第147話 少女とリハビリ(少女視点)

「じゃあ、ちょっと脱がせて先ずはうつ伏せでお願い。一通り解して針使うから。」

 そう言うと、何かを小さくつぶやく、何もない所から小箱を取り出した、蓋を開けると、裁縫針が入って居た、魔法だろうか?

 エリスさんは蝋燭を近くに持ってきて、火をつけている。

 私は灯さんに脱がされている、下着も何も着けていなかったので裸だ。そのままベッドの上にうつ伏せで寝かされた。

 まるっきりの初対面で合ったその日に一糸纏わぬ裸を見られていると言うのも不思議だが、3人とも手馴れている様子なので、恥ずかしいと感じる方が可笑しいと思えるから不思議だ、そもそもこの自分でぞっとするような痩せた体ではそういう対象には見えないだろう。

「完全に全裸じゃなくても良かったんだが・・・・」

「クリスさん下着付けてませんでしたからね、上脱がせるとそれだけで全裸です、まあ、当人も気にしてないようですし、そのままどうぞ。」

 和尚さんが少し困り気味に突っ込みを入れたが、灯さんに打ち返されている。

「あの、大丈夫なので、お願いします。」

 正直、恥ずかしいよりはこの身体が動くようになるかもしれないと言う希望にしがみ付くのに必死なので、其処の葛藤は邪魔だったりする。そもそもずーっとゴブリンの群れの中で裸同然だったので、その感覚は今更と言う感じに麻痺してしまっている、この感覚は戻るのだろうか?

「じゃあ、説明、枷と縄で長時間拘束されてたから、神経と血管の圧迫、筋肉と関節が固まって動きが悪く成っているだけのはず、骨折系じゃ無ければすぐ治るから安心して。」

 そう言って、和尚さんが首と肩に触れた。軽くさすられ、揉み解され、段々と他の場所に手が移動して行く。

「ああ、大体見立て通り、骨系じゃ無くて助かった・・・」

 そんな安堵の声が聞こえた。

 殆ど軽く触れられているだけなのに、私の身体が不思議な反応を返して、ごきごきと異音を立てながら骨の位置が変わって行く。いったい何をされているのだろう?

「針指すんで、痛かったら言ってください。」

 そう言うと、針を蝋燭の火で炙って軽く冷やしてから背中に刺して行くらしい、見えないので想像でしかないのだが、何の感触も無い、私は既に夢うつつで、私に触れてくれるその手の温かさがただ有難くて、気が付くと眠ってしまっていた。


 目を開けると、あの人たちは居なかった、服もしっかり着ている、食べた後の食器も無い、蝋燭も元の位置だ、先程まで私が見ていた光景は只の夢だったのではないかと思い、内心泣きたくなる、もしかして動けないと言う事で見捨てられた?思わず身体を起こし、起こし?

 するりと、動く事が当然だと言う様子で、今まで言う事を聞かなかった身体が、素直に言う事を聞いて上半身が起き上がった。まさかと思い、手も動かしてみる、にぎにぎ、ぐーぱーぐーぱーと、動く、足も動く、先程までまともに感触が無かった手足が動く、あの拘束される前、ゴブリンに捕まる前までとは行かないが、確かに自分で動ける、其れがこれほどうれしいと思わなかった。


 思わず歩いて見ようとベッドから降りる、スリッパが置いて有ったので、其れを履き、立ち上がり、歩こうとした処で、流石にいきなりは無理が有ったのか、足がもつれ、其のままろくに受け身も取れずに床に倒れ込んだ。

 ドタン

 と、大きな音が鳴った。


「おや、起きましたか?もう動けます?」

 神父さんが音を聞きつけて様子を見に来てくれた様だ。

「すいません。」

「立ち上がれますか?」

 そう言って手を差し出してくれた、その手を握りしめて立ち上がる、その手も暖かい手だった、その神父様の手は、畑仕事もしているのか、意外と節くれだった働く手だった。

「有り難うございます。」

 助けられてベットのふちに座る。

「あの方々は如何でした?立派な人達ですよ?」

「あの人達は実在して居るんですよね?私の幸せな夢や妄想ではないんですよね?」

 思わずそう聞いた、神父様は一瞬きょとんとした様子だったが、納得したのか、優しい笑みを浮かべた。

「勿論、ちゃんと実在して居ます、貴方の体調が良くて、貴方があの方々に身請けを望んだ場合は其のまま引き取る予定だったようですが、未だ本調子では無い様なので気を使って本日は帰っただけですよ。」

 どうやら只の幸せな夢では無い様だ、その言葉に安堵する。

「では、あの方々にお世話に成っても良いのですね?」

「勿論です、貴方が何方を選んでも私は祝福しますよ。」

 優しい笑みを浮かべて答えてくれる。

「ですが、今はその体を治すのが先ですね、歩けるようになったら、改めてあの方々の元に行きましょう、あの方々の家でも丁度人出が欲しい頃です、きっと忙しく成って居ますからね。」

「はい。」

「所で、御飯とトイレは大丈夫ですか?」

 そう言われて、未だにトイレに言って居ない事に気が付いた、お腹の中がパンパンだ・・

「すいません、トイレは何処に?」

「はい、此方です。」

 ゴブリンに捕まって居る間は全て垂れ流しだった、ゴブリンは意外と奇麗好きなのか、ある程度掃除をするのだが、やはり色々臭かった、お風呂に入れないのも辛かった。動けなかったから身体も痛かった。そんな事を考えて、ふと怖い事に気が付いた。

「私、臭く無いですか?汚れてないですか?」

「助け出されて運び込まれた日にお風呂に入れて有りますから、今は大丈夫です。」

 何て事は無いと言う様子で笑う、運び込まれた日は臭かったのか。内心恥かしいが、あの時は殆ど意識な無かったので色々知らない事にしよう。

「此処です、困ったら呼んで下さい、私で気兼ねするのなら女の子もいますので大丈夫です。」

 無事トイレまで肩を貸してもらい辿り着く、後は一人で行って来いと促される、そうだ、色々助けられているが、立ち上がるのに手を貸されて、歩くのに肩を貸されたりもしているが、先ずは一人でトイレに行けなくては、人として生きる上での大前提だ、頑張らなくては。

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