第263話 子供達と芋虫
「もう生えてる……」
翌朝、水やりに庭に出たところ、新芽が生えて青々と生えてもさもさに成った枝達が発生していた。
「もう苗木として植え替えできそうな元気の良さだ」
実際は未だ植え替えには早いと思うので、もうちょっと様子を見たい所だ。
「ちょっとやり過ぎ感がありますね、私らが昨日色々やった意味あったんでしょうか?」
灯がぼやく、昨日の枝の処理は何だかんだで総出で小一時間かかった作業だが、こんなに早く活着するのなら手を入れる必要は無かったんじゃないかと思いたくなる。
「一番枯れやすい時期を飛ばせたなら上出来だし、綺麗な苗木になったんだから効果あったんだろう」
「まあ、そうなんですけどね?」
「養蚕担当、馬鳴菩薩(ぼみょうぼさつ)の真言にしても、大分張り切ってくれたみたいだな?」
まあ、直ぐには使えないので、今回分の餌の確保は別件として必要なわけだが。
子供達と孤児達視点
シャリシャリシャリシャリ
教会に併設された孤児院にて、領主様達から預かった巨大芋虫が葉っぱを一心不乱に囓っている。
「もう無いよ?」
先程山ほど採ってきた葉っぱがもう無くなっている。
「次採ってこなきゃ」
コレを飢えさせないように、餌を途切れなく与えるようにと言われているが、やたらと餌を食べるため、餌の確保が大変なのだ。
「採ってきたよ」
餌の葉っぱ自体は其処ら中に生えている、ついでにこの時期は甘くて黒い木の実も付いているので、獲りに行ったら役得として、その実を食べながら帰ってくる、口元を木の実の汁で紫色に染めて帰ってくるので丸わかりだ。
しゃきんしゃきん
葉っぱを枝から切り離して、芋虫に与える、この芋虫はやたらと大食いだ、こんな手間のかかることしないで、そのまま食べないのか? と思ったが、何やら領主様はお考えがあるらしいし、この仕事の対価として結構な金額を寄付していってくれたので、この芋虫を食べなくてもどうにかなる位に孤児院の財政は潤沢だ、今は言われたとおりにしていこう。
監視の目もあることだし?
物静かに芋虫を観察して絵を描いている領主様の娘、イリス様をちらっと見る、未だ子供だが、独特の気品が有って、今の時点でも将来が楽しみな美人さんだ、身分的にあり得ないのだが、時々この孤児院ではイリス様とヒカリ様が自分達と遊んでいたりするのだ、最初は大騒ぎだったが、今は皆慣れてしまって騒ぎにはならない。
慣れちゃ行けない気もするが、領主様も来たりするので、最早驚かない。
イリス視点
(でもコレ、本当に名産になるのかな?)
巨大芋虫をスケッチしつつ内心で首をかしげるが、御父様が言うことだし、間違いは無いのだろう。
私はアカデ母さんに言われたとおり、色々観察して記録していくのが仕事だ、食べた量や、脱皮の回数、脱皮の度に変化する身体の模様、次の脱皮にかかる日数、糸を吐き始める時期と、そのときの動き、色々とみるところがあるらしいのだ、悪戯で御父様の机に芋虫を仕込んだ結果としては、まあ大した事無い労働である。
餌が切れると頭を持ち上げてぼんやりしている。
此奴らは外に居るときは自力であっちこっちに移動して餌を探しているはずだけど、捕まえて餌をやっている限り、自分で餌を探して歩く様子はない、そもそも逃げようとする様子もない、生き物としては何ともやる気が無い。
脱皮の直前に頭を上げて止まっていたりするとき以外はずーっと食べている。
シャリシャリシャリシャリ
この咀嚼音(そしゃく)はもう耳に響いて離れない。
あれ? 脱皮した? 今度の模様はどんな感じ?
ちょっとした変化があると記録するのも結構楽しい。
「ただいま~いっぱい採ってきたよ~」
ヒカリ姉が他の子達やぬーさんと共に籠と両手いっぱいに餌用の桑の木の枝を採って帰って来た、頭にはEXの百足型ヘアピンが付いている。
私のは蜘蛛型のヘアピンだ、金色だけおそろいだけど、金ではなく真鍮(しんちゅう)系らしい。
「じゃあ次お願い」
そう言って葉っぱと枝の処理を始める、待っていたという様子で次の部隊が飛び出していった、外回り組は甘い木の実が食べられるので役得と人気らしい。
シャキンシャキン
葉っぱを落として枝の形を整える、苗木を作るのに色々と手間がかかるのだ。
因みに、ぬーさんがついて行ってくれるヒカリ姉の隊は山の奥でも領地の外でも好き勝手歩けるため、ちょっと大回りになっている。
ヒカリ姉は地図を書き込み、何処にどれだけ生えていたのかを記録している、後々苗木が育てば外回りは要らなくなるかもしれないけど、暫くは外で採取しなければいけないので、色々記録は大事なのだ。
そんなこんなで数週間後、一回り大きくなったのが、飴色半透明になり、糸を吐き始めると、逆に縮み始めた。
「幼虫より繭が小さい?」
中々不思議な生き物だった。
ついでに、あーさんの排泄物から木の実の種がごっそり発芽して凄いことに成っていた。
追伸
書き忘れてましたが、黒皮病の時に両親が亡くなって居る類いの家が結構あり、この土地では孤児がやたらと増えてます。当然のように和尚達は甘ちゃんなので、結構潤沢に孤児院に出資してます。
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