形状を数種類、正確にスケッチしていたが、それぞれの培養では望んだ効果と成らなかった。

 和尚達が前回鉛を食う生き物を探した時の場合は、採取地点がよっぽどよかったのか、運が良かったのか何なのかと言う状態で有る、一定量以上で性質が変わる場合と言うか、対象に対する毒性が弱く一定以上じゃ無いと効果が無いのも有るので、弱いのなら変異若しくは別種を狙うのがお約束では有るが、最終的に培養量は確保しないといけない、少しでも効果がありそうな物をコンピュータとしての予測演算機能である程度絞って居るが、其れでもその性質及び形質を全て網羅できるわけではないし。微妙に元の世界のデータと食い違う物も多い。やはり最終的にトライアンドエラーでデータを集めろと言う事に成る。

 和尚達が私を使う為に大量の金属を交渉材料に使った甲斐は有ったと言うか、確実にこの作業は人の手だけでは間に合わない、彼等が時間を稼いでいる間に私が演算しながら文字通り不眠不休で培養と選定を続ける。

 一千番サンプル、成功。

 よし・・・見つけた・・・

 サンプル培養タイプ、交じりのお化け菌?

 何と何が混ざった?

 固定できるか?

 ・・・・・・

 混ざった種類は、例の候補全てが混ざったサンプルだった・・・・

 ある意味合ってはいたのだが・・・混ざった事による突然変異株? 判るかそんなもん・・・・

 だが見つけただけでは終わらない、これを培養した上で精製して薬の形にしないと使えないし、もっと良い性質の有る物が居る可能性も有るので別種の培養実験も続ける。

 その後もトライアンドエラーを続け、ある程度絞り込みをして、薬をどうにか形にする、待たせた、殺菌剤の新薬サンプルだ、誰に使うかは任せる。

 因みに、速攻で行きたいのなら注射か点滴で、安全策を取りたいのなら飲み薬として使ってくれ、座薬なら中間だ。

 和尚達にプロトタイプの薬品を渡す、培地実験のみで動物実験も治験も何も済んで居ない、緊急避難だとしても自分が元居た世界と時代では確実に非難される人体実験ネタだ、死人が出ない事を願うか。




追伸

 尚、余談としては、一般的に培地で菌を培養すると、それぞれ単一種類の群れ、所謂コロニーを形成して、他の菌と殺し合ったりして拮抗しますが、交じりのお化けと成ると、何故か仲良く混ざったまま増殖します、一般的には失敗サンプルです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る