第264話 繭の扱い方

 結局、育て始めた時点でかなりの大きさだった巨大クワコは、育て始めてから一ヶ月程で無事、繭(まゆ)となった、子供達の労働に感謝である。

 代わりとしては何だが、孤児院では子供達全員に読み書き算盤(そろばん)を教えていたりするし、運営資金もかなり出しているので、対価としては悪くないはずだ。

 ヒカリ達が得意気に報告してきたので、改めて観察することにした。

 しかし、繭に成るときには終令幼虫の半分ほどの大きさに縮むらしい、終礼幼虫は大人の頭ほどの大きさが有ったが、一回り小さい子供の頭ぐらいだ、どっちにしてもかなりの量が取れそうである。

 まあ、そんな事は置いておいて、今はこの繭をどうするかだ。

 白一色ではない、淡い緑や青、黄色やピンクと、白銀色に黄金色と、色とりどりの繭玉が出来上がっていた。

「思ったよりカラフルな……」

 灯が予想外と呟いた。

「そうだよな、ワイルドシルクが白一色のハズもないわな?」

 同種であろうと色の固定はされていない様子だ。

「この色って色落ちしないんでしょうか?」

 灯が少し困り気味に呟いた。

「元からの色は抜けないらしいですけど、基本的に染める物ですし、色によっては高かったり安かったりです」

 エリスがコレが高いのだと、幾つかの繭を手に掲げた、金色と銀色、純白と、納得のチョイスだ。

「糸を採る前提ならこのタイミングで茹でちゃうわけだが……」

 繭になった直後は中で未だ糸を吐いているため、ある程度時間を置いて、羽化直前に茹でるのだ、繭になってからのチキンレース的に時間をカウントする必要がある。

「ちょっとかわいそうなので、待ってあげましょう?」

 灯が複雑そうな顔をする。

「まあ、初回なんだから累代するためにも羽化してから茹でるけどな?」

 色合わせで、色分け累代もしなくてはいけない、異世界まで来て優勢劣勢の累代分離する羽目になりそうだ。麦に米と来て今度は昆虫である、騒動以上に使う場面が多かった。

「茹でるの自体は確定なんですね?」

「空の繭の方だけだから安心するんだ」

 今回の分の命を取るわけではないので、割と優しいと思う。

 脱皮の時に自分の繭を消化液と自分の歯で切り開いて出てくるタイプなのか、消化液だけで糸同士の接着を程々に解して出てくるタイプなのかで最終的な扱いが変わってくるので、出来れば後者であって欲しい所だ。


 羽化直後に排泄する蛾尿で汚れると洗浄漂白も大変なので、最高品質で採る場合は人の手で茹でないと行けないと思われるので、そこら辺はしょうが無いわけだが。



 その後、暫く経過して。

「無事羽化したな?」

 ソレなりに立派な羽を持つ蛾が出てきた、どうやら成虫は白一色ではなく、羽に目が見える薄青色、柄的にはオオミズアオとヤママユを足して二で割ったっぽい生き物だ。

「お蚕さまじゃないじゃい見た目ですね?」

 シルクワームだから糸吐く時点で間違えていない訳だが、お蚕様とはちょっと違う、完全家畜化されたカイコガの小さく縮れた羽なんて事は無い飛べないわけでも無い、飛ばれても困るので、籠の中で飼い殺しだ、尿は繭にかかっていないので一先ずセーフとしよう。

「糸切らずに出てきてるぽいか?」

「見ただけじゃわかんないんですよね?」

 繭には巨大な穴が開いていた。

「でも、こうしてみると蛾も意外と可愛いんですよね……?」

 納得行ってない様子で灯が呟く、羽化した成虫段階の蛾は、前身が独特の羽毛のような細かいもふもふの毛で覆われていて、一種の毛玉の様な、独特の愛嬌がある姿をしていた。

「口がない種族なのか、飲まず喰わずで何処まで持つのやら?」

 こいつに口はなかった、蝶や蛾の口の部分にあるクルクルストローが付いていない、昆虫界の成虫は交尾しかすることがないと言う割り切り仕様は凄いと思う。

「お蚕様は餌食べないって言いますけど、アレ品種改良的なのじゃないんですか?」

 灯が首をかしげる。

「いや、コイツらは元からだ、向こうのも品種改良で変わったのは、クシャクシャの羽で飛ばなくなったり、足の力が弱くなって枝から落ちる様になっただけで、口がないのは元からなんだ」

「中々不思議な……」

「このペースだと年一ぐらいの発生かな?」

 捕まえてから繭に成るまで一ヶ月、繭から羽化まで更に一ヶ月近くかかっている、大きいから時間がかかるのは当然だが、成長速度を考えるとワンシーズン、一年で二週目三週目行けるかはかなり怪しい。

「成虫越冬しないと卵産まない変態使用でない事を祈ろう」

「口無いのに冬越せるんですか?」

「分からん、向こうでも寝てれば良いとかよく分からん言い訳で成虫越冬する変態昆虫は居たからな?」

 卵が越冬前提の休眠卵しか産まない可能性なんかもある。その時は卵を氷室に放り込んで保管となる、昆虫世界は千差万別だ。

「次の卵から孵化して二週目するまで分からんね?」

 所詮は似ているだけで初見の生き物なのだ、基本的に何も分からないに等しい。

「卵から羽化まで、どっちにしても、もう一週かな?」

 最速で孵化することを皮算用しているが。今回は途中からなので、頭から通しで見てみないと分からないのだ。

「育成期間、二週目、秋までで間に合えば良いですね?」

 餌に使っている葉っぱ自体、落葉するのかどうかも分からないので、観察は大事だ。

 気温室温が多少下がっても餌だけで行けるのなら、ガラス温室で管理するのもアリだが、まあ色々試してである。


 余談

 こう言った物で虚空菩薩のアカシックレコード引っ張り出すのは野暮だと思っている類いなので、先ずはやってみる質です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る